pulse desensitization(パルス感度抑圧)

パルス波形測定に関する翻訳で、pulse desensitization(パルス感度抑圧)という言葉がよく出てくる(例えば、パルスドレーダー信号の測定のp7)。

時間領域で、振幅がA、パルス幅τの矩形パルスが繰り返し幅(パルス周期)Tで繰り返される周期パルスには、周期T(周波数1/T)の基本波(メインローブ、搬送波)以外に、高調波(サイドローブ、側波帯)が含まれている(周期パルスをフーリエ変換するとわかる。例えば、ここを参照)。したがって、スペクトラム・アナライザを使用して周波数領域でこの信号を測定すると、パルスのエネルギーがメインローブ以外のサイドローブに分散されるので、振幅がA、周期Tの正弦波(搬送波)に比べて、周期パルスのメインローブの振幅が小さくなる。これを、パルス感度抑圧と呼んでいる。

時間領域で、振幅がA、パルス幅τの矩形パルスが繰り返し幅(パルス周期)Tで繰り返される周期パルスをフーリエ変換することにより、メインローブの振幅がA(τ/T)と求まる。これと周期Tの正弦波の振幅Aとの比(τ/T)を対数で表した

20log(τ/T)

は「パルス感度抑圧係数」と呼ばれている。

パルス感度抑圧については、以下を参照

Agilentスペクトラム・アナライザ・シリーズ Application Note 150-2のp8~p9

DTF

ハンドヘルド・アナライザに関する翻訳に、DTFという言葉がよく出てくる(例えば、FieldFoxハンドヘルド・アナライザのp3)。DTFは、Distance To Faultの略で、「障害位置検出」と訳されることが多い。

携帯電話の基地局のアンテナは高い塔やビルの上にある場合が多く、送信機とアンテナ間のケーブルは、風雨にさらされ温度/湿度の極端な変化を受けるので劣化しやすい。DTF測定はこのようなアンテナ/ケーブルの障害の調査に使用されることが多い。

アンテナが高い塔の上にある場合は、送信機の出力端子とアンテナの入力端子を接続するケーブルを取り外して、ケーブルの両端で測定するのが難しいので、送信機と接続する側のケーブル端から周波数掃引信号を入力して、ケーブルの途中の劣化箇所(ケーブルの極端な曲がりや亀裂、コネクタの接続不良など)でのインピーダンスの変化に起因する反射波が、反射係数VSWR、リターンロス)として測定される。

得られた反射係数対周波数の測定結果を逆フーリエ変換することにより、時間に対する振幅特性が得られるので、その振幅のピーク位置から、ケーブル内の信号の伝搬速度がわかっていれば、劣化箇所の位置(ケーブル端からの距離)を特定できる。これがDTF測定である。

DTFについては、以下を参照

Techniques for Time Domain Measurements(英語pdf)

Volterra series(Volterra級数)

無線通信のパワーアンプ測定/シミュレーションに関する翻訳で、Volterra series(Volterra級数)という言葉がよく出てくる(例えば、パワーアンプ・テスト用 Signal Studio N7614Bのp2)。

携帯電話やスマートフォンなどのモバイル無線機器の基地局でされているパワーアンプは、高い電力変換効率と同時に隣接チャネルへの不要な歪み成分の漏洩を防ぐために高い線形性が求められる。このために、デジタル・プリディストーションと呼ばれる手法が用いられている。デジタル・プリディストーションでは、通常、パワーアンプに入力される信号の瞬時電力に基づいて、歪み補償テーブルを参照してパワーアンプの非線形特性の逆特性をパワーアンプ入力の直前の信号に適用して、パワーアンプの入力信号と出力信号の関係を線形化する。しかし、パワーアンプには、瞬時電力に基づいた歪みだけでなく、メモリ効果と呼ばれる歪み(過去の入力信号の履歴に依存する歪み)が存在する。このメモリ効果による歪みを打ち消すためには、パワーアンプの入力信号と出力信号の間のメモリ効果に起因した非線形性をモデル化する必要があり、その手法の内の1つとしてVolterra級数展開と呼ばれるものがある。これは、パワーアンプ内の素子や回路などの物理/電気特性の詳細が分からなくても、メモリ効果が含まれる非線形性を表わすことのできる数学的なモデルであるが、正確なモデルにするためには、級数の次数が大きくなり、その係数の決定に時間がかかったり、逆特性の適用の際に計算コストがかかるという欠点がある。

Volterra級数展開は、線形性(重ね合わせの原理が成り立つ)、時不変性(時刻が異なっても入力と出力の関係が同じ)、因果律(時刻nにおけるシステムの出力y[n]は、過去の入力x[n]、x[n-1]、…のみに依存、メモリ効果あり)を満たすシステムに対する畳み込み演算を、以下のように非線形システムに対して拡張したものである。

メモリ効果なしの線形システム(ここでは線形増幅器)では、出力信号y(t)は、入力信号の瞬時値x(t)のみに依存し、リニア利得(比例係数)hを用いて、以下のように表される。

y(t)=h・x(t)、・は掛け算を表わす記号 (1)

メモリ効果ありの線形増幅器では、出力信号y(t)は、過去(0≦τ≦t)の入力x(t-τ)のすべてに、インパルス応答である重み関数h(τ)を掛けて足し合わせること(畳み込み積分すること)により、以下のように表される。

y(t)=∫h(τ)x(t-τ)dτ (2)

メモリ効果なしの非線形増幅器では、出力信号y(t)は、(1)式を拡張して、以下のようにTaylor級数展開で表される。

y(t)=h1・x(t)+h2・x(t)^2+…+hn・x(t)^n、^は累乗を表わす記号

メモリ効果ありの非線形増幅器では、出力信号y(t)は、(2)式を拡張して、以下のようにVolterra級数展開で表される。

y(t)=∫h1(τ)x(t-τ1)dτ1+∫∫h2(τ1、τ2)x(t-τ1)x(t-τ2)dτ1dτ2+…+
   ∫…∫hn(τ1、τ2、…τn)x(t-τ1)x(t-τ2)…x(t-τn)dτ1dτ2…dτn

Volterra級数については、以下を参照。

Volterra Series:Introduction & Application(英語pdf)