AC電流/電圧測定に関する翻訳で、true rms(真の実効値)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight 3458Aマルチメータのp1)。
交流(AC)の瞬時電圧値は、時間とともに変化している。例えば、一般家庭で使用されているAC電源コンセントの瞬時電圧は、周波数60Hzまたは50Hzで-141Vと+141Vの間を行ったり来たりしている。これを何ボルトですか?と問われると答えに窮するはずだが、100Vであることはご存知のはずだ。これが実効値なのである。すなわち、抵抗体に交流を流したときに抵抗体で発生する熱量(電力消費)が、同じ抵抗体に直流(電圧値は時間に対して一定)を流したときに発生する熱量(電力消費)と等しくなる、直流電圧値が交流の実効値なのである。
AC電圧の実効値を計算で求めるには、
1. ACの瞬時電圧値(Vac(t))で瞬時電力値(Vac(t)^2/R)を表し、これを交流の1サイクル(T秒)に渡って積分(∫(Vac(t)^2/R)dt)する。これは、抵抗RでT秒間に消費される電力である。
2. 上の積分は、瞬時電圧値(Vac(t))の2乗平均((Vac(0)^2+Vac(⊿t)^2+・・・+Vac(n⊿t)^2)/n)/R)Tを計算することと同じである。
3. 2.の値が、実効値Vrms(すなわち、直流電圧Vrms)を抵抗RにT秒間印加したときに抵抗Rで消費される電力(Vrms^2/R)Tに等しいということが、Vrmsの定義なので、実効値Vrms = √((Vac(0)^2+Vac(⊿t)^2+・・・+Vac(n⊿t)^2)/n))となる。
上記の計算のように、2乗(square)したものの平均(mean)を求め、それの平方根(root)をとることから、実効値はrms(root mean square)値とも呼ばれる。
平均値応答型のデジタル・マルチメータでは、交流を整流回路に通して波形のマイナスの部分をプラスに反転し、フィルタに通す(積分する)ことにより平均値を求め、正弦波の波形率(平均値と実効値の比。ピーク値と実効値の比は波高率(クレスト・ファクト)と呼ばれる)、1.11を掛けて実効値を表示している。この方式では、入力信号が正弦波の場合にしか正確な実効値が得られない(正弦波以外の三角波や矩形波、高調波やノイズが重畳された歪みのある正弦波では、波形率は1.11ではないから)。
これに対して、真の実効値型デジタル・マルチメータには、熱電対を用いて入力交流波形と等価な熱起電力(直流電圧)を測定する方式、ダイオードの電圧-電流の2乗特性を利用する方式、交流をサンプリングして上記(1. ~ 3.)の計算で求める方式があり、入力が正弦波に制限されることなく、実効値が得られる。入力値が正弦波に制限されないので、真の実効値型と呼ばれる。
実効値については、以下を参照。
交流の電力
デジタルマルチメータの真の実効値型と平均値応答型の違いは何ですか?
DMMを使用してより良い実効値測定を行うためのヒント