DANL(表示平均雑音レベル)

スペクトラム・アナライザに関する翻訳で、DANL(表示平均雑音レベル)という言葉がよく出てくる(例えば、スペクトラム・アナライザ測定を成功させる8つのヒントのp3)。DANLは、displayed average noise levelの省略形で、表示平均ノイズ・レベルとも訳される。

DANL(表示平均雑音レベル)とは、スペクトラム・アナライザのディスプレイ上に表示されるノイズフロアのレベルで、測定可能な最小信号レベル(感度)を表す。このノイズフロア・レベルは、スペクトラム・アナライザのRBW(分解能帯域幅)により変化するので、RMBの値とともにその仕様値が示される。ノイズフロアのレベルの下限は、自然界に必ず存在する熱雑音(kTB雑音)により制限され、理論限界値は-174 dBm/Hz(T=290 K)である。

スペクトラム・アナライザのダイナミック・レンジ、DANL、位相雑音、内部歪みの関係については、以下を参照。

RF/マイクロ波スペクトラム・アナライザのダイナミック・レンジの最適化

convolution(畳み込み)

回路シミュレーションに関する翻訳で、convolution(畳み込み)という言葉がよく出てくる(例えば、IBIS AMIチャネル・シミュレーション・フローを用いたSERDESデザインについてのp4)。

回路のインパルス応答を測定するだけで、あらゆる入力信号に対する応答(出力信号)が「畳み込み演算」により求めることができる。
コンボリューション1
ある系に、入力信号x[t]を印加したときの出力信号y[t]を考える。この系は、線形性(重ね合わせの原理が成り立つ)、時不変性(時刻が異なっても入力と出力の関係が同じ)、因果律を満たす(時刻nにおけるシステムの出力y[n]は、過去の入力x[n]、x[n-1]、…のみに依存)とする。
コンボリューション2
この系に、インパルス関数δ(n)[n=0のときδ(n)=1、n≠0のときδ(n)=0となる関数]を入力したときの出力(インパルス応答関数)をh(n)とすると、y[t]=x[t]h[0]+x[t-1]h[1]+…となる。これを、離散系のたたみ込み演算(コンボリューション)という(図参照)。

このような系では、インパルス関数δ[n]の応答h[n]を測定すれば、上の式から、任意の入力x[t]に対する出力y[t]が得られる。連続系では、上の離散系のたたみ込み演算を連続化して、図のような積分表示となる。

コンボリューション3

畳み込み演算の簡単な説明については、以下を参照

たたみこみ(合成積)

spurious free dynamic range(スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジ)

スペクトラム・アナライザやデジタイザに関する翻訳で、spurious free dynamic range(スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジ))という言葉がよく出てくる(例えば、PXA Xシリーズ シグナル・アナライザ N9030Aのp1)。スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジは、spurious free dynamic rangeの頭文字をとってSFDRと略されることもある。

スプリアスとは、周波数軸上の目的の信号成分(基本波)以外の不要な信号成分のことで、高調波スプリアス(基本波の高調波成分)と非高調波スプリアス(電源やCPUクロックに起因する基本波と整数比の関係にない成分や相互変調歪み成分)がある。

スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジとは、周波数軸上の目的の信号成分(基本波)と最大のスプリアス成分との差をdBで表したもので、「スプリアスの影響を受けないダイナミック・レンジ」という意味である。

スプリアスについては、以下を参照。

㈱NF回路設計ブロックのホームページ > 技術情報 > 技術用語集スプリアス

スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジについては、以下を参照。

SNRとSFDR

common mode rejection ratio(コモン・モード除去比)

オシロスコープのプローブに関する翻訳で、common mode rejection ratio(コモン・モード除去比)という言葉がよく出てくる(例えば、より良いオシロスコープ・プロービングのための8つのヒントのp8)。コモン・モード除去比は、common mode rejection ratioの頭文字をとってCMRRと略されることもある。

差動増幅器やデジタル・マルチメータやオシロスコープの2つの入力(+と-、HiとLo)に共通に加わる(同じ位相で重畳される)ノイズは、コモン・モード・ノイズと呼ばれる。このノイズに起因する出力信号の誤差がどの程度小さいか(どの程度除去できるか)を表す指標がコモン・モード除去比である。コモン・モード・ノイズ電圧をEn、コモン・モード・ノイズに起因する出力(測定)電圧誤差を⊿Eoutとすると、CMRR = 20 log(En/⊿Eout)で表され、CMRRが大きほどコモン・モード・ノイズによる影響を受けにくい。また、ノイズが同じ位相で重畳されることから、コモン・モード除去比は同相信号除去比と呼ばれることもある。

差動増幅器やデジタル・マルチメータやオシロスコープの2つの入力(+と-、HiとLo)に対して逆向きに流れるノイズは、ノーマル・モード・ノイズと呼ばれる。伝送したい信号もノーマル・モードなので、一般にこのノイズの除去は困難である。

コモン・モード・ノイズとノーマル・モード・ノイズについては、以下を参照。

慶應義塾大学 環境共生・安全システムデザイン教育研究センターの牧野泰才氏のページノイズと計装アンプ

横河メータ&インスツルメンツのホームページ > 技術情報 > 計測豆知識・技術レポート測定器の正しい使い方入門 ディジタル・マルチメータの使い方の測定法と使用上の注意

true rms(真の実効値)

AC電流/電圧測定に関する翻訳で、true rms(真の実効値)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight 3458Aマルチメータのp1)。

交流(AC)の瞬時電圧値は、時間とともに変化している。例えば、一般家庭で使用されているAC電源コンセントの瞬時電圧は、周波数60Hzまたは50Hzで-141Vと+141Vの間を行ったり来たりしている。これを何ボルトですか?と問われると答えに窮するはずだが、100Vであることはご存知のはずだ。これが実効値なのである。すなわち、抵抗体に交流を流したときに抵抗体で発生する熱量(電力消費)が、同じ抵抗体に直流(電圧値は時間に対して一定)を流したときに発生する熱量(電力消費)と等しくなる、直流電圧値が交流の実効値なのである。

AC電圧の実効値を計算で求めるには、

1. ACの瞬時電圧値(Vac(t))で瞬時電力値(Vac(t)^2/R)を表し、これを交流の1サイクル(T秒)に渡って積分(∫(Vac(t)^2/R)dt)する。これは、抵抗RでT秒間に消費される電力である。

2. 上の積分は、瞬時電圧値(Vac(t))の2乗平均((Vac(0)^2+Vac(⊿t)^2+・・・+Vac(n⊿t)^2)/n)/R)Tを計算することと同じである。

3. 2.の値が、実効値Vrms(すなわち、直流電圧Vrms)を抵抗RにT秒間印加したときに抵抗Rで消費される電力(Vrms^2/R)Tに等しいということが、Vrmsの定義なので、実効値Vrms = √((Vac(0)^2+Vac(⊿t)^2+・・・+Vac(n⊿t)^2)/n))となる。

上記の計算のように、2乗(square)したものの平均(mean)を求め、それの平方根(root)をとることから、実効値はrms(root mean square)値とも呼ばれる。

平均値応答型のデジタル・マルチメータでは、交流を整流回路に通して波形のマイナスの部分をプラスに反転し、フィルタに通す(積分する)ことにより平均値を求め、正弦波の波形率(平均値と実効値の比。ピーク値と実効値の比は波高率(クレスト・ファクト)と呼ばれる)、1.11を掛けて実効値を表示している。この方式では、入力信号が正弦波の場合にしか正確な実効値が得られない(正弦波以外の三角波や矩形波、高調波やノイズが重畳された歪みのある正弦波では、波形率は1.11ではないから)。

これに対して、真の実効値型デジタル・マルチメータには、熱電対を用いて入力交流波形と等価な熱起電力(直流電圧)を測定する方式、ダイオードの電圧-電流の2乗特性を利用する方式、交流をサンプリングして上記(1. ~ 3.)の計算で求める方式があり、入力が正弦波に制限されることなく、実効値が得られる。入力値が正弦波に制限されないので、真の実効値型と呼ばれる。

実効値については、以下を参照。

交流の電力

デジタルマルチメータの真の実効値型と平均値応答型の違いは何ですか?

DMMを使用してより良い実効値測定を行うためのヒント