thermal electromotive force(熱起電力)

抵抗測定に関する翻訳で、thermal electromotive force(熱起電力)という言葉が出てくる(例えば、B2961Aと34420Aを使用した高性能低抵抗測定のp1)。

1本の金属線の両端に温度差を与えると、高温側の自由電子は低温側よりも大きなエネルギーを持つことになるので、自由電子が高温側から低温側に熱拡散により移動する。自由電子の移動に伴い、自由電子はマイナスの電荷を持っているので、高音側がプラスに、低温側がマイナスに帯電し、高温側と低温側の間に電場が生じる。この電場は、高温側から低温側に移動する自由電子に逆向きの力を与えるので、やがて熱拡散による力と電場による力が釣り合い、自由電子の移動が止まる。この自由電子の移動が止まった状態(平衡状態)における、高温側と低温側の電位差が熱起電力である。

種類の異なる2つの金属線の両端を接合して(接合したものは熱電対と呼ばれる)、温度差を与えると、自由電子の移動速度が2つの金属で異なるので、電位差が生じて電流が流れ続ける(同じ種類の2つの金属線を接合した場合は、両端が帯電するだけで電流は流れない)。この温度差と電位差の関係は金属の種類により一意の関係があるので、温度測定に利用されている。

また、低い抵抗を測定する際に、以下のように電流を反転して測定することにより、熱起電力の影響を除去できる。

抵抗(Rx)を測定するには、測定器の端子にサンプルからのリード線を接続して、電流(I)を流して端子間の電圧(V_f)を測定する。端子とリード線の接続部分が2箇所あり、それぞれの部分の温度が異なると、熱起電力(Ve)が生じるので、測定される電圧(V_f)は、サンプルの抵抗による電圧降下I×RxとVeの和として、

V_f=I×Rx+Ve (1)

のように表される。次に電流の向きを反転して(Iを-Iに変更)、同様に端子間の電圧(-V_r)を測定すると、接続箇所の温度差のみで決まる熱起電力Veは変わらないので、

-V_r=-I×Rx+Ve (2)

となる。(1)式と(2)式から、

V=(V_f-(-V_r))/2=I×Rx

なので、電流Iを順方向と逆方向に流したときのサンプルの端子間電圧(V_fとV_r)を測定することにより、熱起電力の影響を除去して抵抗(Rx)を測定できる。

triaxial cable(トライアキシャル・ケーブル)

微小電流測定に関する翻訳で、triaxial cable(トライアキシャル・ケーブル)という言葉がよく出てくる(例えば、B2980Aシリーズ アンメータによる半導体の微小電流測定のp6の図5)。triaxial cableは、三重同軸ケーブルと呼ばれることもある。

同軸ケーブルは、信号線である導体が中心にあり、その中心導体が絶縁体で覆われていて、その絶縁体は細い銅線を網目状に編んだ導体(外部導体)で覆われ、その外側は外皮(シース)で覆われている。外部導体は通常グランドに接続されて信号の帰路となるので、信号線を流れる電流による電磁界と外部導体を流れる電流による電磁界が相殺され、電磁ノイズが漏れるのを防ぐ電磁シールドの役目をする。

微小電流を測定する際に同軸ケーブルを使用すると、中心導体と外部導体が絶縁体で隔てられていても中心導体から外部導体へ僅かな電流(リーク電流)が漏れるので(例えば、絶縁体の抵抗が100 GΩで信号電圧が5 Vの場合、オームの法則から5/(100×10^6)=50×10^(-9)=50 pAのリーク電流が生じるので)、測定値に大きな誤差が生じる。また、信号電圧を掃引して測定する場合は、信号線と外部導体間のキャパシタンスに起因する充電電流が測定値に影響を与える。これらの誤差を避けるためにトライアキシャル・ケーブルが使用される。

トライアキシャル・ケーブルは、同軸ケーブルの中心導体と外部導体の間にさらに導体(中間導体)が挟まれた構造になっている(例えば、これ)。微小電流測定では、この中間導体はガードと呼ばれ、入力電圧と出力電圧が等しくなるバッファアンプを用いて信号線と同じ電位にドライブする。こうすることにより、信号線と中間導体(ガード)との電位差がゼロになるので、その間でリーク電流が生じず、充電もされなくなり、それらによる測定誤差を回避できる。このとき、中間導体と外部導体間の電位差によるリーク電流が生じるが、この電流はバッファアンプから供給された電流で測定系を経由しないので、測定値に影響を与えない。

ガードについては、以下を参照

明星大学 理工学部 総合理工学科 生命科学・化学系の西條純一氏のページ > 研究について > 5. 伝導の測定 5.2 シールド,ガード

Guarding(英語ページ)

radar equation(レーダー方程式)

レーダー測定やシミュレーションに関する翻訳で、radar equation(レーダー方程式)という言葉がよく出てくる(例えば、フェーズド・アレイ・レーダ・システムの効果的な開発手法のp5)。

radarは、RAdio Detecting and Ranging(電波探知および測距)の略で、ターゲットに電波を発射して、その反射波を測定することにより、ターゲットの方向や距離を測定する装置である。軍事目的に開発されたものであるが、コンクリート建築物の内部にある鉄筋や配管の位置特定に利用されたり、自動車の衝突防止システム用に研究開発が行われている。

レーダー方程式とは、レーダーの送信電力と受信電力の関係を表す式である。

アンテナ利得Gtの送信アンテナで電力Pの電波を放射すると、ターゲットの存在する距離Rでの電波の電力密度p_tは、距離Rの球の表面積が4πR^2なので、

p_t=GtP/4πR^2

になる。

距離Rに存在するターゲットの有効反射断面積(レーダー断面積)をσとすると、ターゲットで反射される電力は、p_t×σとなる。ターゲットからの反射波がターゲットを中心にして等方的に散乱されたものと仮定すると、レーダーの受信アンテナ位置における反射波の電力密度p_rは、ターゲットからの距離がRなので上と同様に考えて、

p_r=p_t×σ/4πR^2=GtPσ/(4πR^2)^2

となる。

レーダーの受信アンテナの有効面積をAとすると、受信電力Prは、

Pr=A×p_r=AGtPσ/(4πR^2)^2

となる。これがレーダー方程式である。レーダーが受信できる最小電力をSとすると、

S=AGtPσ/(4πR^2)^2

から最大探知距離Rを求めることができる。

レーダー方程式については、以下を参照。

日本財団 図書館 > ジャンルから検索 > 技術 > 電気工学.電子工学 > 「次ページ→」を4回クリック > 2005 船舶電気装備技術講座〔機器保守整備編〕(レーダー) > 第2章 レーダーの性能

sinc

任意波形発生器に関する翻訳に、sincという言葉がよく出てくる(例えば、33500Bシリーズ波形発生器のp14)。

sinc関数は、 カーディナル・サイン(cardinal sine)とも呼ばれ、ラテン語のsinus cardinalisの短縮形と言われている。

sinc関数は、正弦関数sin(x)をその変数xで割ったものとして、

sinc(x)=sin(x)/x

で定義され、|x|が増加すると正弦関数の値が1/xで減衰する曲線になる(例えば、これ)。

sinc関数は、以下のような状況で現れる。

時間領域で、f(t)=0(t<-T/2)、f(t)=1(-T/2≦t≦T/2)、f(t)=0(T/2<t)の矩形パルス信号をフーリエ変換すると、

F(ω)=(1/2π)∫f(t)exp(-iωt)dt:積分範囲(-∞~+∞)
  =(1/2π)∫f(t)exp(-iωt)dt:積分範囲(-T/2~T/2)、f(x)=0(t<-T/2)およびf(t)=0(T/2≦t)なので
  =(1/2π)∫exp(-iωt)dt:積分範囲(-T/2~T/2)、f(t)=1(-T/2≦t≦T/2)なので
  =(1/2π)((exp(-iωT/2)-exp(iωT/2))/(-iω))
  =(1/2π)(-2i×sin(ωT/2)/(-iω))、オイラーの公式からsin(ωT/2)=(exp(iωT/2)-exp(-iωT/2))/2iなので
  =(T/2π)sin(ωT/2)/(ωT/2)
  =(T/2π)sinc(ωT/2)

となり、sinc関数になる。

このことから、理想的な矩形パルス信号には、無限個の高調波が等間隔で含まれていて、その振幅が1/xで減衰していることがわかる。

また、アナログの連続時間信号を等間隔の時刻(サンプリング周波数2W)でサンプリングしたデジタルの離散信号から、元のアナログ連続信号を正確に復元するには(ナイキストのサンプリング定理を満たすには)、

H(ω)=0(ω<-W/2)、H(ω)=1(-W/2≦ω≦W/2)、H(t)=0(W/2<ω)

の周波数特性を持つ、帯域幅をWに制限する理想的な復元(帯域制限)フィルタを用いて、アナログ連続信号をサンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラム(周波数領域では、サンプリング間隔の逆数の周波数間隔で元のアナログ信号をフーリエ変換したものが並んでいる)から、元のアナログ信号をフーリエ変換したものを1つだけ取り出す(周波数領域で、アナログ連続信号をサンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラムにH(ω)を掛ける)必要がある。この周波数領域での積演算は、時間領域では、サンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラムを逆フーリエ変換したもの(すなわち、時間領域でサンプリングした元のデジタル離散信号)と復元(帯域制限)フィルタの周波数特性H(ω)を逆フーリエ変換したもの(sinc関数)の畳み込み積分と同じである(フーリエ変換の性質(畳み込み定理))。したがって、この畳み込み積分を計算することにより、元のアナログ連続信号を復元することができる。

サンプリングされた信号からの元の連続時間信号の復元については、以下を参照。

東北大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻の鏡 慎吾准教授のホームページ > 講義 > やる夫で学ぶディジタル信号処理 > 10. サンプリング定理

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