SEM(スペクトラム・エミッション・マスク)

無線通信測定に関する翻訳に、SEMという言葉がよく出てくる(例えば、LTE/LTE-Advanced FDD/TDD Xシリーズ 測定アプリケーションのp5)。SEMは、SEM(スペクトラム・エミッション・マスク)の略である。

無線通信では、電波(搬送波)を変調して情報を送信する。このとき、送信機のアンプやミキサ(周波数アップコンバーター)などの非線形に起因して、情報を送信するために必要な周波数帯域幅(搬送波の周波数を中心にした、変調方式により決まる占有帯域幅)の外に、高調波成分相互変調歪み成分、周波数変換成分が生じる。このような帯域外に漏れ出す電波の成分はスプリアスエミッション(スプリアス発射とも呼ばれ、正確には帯域外発射とスプリアス発射に分けられる)と呼ばれる。

スプリアス発射は同じ通信の他のチャネルや他の通信の妨害となるので、無線通信の種類(無線LANやLTEなど)毎に、中心周波数(搬送波の周波数)からのオフセット周波数でのスプリアス発射の大きさの許容上限レベルが決められている。この許容上限レベルのスペクトラム形状をSEM(スペクトラム・エミッション・マスク)と呼ぶ(例えば、このページの図)。

SEM(スペクトラム・エミッション・マスク)については、以下を参照

Spectrum Emission Mask (SEM) Measurement(英語ページ)

1 dB compression point(1 dB圧縮ポイント)

パワーアンプ測定に関する翻訳で、1 dB compression point(1 dB圧縮ポイント)という言葉がよく出てくる(例えば、パワーアンプ・テスト用 Signal Studio N7614Bのp12)。

通常、増幅器への入力パワーが小さいときには、増幅器への入力パワーが増加すると、それに比例して増幅器からの出力パワーが増加する。このときの比例係数を(小信号)利得と呼び、利得は一定である。また、利得が一定となる入力パワーの範囲を増幅器の線形(リニア)領域と呼ぶ。

増幅器への入力パワーが、リニア領域を超えて増加すると、増幅器内のトランジスタなどの増幅素子の動作原理から入力パワーと出力パワーが比例関係からずれてきて(入力パワーの増加に対して、出力パワーの増加が鈍くなり)、やがて入力パワーが増加しても出力パワーが増加しなくなる(利得がゼロになる)。このような入力パワーの範囲を増幅器の飽和(圧縮)領域と呼ぶ。入力パワーが圧縮領域に入ると、入力パワーと出力パワーの非線形性により、高調波歪み相互変調歪みが生じる。

増幅器のリニア領域と飽和領域を分けるポイントを表わす指標として、「1 dB圧縮ポイント」が用いられる。これは、以下の2つをプロットして、その出力パワーの差が1 dBとなる、増幅器の出力レベルである。

1) 増幅器への入力パワーが小さいときの、入力パワーと出力パワーの理想的な比例関係(グラフに入力パワー(横軸)と出力パワー(縦軸)をプロットしたときの直線(この直線の傾きが利得))を線形領域を超えて圧縮領域に外挿した直線

2) 実際の入力パワーと出力パワーの関係(グラフに入力パワー(横軸)と出力パワー(縦軸)をプロットしたときに、線形領域を超えて圧縮領域に入ると直線の傾き(利得)が徐々に小さくなる)

1 dB圧縮ポイントについては、以下を参照。

スタック電子株式会社のホームページ > 高周波用語集 > アンプの用語解説

bit-true(ビットトゥルー)

デジタル信号処理設計に関する翻訳に、bit-true(ビットトゥルー)という言葉がよく出てくる(例えば、W1717 SystemVueハードウェア・デザイン・キットのp3)。

携帯電話、液晶テレビ、DVD/ブルーレイプレーヤなど、身の回りの電化製品はほぼすべてデジタル化され、デジタル信号処理によりさまざまな機能が実現されている。複雑なデジタル信号処理には、DSP(信号処理アプリケーション向けの専用プロセッサ)を利用するソフトウェアベースの手法が用いられてきたが、最近のFPGAの高速化、大規模化により、このようなデジタル信号処理にFPGAを利用したハードウェアベースの手法が使用されるようになった。

DSPでは浮動小数点演算を利用できるので、デジタル信号処理の実装は簡単だが、FPGAで浮動小数点演算を実装すると回路規模が大きくなるので、通常は固定小数点演算が用いられる。

大規模な信号処理の場合は、FPGAに実装する前に、シミュレーションを行って動作を確認する。そのときに、固定小数点演算がシミュレーションと実装した場合とで結果がビット単位で一致することを、bit-true(ビットトゥルー)なシミュレーションと呼ぶ。固定小数点演算は、オーバーフローやアンダーフロー、丸めの処理にさまざまな方法があるので、演算結果がビット単位で一致しない(ビットトゥルーでない)ことがある。

FPGAと固定小数点演算については、以下を参照。

平坂久門ただいま失業中 > ラベル > 固定小数点演算回路の固定小数点演算信号処理の極意シリーズ(その1)~(その9)

cycle accurate(サイクルアキュレート)

デジタル信号処理設計に関する翻訳に、cycle accurate(サイクルアキュレート)という言葉がよく出てくる(例えば、W1717 SystemVueハードウェア・デザイン・キットのp3)。

スマートフォン、タブレットPC、DVD/ブルーレイレコーダーなどの身の回りの電化製品には、システムLSIが組み込まれている。システムLSIとは、その装置(システム)のほとんどの機能を1つのLSIに集約したもので、CPU、メモリ、キャッシュ、バスなどの入出力インタフェース、そのシステム固有のハードウェアエンジンから構成され、近年ますます大規模化、多機能化している。

また、このようなシステムLSIのプロセッサ上で動作するソフトウェアの開発/検証は、短期間で高品質(バグが少なく高性能)に行なう必要があり、ハードウェア設計の早い段階から協調検証ツールとしてプロセッサのシミュレータを使用してハードウェアとソフトウェアのデバッグや性能検証が行われている。ハードウェアの検証では精度が優先され、ソフトウェアの検証では速度が優先される。

プロセッサのパイプラインの動作やキャッシュの動作(クロックサイクル単位での動作で、通常ソフトウェアのプログラマには見えない動作)を模擬できるシミュレーションは、サイクルアキュレートな(サイクル精度の)シミュレーションと呼ばれ、精度は高いが動作速度は遅い。プロセッサの命令セットの命令単位で動作を模擬するシミュレーションは、命令セットシミュレーションと呼ばれ、精度は低いが動作速度は速い。

システムLSIの設計については、以下を参照。

システムLSI設計検証技術