channel sounding(チャネルサウンディング)

無線通信測定に関する翻訳で、channel sounding(チャネルサウンディング)という言葉がよく出てくる(例えば、5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法)。

channel sounding(チャネルサウンディング)のチャネルとは、無線通信における送信機と受信機の間の電波の伝搬経路のことで、サウンディングは「聞こえ方」から転じて「電波の伝わり方(伝搬特性)」という意味である。通常、チャネルサウンディングは電波伝搬経路の特性を評価(推定)するという意味で使用される。

特に、携帯電話などの移動無線通信システムでは、電波の経路損失、反射、吸収、回折、マルチパス効果、移動体の速度によるドップラー効果などにより、周波数、時間、受信位置に依存して電波の受信強度が激しく変動するフェージングが発生する。これにより、信号品質が著しく低下するので、デジタル・ビームフォーミング(MIMOやアレイ・アンテナの使用)を行って信号品質を確保している。これを行なうためには、電波の伝搬路の特性を測定(推定)すること(チャネルサウンディング)が必須となる。

最も簡単なチャネルサウンディングの推定は、伝搬路のインパルス応答h(t)を測定すること(伝達関数H(ω)を求めること)である。インパルス応答には、伝搬路のすべての情報が含まれていて、送信機から時間領域の任意の送信信号x(t)が送信され、インパルス応答がh(t)の伝搬路を通って、受信機でy(t)という信号が受信されたとすると、、y(t)は畳み込み積分を用いて、

y(t)=∫h(τ)x(t-τ)dτ=h(t)※x(t)、※は畳み込み積分を表わす記号 (1)

のように表され、伝搬路の特性が推定されたことになる。

しかし、インパルス応答を正確に測定するには、周波数帯域幅の広い理想的なインパルスを使用する必要があるが、帯域幅を広くすると測定帯域全体でのS/N比が低下したり、帯域幅が制限される移動無線通信には不向きである。このため、インパルス列を用いて平均してS/N比を上げたり、チャープ信号を用いたりする方法がある。

また、自己相関関数がδ関数となるようなホワイトノイズ様信号を送信して、相互相関関数が伝搬路のインパルス応答h(t)となるようにする方法がある。すなわち、送信信号x(t)の自己相関関数Rx(τ)と送信信号x(t)と受信信号y(t)の相互相関関数Rxy(τ)は、

Rx(τ)=E[x(t)x(t+τ)]=lim(1/T)∫x(t)x(t+τ)dt、(E[x(t)x(t+τ)]は、x(t)x(t+τ)の時間平均)

Rxy(τ)=E[x(t)y(t+τ)]=lim(1/T)∫x(t)y(t+τ)dt

と表され、(1)式から

Rxy(τ)=E[x(t)∫h(τ_1))x(t+τ-r_1)dr_1]
    =∫h(τ_1)E[x(t)x(t+τ-r_1)dt]dr_1
    =∫h(τ_1)Rx(τ-r_1)dr_1
    =h(τ)※Rx(τ)

となる。上の式は、Rx(τ)がδ関数であれば、Rxy(τ)=h(τ)となることを表しているので、自己相関関数がδ関数となるような無相関の既知のホワイトノイズ様信号を送信信号として用いれば、送信信号と受信信号の相互相関関数を求めることによりインパルス応答h(τ)が得られる。

チャネルサウンディングについては、以下を参照

5G mmWave MIMO Channel Sounding(英語pdf)のPage 4

Software Defined Radio based MIMO channel sounding(英語pdf)の2.3 Channel sounding(p9~p11)

surface resistivity(表面抵抗率)

抵抗率測定に関する翻訳に、surface resistivity(表面抵抗率)という言葉がよく出てくる(例えば、B2985A/87Aによる絶縁材料の抵抗率測定)。

材料の電気の流れ難さを表わす指標として抵抗R(Ω)がよく用いられる。抵抗Rは、材料の両端に電圧V(V)を印加して、その材料を流れる電流I(A)を測定することにより、オームの法則から、

R=V/I (1)

として求める。しかし、材料が同じでも形状(断面積や長さ)が異なると、抵抗の値も異なるので、材料の形状に依存しない電気の流れ難さを表わす指標として抵抗率ρが用いられる。抵抗Rは、断面積A(m^2)に反比例し、長さL(m)に比例するので、

R=ρ(L/A) (2)

と書け、その比例係数ρが抵抗率である。(1)式と(2)式から、

ρ=(V/I)(A/L)

なので、電圧、電流、断面積、長さを測定することにより抵抗率ρが求められ、材料固有の値になる。ρの単位は、上の式からΩmであり、単位断面積と単位長さにノーマライズ(規格化)した抵抗を表している。このことから、ρは体積抵抗率とも呼ばれる。

ここで、断面積Aを材料の幅Wと厚さtを用いてA=Wtと表わすと、(2)式は、

R=ρ(L/Wt)=(ρ/t)(L/W)

と書ける。この式のρ/tが表面抵抗率ρ_sである。ρ_sは、概念的には無限に薄い正方形のシートの2つの向かい合う辺に電極を付けてその抵抗を測定したものである。単位は抵抗と同じΩであるが、オームの法則の抵抗Rと区別するためにΩ/□またはΩ/sq(ohms per square)と表記される場合もある。表面抵抗率が100Ω/□の正方形のシートは、正方形の大きさに関係なく、2つの向かい合う辺間の抵抗は100Ωである。

実際の表面抵抗率の測定は、Van der Pauw(ファンデアポウ)の方法が有名である。

表面抵抗率については、以下を参照。

ナプソン株式会社のホームページ > 技術紹介 > 電気抵抗測定の3つの基礎知識

Van der Pauw(ファンデアポウ)の方法については、

Van der Pauw Measurements(英語ページ)

1/f noise(1/fノイズ)

半導体デバイス測定に関する翻訳で、1/f noise(1/fノイズ)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight E4727A Advanced Low-Frequency Noise Analyzerのp2)。

CPUやメモリなどのLSIには、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor、金属酸化膜半導体)構造のトランジスタ(MOSFET、FETはField Effect Transistor(電界効果トランジスタ)の略)がスイッチング素子として使われている。MOSFETのゲートに電圧(電界)を印加する/しないによる、ソース-ドレイン間の電流のオン/オフ制御(スイッチ)を利用して、論理回路が形成されている。

MOSFET内部で生じるノイズとして、熱雑音と1/fノイズがある。

熱雑音は、白色雑音(ホワイトノイズ)とも呼ばれ、半導体内部のキャリアが熱によりランダムに運動することによって生じるもので、パワースペクトラムが周波数に依存しない(どの周波数成分も同じ量だけ含まれている)。また、熱雑音パワーはkTB(k=ボルツマン定数、T=温度、B=ノイズ測定時の帯域幅)で表わされるので、温度と測定帯域幅を小さくすると熱雑音は小さくなる。

1/fノイズは、ノイズのパワースペクトラムが周波数に反比例するので、1/fノイズと呼ばてれている(1/fゆらぎとも呼ばれる)。MOSFETにおけるこのノイズの原因は、ランダム・テレグラフ・ノイズの重ねあわせであると言われている。

1/fゆらぎは、音楽や人の声にも存在し、1/fゆらぎ成分のある音楽や歌声は心地よいとされている。また、打ち寄せる波の音、小川のせせらぎ、風の吹き方、木漏れ日、太陽光、蛍の光などの自然界のゆらぎも1/fゆらぎであると言われている。

1/fノイズについては、以下を参照

MOSの雑音(ノイズ)

1/f noise from the coincidences of similar single-sided random telegraph signals(英語PDF)

1/fゆらぎの物理

FDTD(時間領域差分法)

電磁界シミュレーションに関する翻訳に、FDTD(時間領域差分)法という言葉がよく出てくる(例えば、EMPro 3次元電磁界モデリング/シミュレーション環境とADSデザインフローの統合)。

電磁界シミュレーションの手法には、大きく3つの手法(有限要素法モーメント法、FDTD法)がある。FDTDは、Finite Difference Time Domain(時間領域差分)の略で、電磁界現象の支配方程式(基礎方程式)であるマクスウェルの方程式を差分化(Finite Difference)して、時間領域(Time Domain)で解く手法である。

簡単のために、真空中を電磁波が伝搬する場合を考える。この場合は、マックスウェル方程式は、E=(Ex、Ey、Ez)を電界ベクトル、H=(Hx、Hy、Hz)を磁界ベクトル、ε0を真空の誘電率、μ0を真空の透磁率、∇=(∂/∂x、∂/∂y、∂/∂z)、×を外積の記号として、

∂E/∂t=(1/ε0)∇×H
∂H/∂t=-(1/μ0)∇×E

と書ける。さらに、簡単にするために、1次元方向(z軸方向)のみの伝搬を考えると、上の式は、

∂Ex/∂t=-(1/ε0)∂Hy/∂z
∂Hy/∂t=-(1/μ0)∂Ex/∂z

となる。この2つの式は、x方向に振動する電界Exとy方向に振動する磁界Hyがあり、振動する電界が振動する磁界を誘起し、振動する磁界が振動する電界を誘起するというプロセスを繰り返しながら、平面波がz方向に伝搬していることを表している。

以降の式の表記を簡単にするために、改めて、ExをE、HyをHと表記すると、

∂E/∂t=-(1/ε0)∂H/∂z
∂H/∂t=-(1/μ0)∂H/∂z

となる、この連続系の連立微分方程式を、時間tと空間zの両方で中心差分近似を行って(Δtを時間ステップ、nを時間を離散化したときの時刻を表わすインデックス、kを空間zを離散化したときの位置を表わすインデックスとして)離散化すると、

(E_k^(n+1/2)-E_k^(n-1/2))/Δt=-(1/ε0)((H_(k+1/2)^n-H_(k-1/2)^n)/Δz (1)
(H_(k+1/2)^(n+1)-H_(k+1/2)^n)/Δt=-(1/μ0)((E_(k+1)^(n+1/2)-E_k^(n+1/2))/Δz (2)

となる。(1)式の左辺は、時刻nΔtにおけるEの時間微分を、時刻(n+1/2)Δtと時刻(n-1/2)ΔtにおけるEの値を用いた中心差分で表している。(1)式の右辺は、位置kΔzにおけるHの空間微分を、位置(k+1/2)Δzと位置(n-1/2)ΔzにおけるHの値を用いた中心差分で表している。(2)式も同様である。

(1)式と(2)式の連立差分方程式を、以下のように変形して、

E_k^(n+1/2)=E_k^(n-1/2)+(Δt/ε0Δz)((H_(k-1/2)^n-H_(k+1/2)^n))
H_(k+1/2)^(n+1)=H_(k+1/2)^n)+(Δt/μ0Δz)((E_(k)^(n+1/2)-E_(k+1)^(n+1/2))

EとHについて交互に計算することにより、磁界と電界の時間変化を計算する手法がFDTD法である。

マクスウェル方程式については、以下を参照

電磁気学

FDTD法については、以下を参照

富山大学 工学部 電気電子システム工学科 波動通信工学研究室のホームページ > 学習用 基本 FDTD(有限差分時間領域法)コード (MATLAB 版) および解説(日本語)の1D_basic_matlab_document_J (PDF in Japanese)
The Finite-Difference Time-Domain Method (FDTD)(英語pdf)