envelope tracking(エンベロープ・トラッキング)

無線通信測定に関する翻訳で、envelope tracking(エンベロープ・トラッキング)という言葉がよく出てくる(例えば、平均パワー/エンベロープ・トラッキング・デザインで使用できるソリューションと測定ツール)。

携帯電話やスマートフォンなどのモバイル無線機器やその基地局には、電波を送信するためのパワーアンプが内蔵されていて、電力消費の大きな部分を占めている。モバイル無線機器のバッテリー駆動時間の増加やその基地局の電力消費の削減のために、パワーアンプの高効率化(省電力化)は常に大きな課題であり続けている。このようなパワーアンプの高効率化の手法の1つとして、エンベロープ・トラッキング方式というものがある。

近年、モバイル無線機器ではOFDMなどの複雑な変調方式が採用され、パワーアンプへの入力信号のピーク電力と平均電力との比(ピーク対アベレージ電力比)が大きくなっている。このような変調信号を(規格を満たすように)低歪みで増幅して送信するには、パワーアンプに一定の大きなバイアス電圧をかけておく必要がある。言い換えると、ピーク電力時の入力信号に対して、歪みが大きくならないように圧縮領域に入るギリギリ手前で動作するようにバイアス電圧をかけるおく必要がある。これは、平均電力時には過剰なバイアス電圧となるので、パワーアンプの効率の低下につながる。

エンベロープ・トラッキング方式は、パワーアンプへの入力変調信号のエンベロープ(包絡線)を検出(トラッキング)して、それに応じて瞬時に(歪みが生じないレベルに)バイアス電圧を変化させることにより、パワーアンプの消費電力を低減する技術である。

エンベロープ・トラッキングについては、以下を参照。

住友電工のホームページ > 技術開発 > 技術論文集 SEIテクニカルレビュー > バックナンバー > もっと見る > 2010年1月号 No.176 > 情報通信 > 携帯電話基地局用高効率増幅器の開発

spread spectrum clock(スペクトラム拡散クロック)

ビットエラー測定に関する翻訳に、spread spectrum clock(スペクトラム拡散クロック)という言葉が出てくる(例えば、Keysight J-BERT M8020A 高性能BERTのp4)。

近年のデジタル機器(PCや携帯電話など)の高速化、高密度化に伴い、機器のEMIノイズは増加し続けている。デジタル機器の動作にはクロック信号が必要であり、その基本波と高調波がノイズの主な原因である。理想的な方形波のクロックを、スペクトラム・アナライザなどで周波数領域で見ると(方形波をフーリエ変換すると)、クロック周波数(基本波周波数)、3×クロック周波数(3次高調波周波数)、5×クロック周波数(5次高調波周波数)、...の位置にスペクトラムのピークがあり、大きなノイズの原因となる。

CISPR(国際無線障害特別委員会)などのEMI規格に適合させるために、上記のようなクロック信号のピークを低減させる技術がスペクトラム拡散クロックである。これは、クロック周波数をわずかに変動させる(周波数変調を行なう)ことにより、周波数領域のピーク信号のエネルギーをその回りに分散(拡散)させてピーク振幅を低減する方法である。

身の回りのものでは、PCのBIOS設定で、スペクトラム拡散クロックのオン/オフができるものがあったが、最近では設定項目がなく常にオンになっている。

スペクトラム拡散クロックについては、以下を参照

周波数拡散クロックIC編

国立研究開発法人 情報通信研究機構のホームページ > 資料・データ > 出版物・発行書籍 > 情報通信研究機構研究報告 > EMC特集 > スペクトラム拡散クロックによる雑音測定への影響

ELINT

レーダー測定に関する翻訳で、ELINTという言葉がよく出てくる(例えば、発生頻度の低い信号の広帯域/高ダイナミック・レンジ測定による複雑なシステム/環境の特性評価のp3)。ELINTは、ELectronic INTelligence(電子諜報)の省略形である。

インテリジェンス機関(情報機関、諜報機関)の情報収集手法として、HUMINT(HUman INTelligence)、IMINT(IMagery INTelligence)、SIGINT(SIgnal INTelligence)がある。HUMINTはいわゆるスパイ活動による人からの情報収集、IMINTは偵察衛星や偵察機により得られた画像を解析することによる情報収集、SIGINTは電子通信信号の傍受と解析による情報収集である。

SIGINTは、COMINT(COMmunication INTelligence)とELINT(ELEctronic Intelligence)に分類される場合がある。COMINTは通信の傍受と暗号解読による情報収集である。ELINTは、ジャミング(電波妨害)、ECM(Electric Counter Measure、電子対抗手段)、ECCM(Electronic Counter-Counter Measure、対電子対抗手段)に活用するために、通信以外の電磁放射(レーダーや電子戦機器など)の周波数、パルス繰り返し数、変調方式などの情報を収集することである。

ELINT、COMINT、SIGINTについては、以下を参照。

軍事とIT > 3 > 第43回 情報活動とIT(3) ELINT・COMINT・SIGINT