kTB

測定器のノイズに関する性能で、kTBという言葉がよく出てくる(例えば、Agilent スペクトラム解析の基礎の第5章 感度と雑音(p46))。これは、熱雑音のレベル(パワー)を表す式である。ここで、k=ボルツマン定数、T=温度、B=ノイズ測定時の帯域幅である。

導体や抵抗体に電圧を印加すると電流が流れるのは、その中に、キャリア(電流を運ぶ担い手である伝導電子や正孔)が存在するからである。この電子や正孔は、電圧を印加していない状態ではじっと静止しているわけでなく、熱(温度T)によりランダムに運動している。この運動エネルギーが熱雑音パワー(kTB)の正体である。

kTBの導出については、以下を参照。
受信機 高性能化―理論と実際(関 英男著)の「3.2 雑音」(p42~p44)
干渉計サマースクール2005 教科書の「1.3.6 パワーの温度換算」(p14~p15)

EW(電子戦)

レーダ測定に関する翻訳で、EW(電子戦)という言葉がよく出てくる(例えば、周波数カウンタを使用した搬送波信号近傍の位相雑音の測定)。EWは、Electronic Warfareの略である。

電子戦とは、電波をめぐる戦いである。現在の戦争では、レーダによる索敵や通信手段として電波を利用する。このような電波を妨害/傍受したり、妨害/傍受を阻止することが電子戦である。電子戦の始まりは日露戦争と言われている。日本側はバルチック艦隊の発見を「敵艦見ゆ」と無線で送ったが、ロシア側は日本の無線を傍受していて妨害電波を発射したとされている。また、最近の中国海軍のフリゲート艦によるレーダ照射事件(中国側がレーダを照射し、日本側がそれを傍受する)も電子戦の一種である。

電子戦については、以下を参照。
EW物語のご紹介

Cyclic Prefix(巡回プレフィックス)

LTE測定に関する翻訳で、Cyclic Prefix(巡回プレフィックス)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent 89600 ベクトル信号解析ソフトウェア オプションBHD 3GPP LTE変調解析のp7)。Cyclic Prefixは、「サイクリック・プレフィックス」とそのままカタカナで訳されることもある。

LTEや地上波デジタルTV放送や無線LANなどでは、高速デジタル信号を高い周波数利用効率で伝送するために、OFDM(直交周波数分割多重化)を用いて、低速のシンボル・レートの多数のサブキャリアで並列伝送する。各サブキャリアのシンボル・レートが低速になるので、マルチパス干渉(反射波(遅延波)による干渉)に強くなっている。さらにマルチパス干渉への耐性を強めるために、OFDMシンボルの後半部分のコピーを先頭に付加して、巡回プレフィックスと呼ばれるガード・インターバルを設けて、シンボル間干渉やサブキャリア間干渉の影響を除去できるようになっている。

巡回プレフィックス(ガード・インターバル)については、以下を参照
ガードインターバルを使う理由
OFDMの基礎と応用技術

VSWR(電圧定在波比)

高周波測定に関する翻訳で、VSWRという言葉がよく出てくる(例えば、Agilent N9330B
ハンドヘルド・ケーブルおよびアンテナ・テスタ
のp2)。VSWRは、Voltage Standing Wave Ratio(電圧定在波比)の略である。

伝送線路に信号を流すと、伝送線路の特性インピーダンスと負荷インピーダンスが同じ場合は、すべての入射波が負荷に吸収されて反射波が生じない。しかし、異なる場合はすべての入射波が負荷に吸収されずに反射波が生じる。この反射波と入射波が干渉して定在波が生じる。この定在波の最大の振幅と最小の振幅の比を定在波比と呼ぶ。昔はVSWR計を用いて伝送線路に沿ってプローブを動かしながら定在波の最大の振幅と最小の振幅の相対位置と大きさを記録してインピーダンスを求めていたが、現在はネットワーク・アナライザで周波数掃引を行いながら直接入射波と反射波を測定でき、その結果をVSWR、リターン・ロス、反射係数などに変換している。

VSWRについては、以下を参照
ベクトル・ネットワーク解析の基礎
定在波