pink noise(ピンクノイズ)

オーディオ測定に関する翻訳で、pink noise(ピンクノイズ)という言葉がよく出てくる(例えば、M9260A PXIeオーディオアナライザ・モジュールのp3)。

熱雑音などに代表されるホワイトノイズ(白色雑音)とは、パワースペクトラムが周波数に依存しない(単位帯域幅当たりのノイズパワーが一定の)ノイズであり、周波数を横軸に、パワーを縦軸にしてプロットすると、ある程度の幅のあるフラットなスペクトラム(例えば、このページの図)を示す。ピンクノイズとは、パワースペクトラムが周波数に反比例する(単位帯域幅当たりのノイズパワーが周波数の逆数に比例する)ノイズで、1/fノイズとも呼ばれる。ピンクノイズは、ホワイトノイズを-3dB/octaveのローパスフィルターに通すことにより得られる。ホワイトという名称は、可視光の範囲のすべての波長(周波数)の光を同じ割合で混ぜると白色になるというアナロジーから来ている。同様にピンクという名称は、可視光の範囲の光を、周波数fに対して強さが1/fとなるような割合(周波数の低い赤色の光が多くなるような割合)で混ぜるとピンクになるというアナロジーから来ている。

オーディオ測定では、ピンクノイズは特に人間の聴感に合わせた周波数特性を調べるために使用される。耳で感じる周波数の違いは対数的(500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、…のように周波数が2倍になるごと(1オクターブ高くなるごと)に、音が等間隔で高くなっているように感じる)なので、音の強さを測定する際に、それぞれの周波数ポイント(500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、…)を中心にして、2倍ずつ広く分割した測定帯域幅(オクターブバンドと呼ばれる)で測定する。したがって、このような測定では、(単位帯域幅当たりのノイズパワーが一定の)ホワイトノイズを使用すると、高音(周波数が高いポイントの測定帯域幅)でノイズパワーが大きな数値になる(ノイズパワー=単位帯域幅当たりのノイズパワー×測定帯域幅なので)が、(単位帯域幅当たりのノイズパワーが周波数の逆数に比例する)ピンクノイズを使用すると、オクターブバンドごとに一定の大きさ(フラット)になり、人間の感覚と一致する数値になる。

ピンクノイズについては、以下を参照

株式会社ソフトウェアクレイドルのホームページ > 技術コラム > 装置設計者のための騒音の基礎 第1回 > オクターブバンド分析

Z-Wave

IoTデバイスの測定に関する翻訳に、Z-Waveという言葉が最近よく出てくる(例えば、IoT対応民生用エレクトロニクスデバイスのp11)。

IoT向けの無線通信規格として、近距離ネットワーク用のBluetooth Low Energy (BLE)ZigBeeWi-SUN、中距離ネットワーク用の802.11ah、長距離ネットワーク用のNB-IoT、SIGFOX、LoRaWANなどがある。Z-Waveは、IoT向けの近距離ネットワーク用の規格で、特にスマートホームのネットワーク用として普及が進んでいる。Z-Waveは、無線による照明制御から発展したもので、デンマークのZen-sys社が2003年に開発した規格(2009年に米国のSigma Designs社がZen-sys社を買収)である。Z-Waveアライアンスを設立して、規格の普及、開発を推進している。

Z-Waveの特長は、900MHz帯のISMバンドを使用していることで、これにより、家庭で一般的に使用されている2.4GHz帯のISMバンド(無線LANや電子レンジ)との干渉がなく、障害物があっても回折により電波が回りこみやすく、通信距離が長くなる。また、デバイスが1社による独占供給なので、完全互換性が得られるという利点はあるが、スマートホーム市場でさらに普及するための問題点になる可能性もある。

Z-Waveは、欧米では普及しているが、日本では、900MHz帯の電波利用の再編の影響(2012年に免許不要の920MHz帯が使用可能になる)や法規制(2013年5月10に、無線通信による電源オン操作が可能になる)のために、普及が遅れている。

Z-Waveについては、以下を参照。

IoT時代の無線規格を知る【Z-Wave編】

thermistor(サーミスタ)

データ収集システムに関する翻訳で、thermistor(サーミスタ)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight 34970A データ収集/スイッチ・ユニットのp2)。

温度測定は、非接触式と接触式に大きく分類される。非接触式の温度測定では、被測定物の表面から放射されている赤外線を検出して温度を測定する放射温度計が用いられる。接触式の温度測定では、熱電対RTD(測温抵抗体)、サーミスタが用いられる。サーミスタという用語は、Thermally Sensitive Resistor(熱に敏感な抵抗体)の発音を省略したものと言われている。サーミスタは、RTDに比べて、小型で、温度の変化に対する抵抗の変化が大きく(感度が高く)、安価なので、温度センサとして工業用途はもちろん、民生用機器(炊飯器やエアコン、電子体温計、リチウムイオン電池、自動車など)に広く使用されている。

サーミスタは、NTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタ、PTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタに分類される。NTCサーミスタは、負の温度係数(温度が上がると、抵抗値が減少する)を持ち、マンガン 、ニッケル、コバルトなどを成分とする酸化物を焼成したセラミックス(半導体)材料を用いるものが多い。PTCサーミスタは、正の温度係数(温度が上がると、抵抗値が増加する)を持ち、チタン酸バリウムに微量の希土類元素を添加してキューリー点を調整した材料を用いるものが多い。PTCサーミスタは、室温付近からキュリー点までは抵抗値がほぼ一定で、キュリー点を超えると急激に抵抗値が増加する性質があり、温度検出用途だけでなく、加熱保護や過電流保護などに使用されている。

サーミスタについては、以下を参照

村田製作所のホームページ > 製品情報 > サーミスタ

quantum bit(量子ビット)

量子ビット制御に関する翻訳に、quantum bit(量子ビット)という言葉が出てくる(例えば、Quantum Researchersツールキット+Labber)。量子ビットは、Quビット、Qビット、クビットとも呼ばれる。

通常のコンピュータの世界でのビット(1ビット)は、電圧が低いまたは高いで表される、0(偽)または1(真)の2つの状態の内のどちらか1つの状態を表わす(このようなビットを、量子ビットに対する用語として古典ビットと呼ぶ)。量子コンピュータの世界では、古典ビットに対応するものとして量子ビットが用いられる。1量子ビットは、量子力学の2準位系の基底ベクトルである2つの独立した状態を|0>と|1>として、

a|0>+b|1> (a、bは、|a|^2+|b|^2=1を満たす複素数。)

という状態ベクトル(量子力学の波動関数)で表される(|0>である確率が|a|^2、|1>である確率が|b|^2)。これは、観測するまでは、|0>の状態と|1>の状態が同時に存在していること(|0>の状態と|1>の状態の重ね合わせ状態であること)を意味していて、観測すると、確率|a|^2で|0>の状態に決まり、確率|b|^2で|0>の状態に決まることを意味する。2量子ビットは、同様に、

a|00>+b|01>+c|10>+d|11> (a、b、c、dは、|a|^2+|b|^2+|c|^2+|d|^2=1を満たす複素数。)

のように4つの状態を同時に表現可能(4つの状態の重ね合わせ状態を実現可能)である。n量子ビットでは、2^n個の状態を同時に表現可能(2^n個の状態の重ね合わせ状態を実現可能)である。古典ビットでは、nビット(n個のビット並び)で表現可能な2^n個の組み合わせ(00…0~11…1)の内の1つしか表現できない。このことが、n量子ビットとn古典ビットの違いであり、2^n個の状態を同時に表現可能な量子ビットを用いた量子コンピュータにより、超並列計算が可能になる理由の1つである。

量子コンピュータで計算を行なうには、量子ビットに対する操作(演算)が必要であるが、量子力学では重ね合わせの原理(全確率(|状態ベクトル|^2)の保存)が成り立つことから、状態ベクトル(量子ビット)の操作(遷移または時間発展)をユニタリ変換により行なうことができる。すなわち、n量子ビット(2^n個の状態の重ね合わせ状態)に対してユニタリ変換を1回行なうだけで、同時に2^n個の状態に対する並列計算を行なうことができる。これが、量子コンピュータで超並列計算が可能になるもう1つの理由である。

このように量子コンピュータの原理は(量子エンタングルメントを除いて)比較的分かり易いが、量子ビットの初期化、演算、読み出し(観測)をどのようにハードウェアで実装するかは、非常に難しい。

量子計算の原理については、以下を参照。

フレッシュマンに贈る量子計算の概略と基礎

量子エンタングルメントによる量子情報処理

量子ビットのハードウェア実装については、以下を参照。

量子コンピュータの基本素子・量子ビットのハードウェア実装(シリコン編その1~素子構造~)

量子コンピュータの基本素子・量子ビットのハードウェア実装(シリコン編その2~スピンとは何か~)

量子コンピュータの基本素子・量子ビットのハードウェア実装(シリコン編その3~データの初期化と読み出し~)

量子コンピュータの基本素子・量子ビットのハードウェア実装(シリコン編その4~データの書き込み・演算~)