junction capacitance(接合容量)

半導体測定に関する翻訳に、junction capacitance(接合容量)という言葉がよく出てくる(例えば、B1506A パワーデバイス・アナライザ 主要パラメータ自動測定装置のp11)。

電気をよく通す物質は導体、通さない物質は絶縁体、その中間の物質は半導体と呼ばれる。半導体(例えば、Si(シリコン)やGe(ゲルマニウム))の中で不純物を含まないものは真性半導体と呼ばれる。

Si(シリコン)やGe(ゲルマニウム)などの原子は、4個の価電子(原子の最外殻を回っている電子で、原子同士の結合や反応にかかわる)を持っている。結晶構造では、それぞれの原子は最近接位置にある4個の原子と、価電子を1個ずつ出しあって(電子ペアを形成して)共有結合で強く結びついている(化学の分野のオクテット則により非常に安定した状態)。この状態では、価電子がすべて結合に使われているので、電気伝導に寄与する電子がない。

上の真性半導体に、5個の価電子を持つAs(ヒ素)やP(りん)などの不純物をドーピング(ごく微量添加)すると、結晶の原子同士の結合に使われない価電子が1つ余り、自由に動きまわれる電子(自由電子)が生じる。この負(nagative)の電荷を持つ電子が電気伝導に寄与する(電気を運ぶ担い手となるのでキャリアと呼ばれる)ので、このような半導体はn型半導体と呼ばれる。

上の真性半導体に、3個の価電子を持つB(ボロン)やIn(インジウム)などの不純物をドーピングすると、結晶の原子同士の結合に使われる価電子が1つ不足し、結合に電子の欠落した状態が生じる。この電子が欠落した部分(正に帯電しているので、正孔(ホール)と呼ばれる))に近くの電子が引き寄せられて移動し、その電子が存在していた部分が正に帯電する(正孔になる)を繰り返すことにより、あたかも、正(positive)の電荷を持つ正孔が自由に動きまわっているように見える。これが電気伝導に寄与するキャリアとなり、このような半導体はp型半導体と呼ばれる。

n型半導体とp型半導体を接合すると(PN接合と呼ばれる)、接合面の近くのn型半導体のキャリア(電子)とp型半導体のキャリア(正孔)が引き寄せられて再結合して消滅し、キャリアの存在しない空乏層と呼ばれる部分が生じる。この状態は、空乏層を挟んでその両端に負の電荷と正の電荷が存在する、コンデンサと同じ状態であり、静電容量が生じている。この容量を接合容量と呼ぶ。

PN接合、接合容量については、以下を参照

金沢大学理工学域電子情報学類教授 北川章夫氏のホームページ > 講義案内 > 集積回路工学第1 > 2.1 MOSFETの構造と機能

OKAWA Electric Design > 資料基礎編ダイオードの静電容量トランジスタの静電容量

reverse transfer capacitance(逆伝達キャパシタンス)

パワー半導体測定に関する翻訳に、reverse transfer capacitance(逆伝達キャパシタンス)という言葉がよく出てくる(例えば、B1506A パワーデバイス・アナライザ 主要パラメータ自動測定装置のp2)。reverse transfer capacitanceは、逆伝達容量、帰還容量とも訳される。

逆伝達キャパシタンスとは、MOSFETではゲート-ドレイン間に存在する寄生キャパシタンス(バイポーラ・トランジスタではベース-コレクタ間の寄生キャパシタンス)のことである。この寄生キャパシタンスにより、出力から入力に信号が帰還される。

このような反転増幅器の入力(ゲート/ベース)と出力(ドレイン/コレクタ)の間にある帰還キャパシタンス(C)は、入力側から見ると、反転増幅器(FETまたはトランジスタ)の増幅率をAとして、等価的にC(1+A)のキャパシタンスが入力側でグランドに接続されたように見える。これは、発見者の名前からミラー効果と呼ばれ、逆伝達容量をミラー容量と呼ぶこともある。この容量により、反転増幅器の入力側にローパス・フィルタが形成され、信号の高周波成分が減衰し、高周波特性が悪化する。

ミラー容量については、以下を参照

Miller Effect(英語ページ)

OKAWA Electric Design > 資料基礎編 > ミラー容量

clock recovery(クロック・リカバリ)

高速シリアル・データ通信測定に関する翻訳に、clock recovery(クロック・リカバリ)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent 83495A 10Gb/sクロック・リカバリ・モジュール)。clock recoveryは、クロック再生、クロック抽出、クロック回復と訳されることもある。

今日の多くの高速シリアル・データ通信(シリアルATA、PCI Express、USB 3.0、1000BASE-T、HDMIなど)では、送信側と受信側を同期するために、エンベデッド・クロック(クロックをデータに埋め込んで伝送する方式)が用いられ、専用のクロック線が用いられていない。

受信側では、受信したデータ列の「0」と「1」を正しいタイミングで判定するために、受信側のクロックを送信側のクロックに同期し、そのクロックで受信したデータ列をサンプリングしてデータを回復する必要がある。このために、送信されてきた(エンベデッド・クロック方式の)データ列からクロックを回復(リカバリ)することをクロック・リカバリという。

高速シリアル・データ通信では、長時間「0」または「1」のみのデータが続くと、直流成分が含まれることになり、AC結合のデータ線で電圧レベルが減衰し、遷移ポイント付近で「0」か「1」かの判定が困難になる。このために、8b10bなどのコード化を行って、長時間連続して「0」または「1」が発生しないようにしている。また、このようにすることにより、送信されてきたデータ列の「0」から「1」や「1」から「0」への遷移ポイントを検出し、受信側の基準クロックを遷移ポイントに(PLLを用いて)同期して、クロックを回復することができる。

高速シリアル通信については、以下を参照

設計の基本は仕様の理解 ― 高速シリアル通信を実現するために知っておくべき最低限の知識

高速シリアル・インタフェース測定の必須スキルを身に着ける

クロック・リカバリの詳細については、以下を参照。

CLOCK AND DATA RECOVERY CIRCUITS(英語pdf)

Clock and Data Recovery for Serial Digital Communication(英語pdf)

MMIC(モノリシック・マイクロ波集積回路)

高周波シミュレーションに関する翻訳に、MMICという言葉がよく出てくる(例えば、Agilent EEsof EDA W2321 レイアウト・エレメント)。MMICは、Monolithic Microwave Integrated Circuit(モノリシック・マイクロ波集積回路)の略である。

半導体デバイスは、ダイオードやトランジスタなどの個別半導体素子(ディスクリート半導体)と集積回路(IC)の2種類に分類される。集積回路は、ハイブリッド集積回路(ハイブリッドIC)とモノリシック集積回路(モノリシックIC)の2種類に分類される。モノリシックICとは、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)などの単一の半導体基板(ウェハー)上にトランジスタ、ダイオード、抵抗、キャパシタなどの素子を一体に形成して機能を実現したもので、ICと言えば、通常はモノリシックICのことである。ハイブリッドICは、絶縁基板上に個別半導体素子、モノリシックIC、抵抗、コンデンサなどの電子部品を高密度に実装して、1つのICのようにパッケージングしたものである(例えば、ここの構造を参照)。

したがって、MMICとは、マイクロ波帯のミキサ、増幅、スイッチングなどの機能を、単一の半導体基板上に形成したICである(例えば、ここの画像)