AM/AM、AM/PM

増幅器の歪特性の評価に関する翻訳で、AM/AM、AM/PMという言葉がよく出てくる(例えば、パワーアンプ・テスト用 Signal Studio N7614B)。AMはAmplitude Modulation略で、PMは、Phase Modulationの略である。

AM/AM、AM/PMは、パワー・アンプの歪み特性(非線形特性)を表す性能指標である。

パワー・アンプの入力パワー(Amplitude:振幅)と出力パワー(Amplitude:振幅)の関係をプロットしたものがAM/AM特性(AM-AM変換と表記されることもある)である。理想的なパワー・パンプでは、入力パワーと出力パワーが比例関係(線形関係)にある(入力パワー対出力パワーのプロットが直線になる)が、現実のアンプでは、入力パワーが大きくなると、出力パワーが飽和し始め、比例関係からずれて(非線形性を示し)、歪みが生じる。

同様に、入力パワー(Amplitude:振幅)と出力位相(Phase)の関係をプロットしたものがAM/PM特性(AM-PM変換と表記されることもある)である。理想的なパワー・パンプでは、入力パワーに関係なく出力波形の位相は一定であるが、現実には、電源リップルや温度ドリフトなどのさまざまな原因により位相が変化し、位相歪みが生じる。

AM-PM変換については、以下を参照。

AM-PM Conversion(英語サイト)

preamble(プリアンブル)

無線LANに関する翻訳で、preamble(プリアンブル)という言葉がよく出てくる(例えば、IEEE 802.11規格に準拠した無線LANデバイスのテストのp4の図2)。preambleの通常の意味は、序言、序文、前置きなどであるが、データ通信の分野では、送信側と受信側がタイミングをとるための同期信号を意味する。

現在、LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)の通信方式の主流は、イーサネット(EthernetのEtherは光を伝える仮想的な物質、エーテル(Ether)に由来する。当初、同軸ケーブルではなく光ファイバでの伝送を試みたが、1980年頃の技術では実現できなかった。)である。

イーサネットでは、データはフレームという単位で伝送される。フレームは、プリアンブル部、ヘッダ部、データ部、FCS(Frame Check Sequence)部から構成されている。プリアンブル部は、受信側にこれからデータを送ることを知らせて同期をとるために、フレームの先頭に追加される特定のビット列のことである。無線LANではPLCP(Physical Layer Convergence Protocol)プリアンブルと呼ばれる。ヘッダ部には、宛先MACアドレス、送信元MACアドレス(無線LANでは、PLCPヘッダに変調方式やデータ長の情報、IEEE802.11ヘッダに、宛先MACアドレス、送信元MACアドレス、受信側アクセス・ポイントのMACアドレス、送信側アクセス・ポイントのMACアドレス)が含まれる。FCS部は、ヘッダ部およびデータ部に誤りがないかどうかをCRC(巡回冗長検査)でチェックするための値である。

無線LANのフレームについては、以下を参照

ネットワークエンジニアとして > Network Study 2 : 高度なネットワーク技術、主要なアプライアンス製品の技術 > 無線LAN基礎、802.11a/b/g/n、チャネル、セル、SSID、WEP、WPA、WPA2 > 無線LAN – IEEE802.11フレームフォーマット

real power、reactive power、apparent power(有効電力、無効電力、皮相電力

電源測定に関する翻訳で、real power、reactive power、apparent power(有効電力、無効電力、皮相電力)という言葉がよく出てくる(例えば、U1881A/U1882Aパワー測定アプリケーションのp3の表)。

交流(AC)の電力は、交流の瞬時電圧値Vac(t)と瞬時電流値Iac(t)の積である瞬時電力値P(t)=Vac(t)×Iac(t)の、1サイクル(T秒)に渡る時間平均であり、

P=(1/T)∫P(t)dt   (1)

で定義される。

交流電圧源Vac(t)=V0cos(ωt)に、負荷として抵抗Rのみが接続されている場合は、オームの法則から、

Iac(t)=Vac(t)/R=(V0/R)cos(ωt)

であり、瞬時電圧値の位相ωtと瞬時電流値の位相ωtが同じ(同相)である。これは、瞬時交流電圧値が正のときは瞬時交流電流値も正であり、瞬時交流電圧値が負のときは瞬時交流電流値も負なので、瞬時電力値は常に正であることを意味し、交流電圧源から供給されたエネルギーが常に負荷で消費されている。このように、負荷で消費される電力を有効電力と呼ぶ。

交流電圧源Vac(t)=V0cos(ωt)に、負荷としてインダクタスLのみが接続されれいる場合は、回路に電流Iac(t)が流れると、電磁誘導の法則、L(dIac(t)/dt)=-V_L(t)からコイルに自己誘導起電力V_L(t)が生じ、キルヒホッフの第2法則からVac(t)+V_L(t)=0が成り立つので、L(dIac(t)/dt)=Vac(t)を積分することにより、

Iac(t)=(1/L)∫V0cos(ωt)dt=(1/ωL)V0sin(ωt)

となり、瞬時電流値の位相は瞬時電圧値の位相ωtに対して90度(π/2)遅れる(sin(ωt)=cos(ωt-π/2))。この場合は、(1)式を計算すると、電力はゼロになる。

同様に、キャパシタンスCのみが接続されている場合は、瞬時電流値の位相が90度進むので(Q=∫I(t)dt=CV(t)の関係を微分)、電力はゼロになる。

どちらの場合も電力がゼロになるのは、供給されたエネルギーが負荷で消費されずに、電源に戻るからである。このように、負荷で消費されずに電源に戻る電力を無効電力と呼ぶ。

一般には、負荷はL、C、Rの合成回路であり、瞬時電圧値Vac(t)と瞬時電流値Iac(t)の位相に差が生じる。この位相差をθとして、Vac(t)=V0cos(ωt)、Iac(t)=I0cos(ωt-θ)を(1)式に代入して電力を計算すると、

P=(1/2)V0×I0×cosθ=Vrms×Irms×cosθ(Vrms、Irmsは、Vac(t)、Iac(t)の実効値

となる。これは、(電圧ベクトルに対する)電流ベクトルの同相成分Irms×cosθが、実際に負荷で消費されるエネルギーに寄与することを意味し、

有効電力=Vrms×Irms×cosθ [W]、Wは有効電力の単位

となる。

一方、(電圧ベクトルに対する)電流ベクトルの直交成分Irms×sinθは、負荷で消費されず電源に戻るエネルギーに寄与するので、

無効電力=Vrms×Irms×sinθ [var]、varは無効電力の単位

となる。

Vrms×Irms [VA]、VAは皮相電力の単位

は、実際に負荷で消費される電力ではなく、電源から負荷に供給される見かけ上の電力であり、皮相電力と呼ばれる。

また、cosθ=有効電力/皮相電力は力率(power factor)と呼ばれる。

有効電力、無効電力、皮相電力については、以下を参照。

交流電力

電気主任技術者-電験3種の試験と実務有効電力と無効電力

dissipation factor(損失係数)

LCR測定に関する翻訳で、dissipation factor(損失係数)という言葉がよく出てくる(例えば、U1730Cシリーズ ハンドヘルドLCRメータのp2)。損失係数は、コンデンサの性能指標の1つである。

コンデンサのキャパシタンスCは、形状パラメータ(電極の面積S、電極間の距離d)と電極間の誘電材料の誘電率εから、C=ε(S/d)で与えられる。しかし、実際には、誘電材料の漏れ電流による誘電損失があるので、図2のようにキャパシタンスCを、純粋なキャパシタンスCpとコンダクタンスGの純抵抗(R=1/G)の並列回路でモデル化して、複素誘電率を導入する。この複素誘電率の実数部と虚数部の比が損失係数(ロス・タンジェント、誘電正接、タンデルタとも呼ばれる)である。

図1

図1

図2

図2

図2から、

損失係数 = (G/(ωC0))/(Cp/C0)
      = G/(ωCp)
      = 1/(RωCp)         、G=1/Rなので
      = (V^2/R/ω) / (Cp*V^2) 、分母と分子にV^2を掛ける
      = (1サイクル毎の抵抗Rによる損失エネルギー)/(コンデンサに蓄積されているエネルギー)

となり、損失係数が小さいほど、抵抗成分による損失エネルギーが少なく、自己発熱の少ない優れたコンデンサと言える。

損失係数については、以下を参照

誘電体測定の基礎