Decision Feedback Equalization(デシジョン・フィードバック・イコライゼーション)

高速デジタル伝送に関する測定の翻訳で、Decision Feedback Equalization(デシジョン・フィードバック・イコライゼーション)という言葉がよく出てくる(例えば、PCI Express 3.0® 校正チャネル)。Decision Feedback Equalizationは、「判定帰還型等化」と訳されることもある。

数十Gbpsのデータレートでの高速デジタル伝送では、高周波成分の損失が大きくなり、伝送線路がローパス・フィルタとして働き、その結果、符号間干渉(ISI)が生じ、アイ・パターンがつぶれて、受信側でロジック値(0、1)の判定ができなくなる。このようなISIを除去してアイを開くために、送信側での対処としてプリエンファシスやディエンファシス、受信側での対処としてイコライズなどの手法が用いられる。

受信側でのイコライズ手法として、リニア・イコライゼーションとデシジョン・フィードバック・イコライゼーションがある。

リニア・イコライザーションは、伝送線路の周波数特性を補償するように、損失の大きい高周波成分を増幅し、低周波成分を減衰することにより、ISIを除去する手法である。これは、利得調整が周波数軸上で行われるため時間軸上のISIを正確に除去できないという問題や、ノイズも一緒に増幅するという問題がある。

デシジョン・フィードバック・イコライゼーションは、先行するロジック値(ロジック波形)の0、1を判定(デシジョン)した後、その波形を遅延回路に通し、(イコライズ後の波形と理想波形との誤差が最小になるように最小2乗法などで最適化した)イコライズ係数を乗算して、0、1を判定(デシジョン)した波形の直前の波形と加算する(フィードバックする)ことにより、ISIの影響を除去する手法である。これは、先行する波形に基づいた補正なので、ノイズを増幅することはない。

デシジョン・フィードバック・イコライゼーションについては、以下を参照。

Infiniium 90000A シリーズ・オシロスコープでのイコライゼーション手法の使用

10Gbit/sクラスの高速電気伝送を実現する波形整形回路の動作原理と最新動向

UART

シリアル・バス測定に関する翻訳に、UARTという言葉がよく出てくる(例えば、InfiniiVision 3000 X シリーズ新・定番オシロスコープ用シリアル・バス・アプリケーション)。

UARTは、Universal Asynchronous Receiver Transmitter(汎用非同期送受信回路)の略で、パラレル信号をシリアル信号に変換したり、その逆に変換することにより、非同期(調歩同期)式のシリアル通信を行うためのデバイス(集積回路)ある。電子レンジや炊飯器などの家電製品や産業用機器などのマイクロコントローラ(マイコン)のほとんどに、UARTまたはUSART(Universal Synchronous and Asynchronous Receiver and Transmitter)が搭載されていて、小規模システム内通信に使用されている。RS-232C規格に準拠する信号レベルに変換するICと組み合わせて、システム外の機器との通信に利用されることも多い。

非同期(調歩同期)式とは、クロック線を用いずに信号線のみで通信する方式で、1文字(キャラクタ)のデータ(7ビットまたは8ビット)の前後にスタートビットとストップビットを置いて、データの始まりと終わりを知らせる(1文字分のデータごとに同期をとる)ことにより、通信する方式である。各文字を送信するタイミングは任意なので非同期式と呼ばれる。

同期式は、信号線とクロック線を用いて通信する方式で、受信側はクロック信号のタイミングに合わせてデータを読み取る。

UARTについては、以下を参照。

古典回路屋 > dsPIC入門 > シリアル通信 > PCとつなぐ1~シリアル通信について~

reflection tracking(反射トラッキング)、transmission tracking(伝送トラッキング)

ネットワーク・アナライザ測定に関する翻訳で、reflection tracking(反射トラッキング)、transmission tracking(伝送トラッキング)という言葉が出てくる(例えば、ベクトル・ネットワーク・アナライザ用電子校正(ECal)モジュールのp6)。

測定システムの誤差は、

系統(システマティック)誤差:測定器やセットアップの不完全性に起因したもので、時間経過に対して一定で予測可能な誤差であり、校正により定量化して測定値から除去可能な誤差

偶然(ランダム)誤差:時間経過に対してランダムに変動する予測不可能な誤差であり、校正により除去できない

ドリフト誤差:校正後に、温度などにより測定システムの動作が変化して生じる誤差で、再校正を行うことにより除去できる

に分類できる。

ネットワーク・アナライザ測定の系統誤差には、

信号の漏れに関連した、方向性とクロストーク

信号の反射に関連した、信号源インピーダンス不整合と負荷インピーダンス不整合

基準経路と測定経路の周波数応答の違いである、反射トラッキングと伝送トラッキング

がある。

ネットワーク・アナライザ測定では、被測定デバイス(DUT)に信号(入射信号)を入力して、DUTにより反射された信号(反射信号)とDUTから出力された信号(伝送信号)を測定する。入射信号は、パワー・スプリッタで2つに分割されて、一方はレシーバのR(基準)入力端子に入力され、他方はDUTに入力される。DUTからの反射信号は、DUTの直前のカプラなどで分離されてレシーバのA入力端子に入力される。DUTを通過した伝送信号は、DUTの直後のカプラなどで分離されてレシーバのB入力端子に入力される。レシーバのR(基準)入力端子に入力された信号の振幅(位相)とレシーバのA入力端子に入力された信号の振幅(位相)を比較する(比をとる)ことにより、反射係数(SパラメータのS11)が求められる。同様に、レシーバのR(基準)入力端子に入力された信号の振幅(位相)とレシーバのB入力端子に入力された信号の振幅(位相)を比較する(比をとる)ことにより、伝送係数(SパラメータのS21)が求められる。このときの、基準信号(入射信号)がレシーバに入力されるまでの経路と、反射信号や伝送信号がレシーバに入力されるまでの経路は同一ではない(トラッキングしない)ので、それぞれの経路の周波数応答特性に差が生じ、測定誤差の要因になる。この基準信号経路と反射、伝送信号経路との周波数応答の差が、反射トラッキング、伝送トラッキングである。

反射トラッキング、伝送トラッキングについては、以下を参照

計測の基礎セミナ RF/マイクロ波コース ネットワーク・アナライザの基礎のp69

PAM4

100Gイーサネットなどの広帯域通信測定に関する翻訳で、PAM4という言葉が出てくる(例えば、広帯域AWGのマルチレベル・シグナリング手法によるデータ・スループットの最適化)。

PAMは、Pulse Amplitude Modulation(パルス振幅変調)の略である。「0」と「1」から成るビット列を、そのまま2つの電圧レベル(「0」は「ロー電圧」、「1」は「ハイ電圧」に対応させる)のパルス信号として変調して伝送するNRZ信号は、2値パルス振幅変調(PAM2)である。「0」と「1」から成るビット列を、4つの電圧レベル(「00」を「L1電圧」、「01」を「L2電圧」、「10」を[L3電圧」、「11]を「L4電圧」に対応させる)のパルス信号として変調して伝送する方式が、4値パルス振幅変調(PAM4)である。「PAM-4」と略記されることもある。

最近の動画配信やクラウドストレージなどの普及により、データセンターのIPトラフィック量が増大し続け、それを処理するために、スイッチ・ファブリックのバックプレーン通信速度の増大も余儀なくされている。このような高速バックプレーン通信のための規格は、IEEE P802.3bjの100 Gbps Backplane and Copper Cableというタスクフォースで議論されていて、従来のNRZ(PAM2)を用いる方式とPAM4を用いる方式の両方が検討されている。NRZを用いる方式では、伝送速度が速くなると伝送帯域幅が広くなり、伝送損失が大きくなるので、高品質の伝送媒体(物理層)を使用する必要があるという欠点があるが、送受信機器に既存のアーキテクチャを使用できるという利点がある。その反対に、PAM4を用いる方式では、多値変調により伝送速度が速くなってもそれほど伝送帯域幅が広くならないので、既存の伝送媒体(物理層)を使用できるという利点があるが、新しいアーキテクチャの送受信機器が必要になるという欠点がある。

100 Gbps Backplane and Copper Cableについては、以下を参照

IEEE P802.3bj 100 Gb/s Backplane and Copper Cable Task Forceのホームページ > Public AreaのTask Force Meeting Materials(英語ページ)