レーダー測定やシミュレーションに関する翻訳で、RCS(レーダー断面積)という言葉がよく出てくる(例えば、フェーズド・アレイ・レーダ・システムの効果的な開発手法のp6)。RCSは、Radar Cross-Section(レーダー断面積)の略である。
radarは、RAdio Detecting and Ranging(電波探知および測距)の略で、ターゲットに電波を発射して、その反射波を測定することにより、ターゲットの方向や距離を測定する装置である。軍事目的に開発されたものであるが、コンクリート建築物の内部にある鉄筋や配管の位置特定に利用されたり、自動車の衝突防止システム用に研究開発が行われている。
レーダーの送信アンテナから発射された電波がターゲットに照射されると、そのターゲットにより電波が散乱(反射)され、受信アンテナでその反射波を受信する。受信される電波の大きさは、ターゲットの材質、形状、大きさに依存する。
ターゲットが完全導体(金属)の球の場合は、照射された電波がターゲットを透過したり、ターゲットに吸収されて熱に変換されることなく、照射されたエネルギーが100%等方的に散乱される。この完全導体球の断面積を基準にした(に換算した)ものがターゲットのレーダー断面積である(すなわち、ターゲットを完全導体球に置き換えて、同じ大きさの反射波が受信された場合、この完全導体球の断面積が、ターゲットのレーダー断面積である)。したがって、レーダー断面積は有効反射断面積とも呼ばれる。
戦闘機などでステルス性が要求される場合は、レーダー断面積が小さくなる材料(電波を反射せずに吸収して熱に変える材料)が使用され、小型木造漁船など電波が透過して大型船舶のレーダーに捕捉され難い船には、金属の反射板を装備してレーダー断面積を大きくする。
レーダー断面積σの厳密な定義は、レーダーアンテナとターゲット間の距離をr、ターゲット位置におけるレーダー送信波の電界強度をEinc、ターゲットで散乱されてレーダーアンテナに戻ってくる方向の反射波の電界強度をEscatとすると、
σ=lim 4πr^2|Escat/Einc|^2、r->∞ (1)
である(ターゲットに入射する電波が平面波でないと、ターゲットで等方的に散乱されないので、r->∞の極限をとっている)。
(1)式は以下のようにして求めることができる。
ターゲット位置におけるレーダー送信波の電力密度(単位面積あたりの電力)をPincとすると、ターゲットのレーダー断面積σによって、σPincの電力がターゲットに捕まり、その電力σPincすべてをターゲットが等方的に散乱(反射)するので、ターゲットによる散乱波の電力密度Pscatは、σPincをターゲットを中心とした半径(距離)rの球の表面積4πr^2で割ることにより、
Pscat=σPinc/4πr^2
なので、
σ=4πr^2(Pscat/Pinc)
と求まる。電力は電界強度の2乗であることから、(1)式が得られる。
レーダー断面積については、以下を参照。
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