random jitter(ランダム・ジッタ)、deterministic jitter(デターミニスティック・ジッタ)

高速デジタル・デザインのシグナル・インテグリティに関する測定やシミュレーションの翻訳で、random jitter(ランダム・ジッタ)、deterministic jitter(デターミニスティック・ジッタ)という言葉がよく出てくる(例えば、ジッタ分離を用いた高速デジタル・デザイン向けシミュレーションの革新的ワークフローのp3)。

ジッタとは、信号波形の時間軸方向のゆらぎである。デジタル信号では、理想的なデジタル波形がロジック遷移の(0と1を区別する)しきい値と交差する時間位置と、そのデジタル信号の実際のアナログ波形がロジック遷移のしきい値と交差する時間位置との差がジッタである。ジッタが大きいと、アイ・パターンで水平方向(時間軸方向)にアイが閉じる原因となり、ビット・エラー・レートを悪化させる。

ジッタは、ランダム・ジッタとデターミニスティック・ジッタの2つの成分に大きく分類される。

ランダム・ジッタは、回路内の熱雑音、フリッカ・ノイズ、ショット・ノイズなどのランダム・プロセス(確率的にランダムに発生する事象)に起因するもので予測が不可能である。したがって、時間軸方向のゆらぎの大きさはガウス分布に従い、理論上大きさが-∞~+∞のジッタが存在する(確率密度関数に境界のない(非有界)ジッタである)が、大きなジッタの発生頻度は極めて低い。このことから、ランダム・ジッタの大きさは、分布の幅(標準偏差σ)で評価され、アイ・パターンにはロジック遷移を表わす軌跡の幅(不明瞭さ)として現れる。

デターミニスティック・ジッタは、確定的ジッタや決定論的ジッタと訳されることもある。これは、システムに関する情報がすべてわかっていれば、原理的に正確に予測できるもので、同一のデータでは常に同一のジッタが生じ、アイ・パターンでは、ロジック遷移を表わす軌跡の形状として現れる。デターミニスティック・ジッタの大きさの分布は、ランダム・ジッタとは異なり、境界がある(有界な)ので、分布のp-p値で評価される。

デターミニスティック・ジッタは、周期ジッタとデータ依存ジッタに分けられる。周期ジッタは、周期的に繰り返されるジッタであり、システムと結合している外部のスイッチング電源ノイズなどのデターミニスティックなノイズ源に起因したものであり、ビット・ストリームの0、1のパターンには依存しない非相関ジッタである。データ依存ジッタは、ビット・ストリームの0、1のパターンに依存する相関ジッタで、波形の立ち上がり時間と立ち下がり時間が等しくなかったり、ロジック遷移を決定するしきい値が変動することによって生じるデューティ・サイクル歪みや、0または1が連続すると伝送線路のローパス・フィルタ特性により0と1の遷移部分で波形が干渉するシンボル間干渉に起因したものである。

ランダム・ジッタとデターミニスティック・ジッタについては、以下を参照。

クロック・ジッタ解析によるシリアル・データのBERの低減のp6~7を参照

IBIS

高速シリアル通信のシミュレーションに関する翻訳で、IBISという言葉が出てくる(例えば、IBIS AMIチャネル・シミュレーション・フローを用いたSERDESデザインについて)。

IBISは、Input/Output Buffer Information Specificationの略である。高速デジタルICが搭載されたプリント基板には高速デジタル信号が流れるので、基板の設計にはシミュレーションが不可欠である。電気特性をシミュレートするには、ICの入出力ピンの特性を表現する入出力バッファ回路モデルが必要で、その1つがIBISモデルである。

回路モデルとして、SPICEモデルが有名である。しかし、SPICEモデルでは、ICの実際のI/O回路の素子の接続や構造を詳細に記述して特性を表現するので、シミュレーション速度が遅いという問題点と、SPICEモデルの記述から回路が読み取られてしまう(設計資産(IP)が漏洩する)という問題点がある。この問題を解決するために、Intel社が1990年代はじめにPentiumプロセッサのサポートのために公開したモデルが、最初のIBISモデルと言われている。現在は、IBIS Open ForumでIBIS仕様のサポートや更新が行われていて、IBIS6.0の仕様が公開されている。

IBISモデルは、デバイス内の実際の素子の接続や構造を詳細に記述して入出力の電気特性を表現するのではなく、デバイスの内部構造を無視して、入出力の特性(behavior;ビヘイビア)を正しく表現するためのビヘイビア(動作記述)モデルである。基本的には、入出力ピンの電流/電圧とタイミング情報のデータをテーブル(表)として記述したり、数式や等価回路を用いて記述したものなので、非常に高速に動作し、入出力バッファ回路が完全にブラックボックス化される。

IBISモデルについては、以下を参照

これだけは知っておきたいアナログ用語:IBISモデル

IBIS-AMIモデルを使用した高速シリアル・チャネルのシミュレーション

IBIS BEHAVIORAL MODELS(英語PDF)

spectrum(スペクトラム)

フーリエ級数展開1_r1
信号解析に関する翻訳に、spectrum(スペクトラム)という言葉がよく出てくる(例えば、リアルタイム・スペクトラム・アナライザ(RTSA)Xシリーズ シグナル・アナライザ)。

オシロスコープの画面では、時間経過に対する信号の大きさの変化が(横軸が時間、縦軸が大きさのグラフ上の波形として)表示される。これは、信号の時間領域(タイムドメイン)表示と呼ばれる。スペクトラム・アナライザの画面では、時間領域の信号波形を構成する各周波数成分の大きさ(横軸が周波数、縦軸が大きさのグラフ上に各周波数成分の大きさ)が表示される。これは、信号の周波数領域(周波数ドメイン)表示と呼ばれる。このスペクトラム・アナライザの画面上の各周波数成分の大きさがスペクトラム(スペクトルとも呼ばれる)である(時間/周波数/モーダル・ドメインの概要のp6の図2.1、2.2を参照)。
フーリエ級数展開2
周波数成分とは、時間領域の信号波形(任意の周期波形)を、その基本波周波数ωとn次高調波周波数nωの正弦波に分解したものである。

同じ信号の時間領域表示と周波数領域表示(スペクトラム)との関係は、時間領域の任意の周期波形f(t)が、その基本波周波数ωとn次高調波周波数nωの正弦波(sinとcos)の無限和(無限級数)で一意に表わすこと(フーリエ級数展開)が可能であるという事実にもとづいている(左図)。
フーリエ級数展開3
フーリエ級数展開が可能なことから、フーリエ変換により、時間領域の任意の信号波形を周波数領域のスペクトラムに変換でき、逆フーリエ変換により、周波数領域のスペクトラムから時間領域の波形に変換できる。

Y-factor method(Yファクタ法)

雑音指数測定に関する翻訳で、Y-factor method(Yファクタ法)という言葉が出てくる(例えば、雑音指数セレクション・ガイドのp3)。

雑音指数の測定法の1つとして、Yファクタ法がある。雑音指数とは、信号がデバイスを通過する際の、デバイスの入力端でのS/N比と出力端でのS/N比との比であり、「デバイスを通過することによって生じるS/N比の減少度あるいは劣化度」を意味する。デバイスの入力端での雑音パワーをNin、デバイスの利得をG、デバイスで付加される雑音パワーをNとすると、雑音指数(F)は、

F=(N+G*Nin)/(G*Nin)

となる(雑音指数を参照)。入力端での雑音パワー(Nin)は、kTB(kはボルツマン定数(1.38×10^-23 J/K)、Tは入力雑音源の温度(K)、Bはシステムの雑音帯域幅(Hz))なので、

F=(N+GkTB)/(GkTB) (1)

となる。この式の分子(N+GkTB)はデバイスの出力端での雑音パワー(Nout)であり、

Nout=N+GkTB (2)

と書け、Noutは入力雑音源の温度Tに比例する直線で表される。したがって、N(とkBG)を求めるためには、入力雑音源の2つの温度(T_coldとT_hot)に対するデバイスの出力端での雑音パワー(Nout_coldとNout_hot)が分かればよい。

このために、Yファクタ法では、ENR(Excess Noise Ratio、過剰雑音比)が既知のノイズ・ソースを使用する。ENRとは、T_hot(ノイズ・ソースを「オン」に切り替えたときの温度)とT_cold(ノイズ・ソースを「オフ」に切り替えたときの温度)の差を290K(雑音指数測定の基準温度)で割ったもので、

ENR=(T_hot-T_cold)/290、ENR(dB)=10log((T_hot-T_cold)/290)

である。例えば、0dBのENRを持つノイズ・ノースの「オン」と「オフ」を切り替えると、290Kの温度変化(T_hot-T_cold)に対応する。また、ENRの校正時にT_cold=290K=T0とするので、簡単のために、ここでは、

ENR=(T_hot-T0)/T0 (3)

とする。

以上から、デバイスの入力端に、ENRが既知のノイズ・ソースを接続して、ノイズ・ソースを「オン」に切り替えたときのデバイスの出力端での雑音パワー(Nout_hot)と、「オフ」に切り替えたときのデバイスの出力端での雑音パワー(Nout_cold)との比(この比をYファクタと呼ぶ)

Y=Nout_hot/Nout_cold=Nout_hot/Nout_0 (4)
(簡単のために、T_cold=290K=T0のときのNout_coldをNout_0とした)

を測定することにより、以下のようにして、YとENRを用いてF(雑音指数)を表わすことができる。

(3)式から(T_hot-T0)=ENR*T0、(4)式からNout_hot-Nout_0=Nout_0*(Nout_hot/Nout_0-1)=Nout_0*(Y-1)なので、(2)式の直線の傾きkGBは、

kGB=(Nout_hot-Nout_0)/(T_hot-T0)=(Nout_0/T0)*((Y-1)/ENR) (5)

となる。また、(2)式はT=T0のときにNout_0=N+kGBT0なので、(5)式を代入して、

N=Nout_0-kGBT0=Nout_0-Nout_0*((Y-1)/ENR)=Nout_0(1-((Y-1)/ENR) (6)

となる。また、(1)式はT=T0のときにF=(N+kGBT0)/(kGBT0)なので、(5)式と(6)式を代入して、

F=(N+kGBT0)/(kGBT0)=N/kGBT0+1=ENR/(Y-1)

と求まる。

このようして雑音指数を求める方法をYファクタ法(ホット/コールド・ソース法)と言う。

Yファクタ法については、以下を参照。

RFおよびマイクロ波の雑音指数測定の基礎

Noise Figure Measurements(英語pdf)