near field(近傍界)、far field(遠方界)

アンテナ測定に関する翻訳で、near field(近傍界)、far field(遠方界)という言葉がよく出てくる(例えば、PNAレシーバによるアンテナ/RCS測定の時間短縮)。

電波は、アンテナなどの放射源から球面波として放射される(放射源を中心にして波面が球状に拡がりながら伝搬する)。放射源から近い距離では波面(波の同位相の点を結んだ面)は湾曲した球面(すなわち、球面波)であるが、波源から遠くなると波面は平面(すなわち、平面波)に近くなる。定性的には、近傍界とは、波面を球面と考える必要のある領域で、遠方界とは波面を平面とみなしてよい領域である。光の伝搬との類似から、近傍界をフレネル領域、遠方界をフラウンフォーファー領域と呼ぶこともある。

定量的な定義は、電荷が加速度運動すると電磁波が発生することをマックスウェル方程式を用いて計算する(電流ベクトルが与えられたときのベクトルポテンシャルから電磁界を計算する)必要があり、複雑でここには書ききれないが、概要は以下のようである。電磁界の大きさの計算結果に、放射源からの距離をrとして、1/r、1/r^2、1/r^3に比例する項(それぞれの項は、放射界(空間に電波として放出される成分)、誘導電磁界(ビオ・サバールの法則に従う成分)、準静電界(双極子による電界)と呼ばれる)が出てくる。遠方界(rが大きい)では、1/r^2、1/r^3に比例する項は、1/rに比例する項に比べて急速にゼロに近づくので、1/rの項のみが残る。近傍界と遠方界の効果が同程度となる条件(1/r^2と1/r^3に比例する項が、1/rに比例する項に等しくなる条件)から、近傍界と遠方界の境目が計算でき、この値はλ/2π(λ:電磁波の波長)である。

近傍界、遠方界については、以下を参照。

Near field or far field?(英語pdf)

電流ベクトルが与えられたときの電磁界の計算については、以下を参照

微小電流源からの放射電磁界の導出 その2 E、Hの算出Comments

SFP+

10ギガビットEthernet(10GbE)関連の測定に関する翻訳に、SFP+という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent 86100CU-401 アドバンスド・アイ解析ソフトウェアのp1)。

光ファイバを用いた光通信ネットワークは、都市間を結ぶコア(基幹)ネットワークや都市内を結ぶメトロネットワークだけでなく、各家庭や企業と直接接続するアクセスネットワークにも広く普及している。また、大量のデータを処理するデータセンターなどでも機器間の接続に光ファイバが用いられている。

このような光通信ネットワークでは、光信号を送受信するために、光信号と電気信号の変換を行なう光伝送装置(光送受信器(光トランシーバ、光送受信モジュールとも呼ばれる)が搭載されている)が必要である。大容量データ通信では、光伝送装置に多くの光トランシーバを搭載する必要があり、保守性、拡張性、小型化、省電力化が要求されてきた。このような状況で登場したのが、SFP(Small Form-factor Pluggable)と呼ばれる活線挿抜可能な小型光トランシーバである。SFPは、1GbEの時代のもので、MSA(Multi Source Agreements)と呼ばれる業界団体により形状、インタフェースなどが規定されている。10GbE用にSPFにEMIシールドを強化したものがSFP+である。SFPとSFP+は形状がほとんど同じなので光伝送装置に混載することができる。

SFP+については、以下を参照。

住友電工のホームページ > 技術開発 > 技術論文集 SEIテクニカルレビュー > バックナンバー > 2011年7月号 No.179 > 拡大する光通信技術(進化する光データリンク)

DWDM(高密度波長分割多重化)

光測定に関する翻訳に、DWDM(高密度波長分割多重化)という言葉がよく出てくる(例えば、81980A、81960A、81940A、81989A、81949A、81950Aコンパクト波長可変レーザ光源のp2)。DWDMは、Dense Wavelength Division Multiplexingの略で、「高密度波長分割多重」や「高密度波長分割多重方式」とも訳される。

光ファイバケーブルによる通信は、日本では1980年代初頭にNTTによる電話回線の光ケーブル化により実用化された。1990年代中頃以降のインターネットの急速な普及により、特に都市間を結ぶコア(基幹)ネットワークや都市内を結ぶメトロネットワークで大量のデータを伝送する必要が生じたため、それまでの1本の光ファイバで1つの光搬送波(波長)を利用する方式から、1本の光ファイバで複数の光搬送波(波長)を利用する方式が開発された。これが、WDM(波長分割多重化)と呼ばれる方式である。WDMによる通信容量拡大の利点は、時分割多重化や変調方式を変更する方法に比べて、別の波長用の送受信装置を追加するだけで既存の送受信装置をそのまま利用でき低コストであるという点にある。

WDMには、粗密度波長分割多重化(Coarse Wavelength Division Multiplexing、CWDM)と高密度波長分割多重方式(Dense Wavelength Division Multiplexing、DWDM)がある。

CWDMは、波長間隔が広い(20 nm)ので、各波長を分離するフィルタなどの部品を安価に製造でき、DWDMに比べて低コストでネッワークを実現できるが、多重化可能な波長は10数個程度である。また、波長間隔が広いので、すべての波長の光を同時に増幅できる光増幅器を利用できないことから、CWDMは比較的短い距離(数十km)のメトロネットワークで利用されている。

DWDMは、波長間隔が狭く(1 nm以下)数十個以上の波長を多重化可能であるが、高精度の部品や制御技術が必要なので、高価なネットワークになる。また、DWDMのバンド幅をカバーするエルビウム・ドープ光ファイバー増幅器(EDFA)が開発されたことにより、DWDMは大容量伝送が必要な(高コストでもペイする)長距離のコアネットワークや光ファイバー海底ケーブルで使用されている。

DWDMについては、以下を参照。

昭和電線ホールディングス株式会社のホームページ > 企業情報 > SWCCグループ研究開発 > 昭和電線レビュー > 昭和電線レビュー VOL.51 > WDM通信システムとフォトニックネットワークの展望(370KB)

diplexer(ダイプレクサ)

測定器に関する翻訳で、diplexer(ダイプレクサ)という言葉がよく出てくる(例えば、ミリ波・サブミリ波周波数エクステンダーのp2)。

diplexer(ダイプレクサ)は、マルチプレクサの最も簡単なもので、2つのポートに入力された信号を混合して1つのポート(コモンポート)から出力したり、1つのポートに入力された信号を分離して2つのポートから出力する3ポートデバイスである。無線通信の分野では、ダイプレクサは、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、またはバンドパスフィルタを用いて信号を混合したり分離するので、周波数が離れている2つの比較的広い周波数バンドの混合や分離に使用される(例えば、地上波TVアンテナからの信号とBSアンテナからの信号を混合して一本のアンテナ線で送るための混合器や、混合されて一本のアンテナ線で送られてきた地上波TV信号とBS信号を分離してテレビのそれぞれのアンテナ端子に接続するための分波器としてよく見かける)。

diplexer(ダイプレクサ)によく似た用語に、duplexer(デュプレクサ)という用語がある。デュプレクサは、ダイプレクサとは異なり、Q値の高いキャビティ共振器を用いて、送信機と受信機が非常に近い周波数で同じアンテナを共用するために、2つの入力を混合したり分離するための3ポートデバイスである(例えば、レーダー信号の送受信や携帯電話のアップリンク/ダウンリンクで同じアンテナを共用するために使用されている)。

しかし、diplexer(ダイプレクサ)とduplexer(デュプレクサ)は、2つの入力を混合したり分離するための3ポートデバイスとして、区別なく使用されている場合もある。

diplexer(ダイプレクサ)については、以下を参照。

diplexer vs duplexer-difference between diplexer and duplexer(英語ページ)

Duplexers, Diplexers and Circulators(英語pdf)