A4WP

ワイヤレス給電の測定に関する翻訳に、A4WPという言葉が出てくる(例えば、オシロスコープによるA4WP(Alliance for Wireless Power)測定(パート1))。

電気製品を動かすためには、電力を供給する必要がある。通常、AC100Vのコンセントに電源ケーブル(電気を通すワイヤ)をつないで外部電源から電力を供給する(充電池を使用する場合も充電のために、外部電源にケーブルをつないで電力を供給する必要がある)。これに対して、ケーブル(ワイヤ)を使用しないで非接触で電力を伝送することをワイヤレス給電と呼ぶ(非接触給電、非接触電力伝送、ワイヤレス電力伝送とも呼ばれる)。1995年にソニーのICカードのFeliCaで実用化され、2000年以降、コードレス電話の子機、シェーバー、電動歯ブラシの充電用などで実用化されてきた。ワイヤレス給電には、給電のためにワイヤをつなぐための電極の露出がないので水などによる腐食が起こり難い、製品を密閉状態にできるので故障が起こり難いといった利点があり、製品開発の自由度や安全性が向上する。

ワイヤレス給電方式は、放射型(電磁波の遠方界(エネルギーが伝搬する領域)を利用する方式)と非放射型(電磁波の近傍界(エネルギーが蓄積される領域)を利用する方式)に大きく分けられる。放射型には、マイクロ波を使用して大規模宇宙太陽光発電所から地上に電力を伝送する構想がある。非放射型は、磁界結合方式(変圧器などで、1次(送電)側のコイルと2次(受電)側のコイルがつながっていなくても、電磁誘導により交流が流れることを利用)と電界結合方式(送電側と受電側がコンデンサ(絶縁層を挟んだ電極)で隔てれれていても交流が流れることを利用)に大きく分けられる。磁界結合方式は、電磁誘導型(通常の変圧器(密結合トランス)と同じ原理を利用したもので、送電側のコイルと受電側のコイルを接触するくらいに近づける必要がある)と磁界共振型(液晶ディスプレイのバックライトとしてLEDが普及する前に使用されていた冷陰極管を点灯させるために用いられる調相結合トランス(磁気漏れトランス、疎結合トランス、高周波共振変圧器とも呼ばれる)の原理と言われている。例えば、ここを参照)に分けられる。

電磁誘導型には、世界で200社以上が加盟しているWPC(Wireless Power Consortium)が推進しているQiという規格(日本で最も普及している)とIEEEやスターバックス、googleが加盟していることが特徴のPMA(Power Matters Alliance)が推進しているPowermatという規格がある。磁界共振型には、サムスンとクアルコムを中心に誕生したA4WP(Alliance for Wireless Power)が推進するRezenceという規格があった。PMAとA4WPは、2015年に統合され、AirFuel Allianceという団体になり、AirFuel Inductive(電磁誘導型)とAirFuel Resonant(磁界共振型)の2つの規格を推進している。

ワイヤレス給電については、以下を参照。

ワイヤレス給電の最新事情

ニコラテスラって素晴らしい > ワイヤレス電力伝送の原理説明

Cole-Cole plot(Cole-Coleプロット)

誘電率測定に関する翻訳に、Cole-Cole plot(Cole-Coleプロット)という言葉がよく出てくる(例えば、LCRメータおよびインピーダンス・アナライザを用いた誘電率/透磁率の測定ソリューションのp12)

誘電体にDC電圧(電界)を印加すると、誘電体内の電荷の分布に偏りが生じる(この現象を分極と呼ぶ)。分極には、電子分極、原子分極(イオン分極)、双極子分極(配向分極)がある。電子分極は、電界により原子の電子雲と原子核の相対位置が変化する(誘起双極子モーメントが生じる)ことによる分極である。原子分極は、電界によりイオン性結晶などで正に帯電した原子と負に帯電した原子の相対位置が変化することによる分極である。配向分極は、電界を印加していない状態では、永久双極子モーメントを持つ分子(水などの有極性分子)がブラウン運動によりランダムな方向を向いているのが、電界の印加により永久双極子モーメントがそろうことにより生じる分極である。

これらの分極は、静電界(DC電圧)をかけた場合は同時に現れるが、振動電界をかけた場合は、(電子や原子は分子に比べて軽く、周囲との相互作用が少ないので)電子分極や原子分極は振動数(周波数)が高くても振動電界に追随しやすく、誘電率(複素誘電率の実数部ε’と虚数部ε”)は高い周波数まで一定であり、原子分極では赤外領域に、電子分極では紫外線領域に共鳴が生じ、誘電率に共鳴型の分散(周波数による変化)が生じる。一方、配向分極では、周波数が低い場合は、振動電界に永久双極子モーメントが追随できるので誘電率は一定であるが、RFやマイクロ波周波数領域で追随できなくなり、誘電率(ε’)が低下し、誘電損失(ε”)がピークを示す。このε’の低下は、電界を印加した後、永久双極子モーメントがそろうまで少し時間がかかることに起因するもので、誘電緩和と呼ばれる。すなわち、配向分極は緩和時間τで特徴付けられる緩和型の分散を示す。

Cole-Coleプロットは、KENNETH S. COLEとROBERT H. COLEによる誘電緩和を表わす複素誘電率ε*の半経験式

ε*=ε’-iε”=ε_∞ + (ε_0-ε_∞)/(1+(iωτ)^(1-α)、ε’:ε*の実数部、ε”:ε”の虚数部、ε_∞:周波数が∞のときの誘電率、ε_0:周波数がゼロのときの誘電率、i:虚数記号、ω:周波数、α:0~1のパラメータ(α=0ときは誘電緩和に関するデバイの理論式を与える)、τ:緩和時間(電場をかけてから双極子モーメントが十分に配向するまでの時間)

を、その論文で、横軸をε’、縦軸をε”にして、ωを変化させながらプロットしたものが起源である。Cole-Coleプロットは、伝達関数のナイキスト線図と同じものである。

誘電緩和については、以下を参照。
一般社団法人日本食品工学会のホームページ > 学会誌 > 第9巻 No.3 > 電気物性と誘電緩和 本文PDF[1396K]

Dispersion and Absorption in Dielectrics(英語pdf、KENNETH S. COLEとROBERT H. COLEの論文)

デバイの理論式の導出については、以下を参照。

マイクロ波領域の誘電緩和で何がわかるかのp6の「2.2 デバイ型の複素誘電率スペクトルの導出」

Barker code(Barkerコード)

レーダ測定やシミュレーションに関する翻訳で、Barker code(Barkerコード)という言葉がよく出てくる(例えば、電子戦用信号作成:テクノロジーと手法のp12)。

リニア周波数変調(FM)を用いたパルス圧縮レーダーでは、距離分解能と探知距離(S/N比)を両立させるために、パルス幅Twを長くして、そのパルス内部の正弦波の周波数がTwの期間にリニアにΔf増加する信号(チャープ信号)を送信信号として用い、目標で反射された受信信号を、周波数の増加Δfに対してリニアに遅延時間が減少する回路に通すことにより、元のパルス幅Twを長くしても(S/N比を向上させても)、パルス幅を短く(圧縮)して(パルス幅Twからパルス幅1/Δfに圧縮して)、距離分解能を向上させることができる。

距離分解能と探知距離(S/N比)を両立させる手法として、リニア周波数変調(FM)を用いるパルス圧縮以外に、2値位相変調を用いるパルス圧縮手法がある。この方法では、パルス幅(Tw)が長いパルスを、パルス幅(Tw_s)の短いいくつかのサブパルス(Tw=n×Tw_s)に分割し、各サブパルスの位相をランダムなバイナリ符号列(+1(位相を変化させない)と-1(位相を180°反転する)の符号列)で変調して、送信する。この送信信号と目標で反射された受信信号との相互相関関数のピークの時間位置(時間遅れ)を求めることにより、サブパルスに分割しないパルスを用いる場合よりも短い遅延時間を求めることができる(距離分解能が向上する)。

上の相互相関関数の計算は、長いパルス(パルス幅(Tw))をn個の等間隔の短いサブパルス(パルス幅(Tw/n))に分割し、各サブパルスをランダムなバイナリ符号列で変調した送信波形f(t)と、送信信号が目標で反射して帰ってくるまでに減衰(減衰係数A)して遅延時間dだけズレた、送信信号と相似の受信信号g(t)=A×f(t-d)との相互相関関数の計算なので、送信信号の自己相関関数の計算となる。この自己相関関数のピーク値は、元のパルスの振幅の約n倍になり(すなわち、S/N比のSが大きくなるので探知距離が向上し)、ピークの幅は元のパルス幅(Tw)の1/nになる(すなわち、パルス幅に短くなるので距離分解能が向上する)。

このようなランダムなバイナリ符号列を用いると、自己相関関数のピーク値が大きくなるが、ピーク以外のサイドローブも発生し、目標の誤認につながる。このようなバイナリ符号列の内、自己相関関数のサイドロードの大きさが最小になるものが知られていて、Barker符号(コード)と呼ばれる。

パルス圧縮とBarker符号については、以下を参照。

A study of radar pulse compression using complementary series to modulate the transmitted waveform.(英語pdf)

京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻 集積システム工学講座 超高速信号処理分野 佐藤 亨 教授のホームページ > ディジタル信号処理論講義資料 > 追加テキスト(レーダーにおける距離計測とパルス圧縮)

backhaul(バックホール)

移動体無線の測定に関する翻訳で、backhaul(バックホール)という言葉がよく出てくる(例えば、フィールドにおけるRF/マイクロ波の干渉問題をリアルタイム・スペクトラム・アナライザ(RTSA)で解決する方法のp4)。

バックホールとは、通信の分野では、コアネットワーク(基幹回線網、バックボーン)とアクセスネットワーク(収容局と加入者を結ぶ、ネットワーク全体の末端の回線)を中継する回線である。

携帯電話やスマートフォンなどの移動体通信では、コアネットワークと、BBU(Base Band Unit、IPパケットとベースバンド信号との変換や基地局全体の制御を行なう装置)を備えた基地局との間の回線をバックホールと呼んでいる。BBUを備えた基地局と、RRH(Remote Radio Head、BBUからのベースバンド信号を電波で送信するためにRF信号に変換する(およびその逆を行なう)装置)を備えた張出し基地局との間の回線はフロントホールと呼ばれる。

スマートフォンでの動画視聴や動画投稿などによるモバイル端末からのインターネットの利用の増加、IoTの拡大などにより、移動体通信ネットワークのトラフィックの急拡大が予想され、モバイルフロントホールやモバイルバックホールで使用される光ネットワークの高速化、大容量化も重要な課題となっている。

通信トラフィック予測と、モバイルフロントホール、モバイルバックホールについては、以下を参照。

柔軟なサービス提供に向けた将来の光アクセス技術

IoT時代を支える無線ネットワーク技術