group delay(群遅延)

マイクロ波測定に関する翻訳に、”group delay”という言葉が出てくる。理科系の人でも、「群速度」という言葉は聞いたことがあるが、「群遅延」という言葉ははじめてという人も多いだろう。

これは、波が伝送ラインやフィルタなどのデバイスを通過したときに、その波に生じる歪みの尺度である。例えば、図1のような伝送ラインをパルス波が通過する場合を考える。このとき、通過時間としてちょうどパルス波の1波長に対応する時間がかかるとする。パルス波はその基本波と高調波でsinωt+(1/2)sin2ωt+(1/3)sin3ωt+…と表わされる(フーリエ級数展開される)ので(正しいパルス波のフーリエ級数展開はこうではないが、簡単のためにこうする)、伝送ラインを通過することにより、基本波(周波数ω)は1波長(位相360°)、2次高調波(周波数2ω)は2波長(位相360°×2)、3次高調波(周波数3ω)は3波長(位相360°×3)、…遅れると、元の波形が再現される。すなわち、波が伝送ラインを通過する際に、周波数と位相の遅れ(-φ)が比例するという特性を伝送ラインが持つとき(リニア位相応答という)、歪みが生じることなく元の波形が再現される。現実には、リニア位相応答からのズレが生じる(図2)。このズレを-(dφ/dω)で表わし、伝送時の歪みの尺度として、群遅延と呼んでいる。

最近では、AVアンプに群遅延を補正できるものがある。

図1

図2

Eye pattern(アイ・パターン)

計測関係の翻訳に、”eye pattern”という言葉が出てくる。アイ・パターンとはいったい何なのか、よくわからない翻訳者が多いのではないだろうか。身近なものでは、HDMIケーブルの規格にアイ・パターンが使用されている。3D映像の伝送に対応する最新のHDMI1.4では、情報伝送速度は最大3.4 Gbps(1秒間に0または1を34億個伝送可能)である。このような高速伝送では、0、1を表すパルス波形がなまり、0と1の区別が曖昧になり(「アイが閉じる」と表現する)、結果として0と1を逆に解釈してエラーが生じるのである。低品質のHDMIケーブルで映像がノイズまみれになったり、長いHDMIケーブルで映像が映らなくなるのはこのためである。参考として、以下のリンクを挙げておく。

ディジタル信号の正体を見る

高速差動伝送路評価の基礎からデバッグ手法まで

feature(備える)

“feature”という動詞を、「特長とします」と訳す翻訳者がよくいる。これでは、いかにも翻訳調である。例えば、”Accurate characterization is achieved with clean signals from the pattern generator, which features exceptionally low jitter and extremely fast transition times.”は、「正確な特性評価:パターン・ジェネレータからの信号は、きわめて低いジッタと高速な遷移時間を特長とします。」と訳してくる。ここで、魔法の訳語をお教えしよう。「備えている」と訳すのである。こうすれば、自然な訳になるのである。この「備えている」は他の英語表現にも活用できる。”is designed to ~”という表現もよく出てくるが、「~するように設計されています。」と訳すより、「~な機能を備えています。」と訳した方が自然な表現になる。他にも、”provide”や”have”を「提供します」や「持っています」と訳すより、「備えています」と訳す方が自然な表現になる場合が多い。

Integrity(信頼性)

これは、非常に訳し難い単語である。しかも、最近のコンピュータ/通信関係の文章に頻繁に登場する。辞書には「完全な状態」とか「整合性」という訳が載っているが、どれもしっくりこない場合がある。そのまま「インテグリティ」と訳されることもあるが、読者にとっては?な場合が多い。クライアントが訳を決めていればそれに従えばよいが、文意に当てはまらない場合もある。そういう場合は、私は、まず「信頼性」、次に「品質」と訳してみることにしている。例えば、”report integrity”という言葉あったとすると、「レポートの信頼性」と訳すと前後の文章との親和性が比較的高くなる。また、「レポートの品質」と訳しても前後の文章との親和性が比較的高い場合が多い。

Exabyte(EB)

今日、ある文章の翻訳にエクサバイト(EB)という単位が出てきた。テラバイト(TB)はハードディスクの容量で最近はよく聞く。T(テラ)はG(ギガ)の10の3乗倍、G(ギガ)はM(メガ)の10の3乗倍、M(メガ)はk(キロ)の10の3乗倍、k(キロ)は1の10の3乗倍だ。したがって、1 TB(テラバイト)=1000000000000 B(バイト)。1 EBというのは、1 TBの10の6乗倍なのである。因みに、1 TBの10の3乗倍は1 PB(ペタバイト)である。その文章によると、全世界の移動体通信(携帯電話やスマートフォン)による情報伝送量は2015年には月間6.3 EBに達するそうである。

Signaling(シグナリング)

無線関係の翻訳をしていると、よく”signaling”という言葉が出てくる。その意味は簡単に言うと「制御信号」だ。ほとんどの人が携帯電話やスマートフォンを使用しているが、いったいどのようにしてメッセージや動画のやり取りをしているのかその仕組みを気にかける人はほとんどいない。最近は、大量のデータのやり取りが増えてきて、それに対応するための仕組みも複雑化する一方である。そうすると、シグナリング(制御信号)も複雑化するのである。例えば、LTE-Advancedという仕組みがあるが、LTE-Advancedの概要を読めば、非常に込み入っていることがわかる。