マイクロ波測定に関する翻訳に、”group delay”という言葉が出てくる。理科系の人でも、「群速度」という言葉は聞いたことがあるが、「群遅延」という言葉ははじめてという人も多いだろう。
これは、波が伝送ラインやフィルタなどのデバイスを通過したときに、その波に生じる歪みの尺度である。例えば、図1のような伝送ラインをパルス波が通過する場合を考える。このとき、通過時間としてちょうどパルス波の1波長に対応する時間がかかるとする。パルス波はその基本波と高調波でsinωt+(1/2)sin2ωt+(1/3)sin3ωt+…と表わされる(フーリエ級数展開される)ので(正しいパルス波のフーリエ級数展開はこうではないが、簡単のためにこうする)、伝送ラインを通過することにより、基本波(周波数ω)は1波長(位相360°)、2次高調波(周波数2ω)は2波長(位相360°×2)、3次高調波(周波数3ω)は3波長(位相360°×3)、…遅れると、元の波形が再現される。すなわち、波が伝送ラインを通過する際に、周波数と位相の遅れ(-φ)が比例するという特性を伝送ラインが持つとき(リニア位相応答という)、歪みが生じることなく元の波形が再現される。現実には、リニア位相応答からのズレが生じる(図2)。このズレを-(dφ/dω)で表わし、伝送時の歪みの尺度として、群遅延と呼んでいる。
最近では、AVアンプに群遅延を補正できるものがある。