direct digital synthesis(ダイレクト・デジタル・シンセシス)

波形発生器に関する翻訳に、direct digital synthesis(ダイレクト・デジタル・シンセシス)という言葉がよく出てくる(例えば、33500Bシリーズ波形発生器)。direct digital synthesis(ダイレクト・デジタル・シンセシス)は、略してDDSと呼ばれる。

DDSは、基準クロックから、直接デジタル的に、周波数が可変の任意の波形を発生させる方式である。PLLと1/n分周器を用いた間接的な発生方式に対するものとして、ダイレクト・デジタル・シンセシスと呼ばれる。

DDSは、加算器とラッチ(レジスタ)を組み合わせた累積加算器(積算器、アキュムレータ)、1サイクルの波形データが記録されているROM、デジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバーターから構成されている。

正弦波を出力するDDSでは、ROMには、先頭アドレスから最終アドレスまでのアドレスビット幅に、正弦波の位相ゼロに対応する振幅値から正弦波の位相2πに対応する振幅値が書き込まれている。アキュムレータは、基準クロックに同期して積算設定ステップで積算していく(積算設定ステップが1の場合は積算値は0、1、2、・・・、積算設定ステップが2の場合は積算値は0、2、4、・・・などとなる)。この積算値がROMのアドレスになり、このROMのアドレスの振幅値がD/Aコンバーターに送られ、アナログ出力となる。これは、積算設定ステップをn、ROMのアドレスビット幅をmビット、基準クロックの周波数をf_referenceとすると、DDSのアナログ出力の周波数f_outが、

f_out=(n/2^m)×f_reference

となることを表している。nを変化させると、瞬時に出力周波数が変化し、位相連続な波形を容易に発生できる。また、ROMに正弦波以外の任意の波形を1サイクル分書き込んでおけば、任意の周波数の任意の波形を発生でき、PLLと1/n分周器を用いた方式に比べて、回路が簡単で安価である。

ダイレクト・デジタル・シンセシスについては以下を参照。

DDS について

高品質の波形を簡単、効率的かつ柔軟に生成するDDSデバイス

additive noise(相加性雑音)

ノイズ信号の発生/測定に関する翻訳で、additive noise(相加性雑音)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight 81150A/81160Aパルス・パターン/ファンクション/任意波形/ノイズ発生器のp3)。

additive noise(相加性雑音)は、加法性雑音とも呼ばれ、信号をs(t)、雑音をn(t)として、観測(測定)した信号をy(t)とすると、

y(t)=s(t)+n(t)

と表されるものであり、信号s(t)が存在しない場合(s(t)=0の場合)でもy(t)=n(t)が観測される。

一方、multiplicative noise(相乗性雑音)は、乗法性雑音とも呼ばれ、

y(t)=s(t)×n(t)

と表されるものであり、信号s(t)が存在しない場合(s(t)=0の場合)は、y(t)=0となって雑音は観測されない。

相加性雑音の代表的なものとして、熱雑音(絶対零度以外のすべての物質に存在)がある。相乗性雑音の代表的なものとして、マルチパスフェージングや音の残響(直接波が存在しないと間接波は存在しない)、位相雑音(搬送波が存在しないと搬送波近傍の位相雑音は存在しない)などがある。

breakdown voltage(ブレークダウン電圧)

パワーMOSFETの測定に関する翻訳で、breakdown voltage(ブレークダウン電圧)というよく言葉が出てくる(例えば、B1505Aによる1500 A/10 kVハイパワーMOSFETの特性評価のp4)。

パワーMOSFETは、身の回りのさまざまな電化製品のスイッチング電源やPCのマザーボード上のDC-DCコンバーターなどに広く使用されている。MOSFETの動作原理説明では、P型半導体基板の上部表面の水平(横)方向にソース電極、ゲート電極、ドレイン電極を配した横型MOSFETの図(例えば、このページの図)が用いられるが、パワーエレクトロニクスでは、損失を少なくするために低オン抵抗の縦型MOSFETがよく用いられる。縦型MOSFETは、N型半導体基板の上にN型のピタキシャル層を形成し、その上部表面に高濃度のN型層と低濃度のP型層を2重拡散で形成したもので、ソース電極とゲート電極はその上部に存在し、ドレイン電極はN型半導体基板の下に存在する(例えば、このページの図)。このような構造にすることにより、横型MOSFETよりも電流が流れる経路が広くなり、低オン抵抗という特性が得られる。

縦型MOSFET構造には、拡散形成されたP型層とエピタキシャル形成されたN型層のPN接合による寄生ダイオードと、(拡散形成されたN型層-拡散形成されたP型層-エピタキシャル形成されたN型層)によるNPN型の寄生トランジスタが存在する。ブレークダウン電圧とは、この寄生ダイオードに逆バイアス電圧が印加され、アバランシェ増倍効果(例えば、ここを参照)に起因する大きな電流が流れ始める電圧のことである。この大電流により温度が上昇し寄生トランジスタのベース抵抗が大きくなり、その抵抗での電圧降下が大きくなって、寄生トランジスタがオンになり、破壊に至る。

MOSFETのブレークダウン電圧については、以下を参照。

インフィニオン テクノロジーズのホームページ > 製品 > MOSFET > 技術資料他 > Application Notes >
パワーMOSFETの基礎パワーMOSFETアバランシェ設計ガイドライン

SIGFOX

IoTデバイスの測定に関する翻訳に、Z-Waveという言葉が最近よく出てくる(例えば、IoT:デザイン/テストに必要なテクノロジーとソリューションのp4の図1)。

IoT向けの無線通信規格として、近距離ネットワーク用のBluetooth Low Energy (BLE)ZigBeeWi-SUNZ-Wave、中距離ネットワーク用の802.11ah、長距離ネットワーク用のNB-IoTLoRaWANなどがある。SIGFOXは、LoRaWANとともに低消費電力で広い範囲をカバーするLPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれるIoT向けの長距離ネットワーク用の規格である。

SIGFOXは、2009年にフランスのSIGFOX社が開発した規格で、この規格の推進手段として、1つの国で1つの事業者と契約してその国のネットワークを構築するという戦略をとっている。日本では、京セラコミュニケーションシステムがライセンスを受けている。SIGFOXは、欧州を中心に普及していて、火災報知器などのホームセキュリティ、気象観測、スマートパーキング、水道メーター検針、家畜/ペットモニタリングなどに利用されている。

LoRaWANがLoRaと呼ばれるスペクトラム拡散方式を用いて雑音や干渉信号に対する耐性を上げ、到達距離を長くしている(その分、通信速度は遅くなる)のに対して、SIGFOXは、ウルトラナローバンド(チャネル帯域幅が100Hzと非常に狭いので受信感度を高くでき、雑音、妨害波に強い)、時間/周波数ダイバーシティ(1つのデータを送信するのに、異なる周波数で3回連続して送信することにより、雑音、妨害波による送信の失敗確率が減少)、空間ダイバーシティ(受信可能なすべての基地局で受信することにより、空間内のある方向にのみ存在する妨害波の影響を軽減)を組み合わせて、雑音や干渉信号に対する耐性を上げ、到達距離を長くしている。その分、通信速度は100bpsと非常に遅く、1回当たりのデータのアップロード量が12バイトと小さいが、センサー出力の数値のみを送信するIoT向けには十分であり、ネットワークもそれほど複雑ではないので、回線使用料が100円/年程度と安価になる見込みである。

SIGFOXについては、以下を参照。

いまさら聞けないSIGFOXネットワーク入門

「SIGFOXがIoTの常識を変える」、KCCS黒瀬社長が基調講演