fading(フェージング)

移動体無線通信測定に関する翻訳に、fading(フェージング)という言葉がよく出てくる(例えば、MIMO受信機テスト 実環境でのMIMO受信機の正確なテストのp2)。

携帯電話などの移動体無線は、複数の基地局でサービスエリアをカバーするセルラー方式が用いられている。特に都市部では、基地局と移動局との間の見通し線路が確保されず、周囲の多数の建物、看板、樹木などにより反射、回折、散乱されて、多数の経路を通った前後左右からの電波を移動局が受信することになる。この結果、電波が複雑に重なり合って定在波が生じ(干渉し)、電波の受信強度が激しく変動する。このような現象を(マルチパス)フェージングと呼ぶ。

強力な見通し波が存在しない場合は、上記のように多数のランダムな経路を通って前後左右からランダムに多数の電波が移動局に到来する。これらの個々の電波(素波)の振幅を同程度とすると、受信信号の同相成分と直交成分の大きさの分布は、中心極限定理から素波の数が多くなると、互いに独立な正規分布(ガウス分布)に近づく。この同相成分と直交成分で表した受信信号は、極座標変換により振幅と位相で表わすことができ、同相成分と直交成分が正規分布の場合には、受信信号の振幅はレイリー(Rayleigh)分布、位相は一様分布となる。これが、レイリー・フェージングと呼ばれるものである。

強力な見通し波も存在する場合は、同相成分と直交成分で表した見通し波の位置を中心にして(強力な見通し波の分だけずれた位置に)、多数のランダムな素波の同相成分と直交成分が正規分布している。これを振幅に変換するとライス(Rician)分布(仲上-ライス分布とも呼ばれる)となり、ライス・フェージングと呼ばれている。

フェージングについては、以下を参照。

電波伝播の基礎理論

ワイヤレスデザインのホームページ > 無線トリビア > のNo.7 : 無ガウス分布・レイリー分布・ライス分布の関係

コメントは受け付けていません。