Volterra series(Volterra級数)

無線通信のパワーアンプ測定/シミュレーションに関する翻訳で、Volterra series(Volterra級数)という言葉がよく出てくる(例えば、パワーアンプ・テスト用 Signal Studio N7614Bのp2)。

携帯電話やスマートフォンなどのモバイル無線機器の基地局でされているパワーアンプは、高い電力変換効率と同時に隣接チャネルへの不要な歪み成分の漏洩を防ぐために高い線形性が求められる。このために、デジタル・プリディストーションと呼ばれる手法が用いられている。デジタル・プリディストーションでは、通常、パワーアンプに入力される信号の瞬時電力に基づいて、歪み補償テーブルを参照してパワーアンプの非線形特性の逆特性をパワーアンプ入力の直前の信号に適用して、パワーアンプの入力信号と出力信号の関係を線形化する。しかし、パワーアンプには、瞬時電力に基づいた歪みだけでなく、メモリ効果と呼ばれる歪み(過去の入力信号の履歴に依存する歪み)が存在する。このメモリ効果による歪みを打ち消すためには、パワーアンプの入力信号と出力信号の間のメモリ効果に起因した非線形性をモデル化する必要があり、その手法の内の1つとしてVolterra級数展開と呼ばれるものがある。これは、パワーアンプ内の素子や回路などの物理/電気特性の詳細が分からなくても、メモリ効果が含まれる非線形性を表わすことのできる数学的なモデルであるが、正確なモデルにするためには、級数の次数が大きくなり、その係数の決定に時間がかかったり、逆特性の適用の際に計算コストがかかるという欠点がある。

Volterra級数展開は、線形性(重ね合わせの原理が成り立つ)、時不変性(時刻が異なっても入力と出力の関係が同じ)、因果律(時刻nにおけるシステムの出力y[n]は、過去の入力x[n]、x[n-1]、…のみに依存、メモリ効果あり)を満たすシステムに対する畳み込み演算を、以下のように非線形システムに対して拡張したものである。

メモリ効果なしの線形システム(ここでは線形増幅器)では、出力信号y(t)は、入力信号の瞬時値x(t)のみに依存し、リニア利得(比例係数)hを用いて、以下のように表される。

y(t)=h・x(t)、・は掛け算を表わす記号 (1)

メモリ効果ありの線形増幅器では、出力信号y(t)は、過去(0≦τ≦t)の入力x(t-τ)のすべてに、インパルス応答である重み関数h(τ)を掛けて足し合わせること(畳み込み積分すること)により、以下のように表される。

y(t)=∫h(τ)x(t-τ)dτ (2)

メモリ効果なしの非線形増幅器では、出力信号y(t)は、(1)式を拡張して、以下のようにTaylor級数展開で表される。

y(t)=h1・x(t)+h2・x(t)^2+…+hn・x(t)^n、^は累乗を表わす記号

メモリ効果ありの非線形増幅器では、出力信号y(t)は、(2)式を拡張して、以下のようにVolterra級数展開で表される。

y(t)=∫h1(τ)x(t-τ1)dτ1+∫∫h2(τ1、τ2)x(t-τ1)x(t-τ2)dτ1dτ2+…+
   ∫…∫hn(τ1、τ2、…τn)x(t-τ1)x(t-τ2)…x(t-τn)dτ1dτ2…dτn

Volterra級数については、以下を参照。

Volterra Series:Introduction & Application(英語pdf)

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