spectrum(スペクトラム)

フーリエ級数展開1_r1
信号解析に関する翻訳に、spectrum(スペクトラム)という言葉がよく出てくる(例えば、リアルタイム・スペクトラム・アナライザ(RTSA)Xシリーズ シグナル・アナライザ)。

オシロスコープの画面では、時間経過に対する信号の大きさの変化が(横軸が時間、縦軸が大きさのグラフ上の波形として)表示される。これは、信号の時間領域(タイムドメイン)表示と呼ばれる。スペクトラム・アナライザの画面では、時間領域の信号波形を構成する各周波数成分の大きさ(横軸が周波数、縦軸が大きさのグラフ上に各周波数成分の大きさ)が表示される。これは、信号の周波数領域(周波数ドメイン)表示と呼ばれる。このスペクトラム・アナライザの画面上の各周波数成分の大きさがスペクトラム(スペクトルとも呼ばれる)である(時間/周波数/モーダル・ドメインの概要のp6の図2.1、2.2を参照)。
フーリエ級数展開2
周波数成分とは、時間領域の信号波形(任意の周期波形)を、その基本波周波数ωとn次高調波周波数nωの正弦波に分解したものである。

同じ信号の時間領域表示と周波数領域表示(スペクトラム)との関係は、時間領域の任意の周期波形f(t)が、その基本波周波数ωとn次高調波周波数nωの正弦波(sinとcos)の無限和(無限級数)で一意に表わすこと(フーリエ級数展開)が可能であるという事実にもとづいている(左図)。
フーリエ級数展開3
フーリエ級数展開が可能なことから、フーリエ変換により、時間領域の任意の信号波形を周波数領域のスペクトラムに変換でき、逆フーリエ変換により、周波数領域のスペクトラムから時間領域の波形に変換できる。

Y-factor method(Yファクタ法)

雑音指数測定に関する翻訳で、Y-factor method(Yファクタ法)という言葉が出てくる(例えば、雑音指数セレクション・ガイドのp3)。

雑音指数の測定法の1つとして、Yファクタ法がある。雑音指数とは、信号がデバイスを通過する際の、デバイスの入力端でのS/N比と出力端でのS/N比との比であり、「デバイスを通過することによって生じるS/N比の減少度あるいは劣化度」を意味する。デバイスの入力端での雑音パワーをNin、デバイスの利得をG、デバイスで付加される雑音パワーをNとすると、雑音指数(F)は、

F=(N+G*Nin)/(G*Nin)

となる(雑音指数を参照)。入力端での雑音パワー(Nin)は、kTB(kはボルツマン定数(1.38×10^-23 J/K)、Tは入力雑音源の温度(K)、Bはシステムの雑音帯域幅(Hz))なので、

F=(N+GkTB)/(GkTB) (1)

となる。この式の分子(N+GkTB)はデバイスの出力端での雑音パワー(Nout)であり、

Nout=N+GkTB (2)

と書け、Noutは入力雑音源の温度Tに比例する直線で表される。したがって、N(とkBG)を求めるためには、入力雑音源の2つの温度(T_coldとT_hot)に対するデバイスの出力端での雑音パワー(Nout_coldとNout_hot)が分かればよい。

このために、Yファクタ法では、ENR(Excess Noise Ratio、過剰雑音比)が既知のノイズ・ソースを使用する。ENRとは、T_hot(ノイズ・ソースを「オン」に切り替えたときの温度)とT_cold(ノイズ・ソースを「オフ」に切り替えたときの温度)の差を290K(雑音指数測定の基準温度)で割ったもので、

ENR=(T_hot-T_cold)/290、ENR(dB)=10log((T_hot-T_cold)/290)

である。例えば、0dBのENRを持つノイズ・ノースの「オン」と「オフ」を切り替えると、290Kの温度変化(T_hot-T_cold)に対応する。また、ENRの校正時にT_cold=290K=T0とするので、簡単のために、ここでは、

ENR=(T_hot-T0)/T0 (3)

とする。

以上から、デバイスの入力端に、ENRが既知のノイズ・ソースを接続して、ノイズ・ソースを「オン」に切り替えたときのデバイスの出力端での雑音パワー(Nout_hot)と、「オフ」に切り替えたときのデバイスの出力端での雑音パワー(Nout_cold)との比(この比をYファクタと呼ぶ)

Y=Nout_hot/Nout_cold=Nout_hot/Nout_0 (4)
(簡単のために、T_cold=290K=T0のときのNout_coldをNout_0とした)

を測定することにより、以下のようにして、YとENRを用いてF(雑音指数)を表わすことができる。

(3)式から(T_hot-T0)=ENR*T0、(4)式からNout_hot-Nout_0=Nout_0*(Nout_hot/Nout_0-1)=Nout_0*(Y-1)なので、(2)式の直線の傾きkGBは、

kGB=(Nout_hot-Nout_0)/(T_hot-T0)=(Nout_0/T0)*((Y-1)/ENR) (5)

となる。また、(2)式はT=T0のときにNout_0=N+kGBT0なので、(5)式を代入して、

N=Nout_0-kGBT0=Nout_0-Nout_0*((Y-1)/ENR)=Nout_0(1-((Y-1)/ENR) (6)

となる。また、(1)式はT=T0のときにF=(N+kGBT0)/(kGBT0)なので、(5)式と(6)式を代入して、

F=(N+kGBT0)/(kGBT0)=N/kGBT0+1=ENR/(Y-1)

と求まる。

このようして雑音指数を求める方法をYファクタ法(ホット/コールド・ソース法)と言う。

Yファクタ法については、以下を参照。

RFおよびマイクロ波の雑音指数測定の基礎

Noise Figure Measurements(英語pdf)

Decision Feedback Equalization(デシジョン・フィードバック・イコライゼーション)

高速デジタル伝送に関する測定の翻訳で、Decision Feedback Equalization(デシジョン・フィードバック・イコライゼーション)という言葉がよく出てくる(例えば、PCI Express 3.0® 校正チャネル)。Decision Feedback Equalizationは、「判定帰還型等化」と訳されることもある。

数十Gbpsのデータレートでの高速デジタル伝送では、高周波成分の損失が大きくなり、伝送線路がローパス・フィルタとして働き、その結果、符号間干渉(ISI)が生じ、アイ・パターンがつぶれて、受信側でロジック値(0、1)の判定ができなくなる。このようなISIを除去してアイを開くために、送信側での対処としてプリエンファシスやディエンファシス、受信側での対処としてイコライズなどの手法が用いられる。

受信側でのイコライズ手法として、リニア・イコライゼーションとデシジョン・フィードバック・イコライゼーションがある。

リニア・イコライザーションは、伝送線路の周波数特性を補償するように、損失の大きい高周波成分を増幅し、低周波成分を減衰することにより、ISIを除去する手法である。これは、利得調整が周波数軸上で行われるため時間軸上のISIを正確に除去できないという問題や、ノイズも一緒に増幅するという問題がある。

デシジョン・フィードバック・イコライゼーションは、先行するロジック値(ロジック波形)の0、1を判定(デシジョン)した後、その波形を遅延回路に通し、(イコライズ後の波形と理想波形との誤差が最小になるように最小2乗法などで最適化した)イコライズ係数を乗算して、0、1を判定(デシジョン)した波形の直前の波形と加算する(フィードバックする)ことにより、ISIの影響を除去する手法である。これは、先行する波形に基づいた補正なので、ノイズを増幅することはない。

デシジョン・フィードバック・イコライゼーションについては、以下を参照。

Infiniium 90000A シリーズ・オシロスコープでのイコライゼーション手法の使用

10Gbit/sクラスの高速電気伝送を実現する波形整形回路の動作原理と最新動向