cold-source method(コールドソース法)

雑音指数測定に関する翻訳で、コールドソース法という言葉が出てくる(例えば、雑音指数セレクション・ガイドのp3)。

雑音指数の測定法の1つとして、コールドソース法がある。雑音指数とは、信号がデバイスを通過する際の、デバイスの入力端でのS/N比と出力端でのS/N比との比であり、「デバイスを通過することによって生じるS/N比の減少度あるいは劣化度」を意味する。デバイスの入力端での雑音パワーをNin、デバイスの利得をG、デバイスで付加される雑音パワーをNとすると、雑音指数(F)は、

F=(N+G*Nin)/(G*Nin)

となる(雑音指数を参照)。入力端での雑音パワー(Nin)は、kTB(kはボルツマン定数(1.38×10^-23 J/K)、Tは入力雑音源の温度(K)、Bはシステムの雑音帯域幅(Hz))なので、

F=(N+GkTB)/(GkTB) (1)

となる。この式の分子(N+GkTB)はデバイスの出力端での雑音パワー(Nout)であり、

Nout=N+GkTB (2)

と書け、Noutは入力雑音源の温度Tに比例する直線で表される。Yファクタ法では、ノイズ・ソースを用いて入力雑音源の2つの温度(T_coldとT_hot)に対するデバイスの出力端での雑音パワー(Nout_coldとNout_hot)を測定することにより、N(とkBG)を求めた。

コールドソース法では、G(すなわち、(2)式の直線の傾き(kBG))と室温(T_cold)でのデバイスの出力端での雑音パワー(Nout_cold)を測定することにより、Nを求めて、(1)式から雑音指数を計算する。

コールドソース法では、ノイズ・ソースを用いなくても雑音指数が求められ、デバイスの利得Gをベクトル誤差補正機能を搭載したベクトル・ネットワーク・アナライザを用いて正確に測定することにより、高確度の雑音指数が得られる。

コールドソース法については、以下を参照。

High-Accuracy Noise Figure Measurements Using the PNA-X Series Network Analyzer(英語pdf)

Power-Added Efficiency(電力付加効率)

パワーアンプ測定に関する翻訳で、Power-Added Efficiency(電力付加効率)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight 8990Bピーク・パワー・アナライザおよびN1923A/N1924A広帯域パワーセンサのp7)。Power-Added Efficiencyは、PAEと略されることが多い。

携帯電話やスマートフォンなどのモバイル無線機器やその基地局には、電波を遠くに送信するためにパワーアンプが内蔵され、電力消費の大きな部分を占めている。モバイル無線機器のバッテリー駆動時間の増加やその基地局の電力消費の削減のために、パワーアンプの高効率化(省電力化)は常に大きな課題であり続けている。

パワーアンプの効率を表わす指標として、以下で定義される電力付加効率(PAE)が用いられている。

PAE=(Pout-Pin)/Pdc

(Pout:パワーアンプから出力される信号電力、Pin:パワーアンプへ入力される信号電力、Pdc:電源からパワーアンプに供給されるDC電力)

パワーアンプへの入力信号の電力(Pin)が大きくなると増幅によりそれ以上に出力信号の電力(Pout)が大きくなり、パワーアンプを動作状態にするために必要なバイアス電流による電力増幅に寄与しない無効なDC電力消費(Pdc-(Pout-Pin))の割合が相対的に小さくなるので、電力付加効率は増加する。したがって、パワーアンプを高効率で動作させるためには、圧縮領域(飽和領域)に近い動作点(出力信号の電力が最大に近くなる動作点)で使用する必要がある。

しかし、圧縮領域ではパワーアンプの動作が非線形になり(出力が入力に比例しなくなり)相互変調歪みが大きくなって、隣接チャネルに不要な歪み成分が漏洩して混信したり、近年のモバイル無線機器でよく使用されているOFDMなどの複雑な変調信号を復調する際に大きなエラーレートが生じる原因となる。このような問題を解決するために、デジタル・プリディストーションエンベロープ・トラッキングなどの手法が用いられている。

電力付加効率(PAE)については、以下を参照

SHARPのホームページ > 会社情報 > 技術情報 > TECHNICAL JOURNALのバックナンバー > No. 19 特集:ユビキタス・ネットワークを支える技術 > ワイヤレスLAN用パワーアンプ > pdf

802.11ah

無線通信測定に関する翻訳に、802.11ahという言葉がよく出てくる(例えば、無線LAN 802.11a/b/g/j/p/n/ac/ah Xシリーズ 測定アプリケーション N9077A/W9077A)。

802.11ahの「802」は、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.(米国電気電子技術者学会))の「802委員会(LAN/MANの標準化委員会)」の意味であり、「11」は、「無線LANのワーキング・グループ」という意味である。

無線LANの規格は、IEEE 802.11b(11 Mb/s)、IEEE 802.11a/g(54 Mb/s)、IEEE 802.11n(最大600 Mb/s)と伝送速度が高速化してきて、現在はIEEE 802.11ac(最大6.9 Gb/s)が市販されている。一方、PC、サーバー、スマートフォンはもとより、テレビ、デジタルカメラ、ブルーレイレコーダー、エアコン、照明などの家電製品や電力メーター、防犯カメラ、温度湿度センサ、無線タグ、遠隔診療機器など、産業、物流、医療の分野でもネットワークに接続するデバイスが爆発的に増加し、あらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)の時代がすぐそこまできている。

このような膨大な数のIoTデバイスをネットワークに接続するには、消費電力が少なく、多数のデバイスを接続でき、送受信範囲の広い無線接続が望まれる。しかし、既存のRFIDBluetoothZigBeeなどの規格は低消費電力だが、接続可能なデバイス数が少なく、スループットが低く、送受信範囲が狭い。LTEWiMAXは接続可能なデバイス数は多いが、消費電力が大きい。WiFi(既存のIEEE 802.11nやIEEE 802.11acの無線LAN)は高スループットだが、屋内使用に限られる。このような問題を解決するために、WiFiの規格をIoTデバイス向けに拡張したものが、IEEE 802.11ahである。

IEEE 802.11ahはサブGHz帯(1 GHz以下)で動作し、2.4 GHz/5 GHz帯で動作するIEEE 802.11nやIEEE 802.11acに比べて屋外使用に向き(送受信範囲が広く)、IEEE 802.11acのダウンクロック版として消費電力が小さくなっている。

802.11ahについては、以下を参照。

サブギガヘルツ帯Wi-Fi「IEEE 802.11ah」とは