sinc

任意波形発生器に関する翻訳に、sincという言葉がよく出てくる(例えば、33500Bシリーズ波形発生器のp14)。

sinc関数は、 カーディナル・サイン(cardinal sine)とも呼ばれ、ラテン語のsinus cardinalisの短縮形と言われている。

sinc関数は、正弦関数sin(x)をその変数xで割ったものとして、

sinc(x)=sin(x)/x

で定義され、|x|が増加すると正弦関数の値が1/xで減衰する曲線になる(例えば、これ)。

sinc関数は、以下のような状況で現れる。

時間領域で、f(t)=0(t<-T/2)、f(t)=1(-T/2≦t≦T/2)、f(t)=0(T/2<t)の矩形パルス信号をフーリエ変換すると、

F(ω)=(1/2π)∫f(t)exp(-iωt)dt:積分範囲(-∞~+∞)
  =(1/2π)∫f(t)exp(-iωt)dt:積分範囲(-T/2~T/2)、f(x)=0(t<-T/2)およびf(t)=0(T/2≦t)なので
  =(1/2π)∫exp(-iωt)dt:積分範囲(-T/2~T/2)、f(t)=1(-T/2≦t≦T/2)なので
  =(1/2π)((exp(-iωT/2)-exp(iωT/2))/(-iω))
  =(1/2π)(-2i×sin(ωT/2)/(-iω))、オイラーの公式からsin(ωT/2)=(exp(iωT/2)-exp(-iωT/2))/2iなので
  =(T/2π)sin(ωT/2)/(ωT/2)
  =(T/2π)sinc(ωT/2)

となり、sinc関数になる。

このことから、理想的な矩形パルス信号には、無限個の高調波が等間隔で含まれていて、その振幅が1/xで減衰していることがわかる。

また、アナログの連続時間信号を等間隔の時刻(サンプリング周波数2W)でサンプリングしたデジタルの離散信号から、元のアナログ連続信号を正確に復元するには(ナイキストのサンプリング定理を満たすには)、

H(ω)=0(ω<-W/2)、H(ω)=1(-W/2≦ω≦W/2)、H(t)=0(W/2<ω)

の周波数特性を持つ、帯域幅をWに制限する理想的な復元(帯域制限)フィルタを用いて、アナログ連続信号をサンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラム(周波数領域では、サンプリング間隔の逆数の周波数間隔で元のアナログ信号をフーリエ変換したものが並んでいる)から、元のアナログ信号をフーリエ変換したものを1つだけ取り出す(周波数領域で、アナログ連続信号をサンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラムにH(ω)を掛ける)必要がある。この周波数領域での積演算は、時間領域では、サンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラムを逆フーリエ変換したもの(すなわち、時間領域でサンプリングした元のデジタル離散信号)と復元(帯域制限)フィルタの周波数特性H(ω)を逆フーリエ変換したもの(sinc関数)の畳み込み積分と同じである(フーリエ変換の性質(畳み込み定理))。したがって、この畳み込み積分を計算することにより、元のアナログ連続信号を復元することができる。

サンプリングされた信号からの元の連続時間信号の復元については、以下を参照。

東北大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻の鏡 慎吾准教授のホームページ > 講義 > やる夫で学ぶディジタル信号処理 > 10. サンプリング定理

信号処理

mixed-mode S-parameter(ミックスドモードSパラメータ)

マイクロ波測定に関する翻訳で、mixed-mode S-parameter(ミックスドモードSパラメータ)という言葉が出てくる(例えば、PXIベクトル・ネットワーク・アナライザ・シリーズのp6)。

差動信号による伝送(平衡伝送)は、コモン・モード・ノイズを減らすことができるので、RF/マイクロ波信号や高速デジタル信号(PCI Express、シリアルATA、HDMI、USBなど)の伝送に広く使用されている。

このような差動伝送に用いられる回路(差動デバイス、平衡デバイス)を評価する場合は、バランを用いて差動信号をシングルエンド信号に変換することにより、従来のシングルエンド(不平衡)テストポートを持つベクトル・ネットワーク・アナライザでも測定できるが、バランの追加により測定誤差が大きくなったり、バランの周波数帯域による制限が存在するという欠点がある。

(位相が180°異なる正の信号ラインと負の信号ラインで構成される)差動信号用の入力ポートと出力ポートが1つずつある2ポートの平衡(差動)デバイスを、正の信号ライン用の入力ポートと負の信号ライン用入力ポートが2つ、正の信号ライン用の出力ポートと負の信号ライン用出力ポートが2つある、4ポートの不平衡(シングルエンド)デバイスと考えれば、シングルエンド(不平衡)テストポートを4つ持つベクトル・ネットワーク・アナライザで測定可能になり、バランを用いる方法による制限がなくなる。

しかし、差動信号は、一般に差動モード成分とコモンモード成分に分けて考える必要があるので、差動2ポート・デバイスをシングルエンド4ポート・デバイスとして測定して得られる通常のSパラメータでは、差動信号に関する有用な情報が得られない。したがって、差動デバイスの各ポートへの入射信号の差動モード成分とコモンモード成分を作用させると、そのデバイスの各ポートからの反射信号の差動モード成分とコモンモード成分となるように、この通常のSパラメータ行列を変換する必要がある。このように通常のSパラメータから変換されたSパラメータ行列がミックスドモードSパラメータである。

ミックスドモードSパラメータについての詳細は、以下を参照。

Agilent Technologies 差動インピーダンス測定技術セミナ セミナテキスト MAY ’01のp65~p77(スクロールバーに表示されるページ)

Mixed-mode S-parameters and Conversion Techniques(英語PDF)

inverter(インバーター)

電源測定に関する翻訳で、inverter(インバーター)という言葉が出てくる(例えば、IntegraVision PA2200シリーズ パワー・アナライザのp3)。

inverter(インバーター)を直訳すると「逆変換器」であるが、直流を交流に変換する装置をDC-ACインバーターと呼び、交流を直流に変換する装置をAC-DCコンバーター(例:スイッチング電源など)と呼ぶ。また、AC-DCコンバーターとDC-ACインバーターを組み合わせて、一定の電圧と周波数の交流を任意の電圧と周波数の交流に変換する装置をインバーターと呼ぶ。

身近なものでは、インバーターは、商用AC電源周波数の50Hzや60Hzを変化させて、エアコンの圧縮機の交流モーターの回転数を制御して温度を微調整したり、IH炊飯器の微妙な火加減を制御したり、高い周波数に変換して蛍光灯のちらつきを抑えたりするために用いられている。

インバーター(DC-ACインバーター)は、MOSFETIGBTなどの高速な半導体スイッチングデバイスを用いて、直流をスイッチング操作で順方向と逆方向に高速に切り替えることによりパルス波(交流)を生成している。

インバーターの動作原理については、以下を参照。

公益社団法人日本電気技術者協会のホームページ > 音声付き電気技術解説講座 > 理論一般 > 電圧・電流波形のいろいろ(7)(インバータ機器)
コンバータ・インバータとは