Kramers-Kronig relation(クラマース・クローニッヒの関係式)

高周波シミュレーションに関する翻訳に、Kramers-Kronig relation(クラマース・クローニッヒの関係式)という言葉が出てくる(例えば、Sパラメータ・モデルを使用したFPGAのパワー・インテグリティ・シミュレーションのp10)。

クラマース・クローニッヒの関係式は、因果律(システム(系)の出力が、過去の入力のみに依存)が成り立つことから導くことができる、系の周波数応答関数H(ω)の実数部と虚数部の間に成り立つ関係式のことである。シミュレーション・モデルの妥当性(因果律を満たすかどうか)を検証するために使用されることがある。

t=0でインパルスが発生したとすると、系のインパルスに対する応答h(t)は、系が因果律を満たすことから、t<0ではh(t)=0なので、単位ステップ関数u(t)=0(t<0)、1(t≧0)を用いて、 h(t)=u(t)×h(t) と書ける。この式の両辺をフーリエ変換すると、単位ステップ関数u(t)のフーリエ変換、-j/ω+πδ(ω)(jは虚数記号、δはデルタ関数(du(t)/dt=δ(t))およびフーリエ変換の性質(畳み込みの定理)、(1/2π)×F(u(t)*h(t))=F(u(t))×F(h(t))(*は畳み込み積分)を用いて、

F(h(t))=H(ω)=F(u(t)×h(t))=(1/2π)×[(-j/ω+πδ(ω))*H(ω)]

となる。H(ω)を実数部Hr(ω)と虚数部Hi(ω)に分けて、H(ω)=Hr(ω)+jHi(ω)と書くと、上の式は、

H(ω)=(1/2π)×[(-j/ω+πδ(ω))*(Hr(ω)+jHi(ω))]

となる。これと、H(ω)=Hr(ω)+jHi(ω)を比較することにより、

Hi(ω)=-(1/πω)*Hr(ω)
Hr(ω)=(1/πω)*Hi(ω)

が得られ、クラマース・クローニッヒの関係式(ヒルベルト変換対)と呼ばれる。

ヒルベルト変換については、以下を参照

ヒルベルト変換は、どんなん?

I/Q gain imbalance(I/Q利得不平衡)とquadrature skew(直交スキュー)

デジタル変調測定に関する翻訳に、I/Q gain imbalance(I/Q利得不平衡)とquadrature skew(直交スキュー)という言葉がよく出てくる(例えば、89601X VXA ベクトル・シグナル・アナライザ 測定アプリケーションのp3)。

デジタル無線通信では、デジタル信号を搬送波に乗せて伝送するために、QPSKや16QAMなどのデジタル変調が行われる。このようなデジタル変調では、直交変調器(IQ変調器)を用いて、2つのパラレル・デジタル・データの一方に、搬送波と同位相(In Phase)のLO信号をミキサで乗算してI信号を生成し、もう一方に、搬送波と90°異なる位相(Quadrature Phase)のLO信号をミキサで乗算してQ信号を生成する。

このとき、2つの乗算過程でI/Q信号を生成する際の利得に差(これをI/Q利得不平衡と呼ぶ)があると、コンスタレーション図上で、シンボル・ポイントが理想的な円状ではなくI軸またはQ軸の方向に扁平した楕円状になり、復調時にエラーの原因となる。また、2つの乗算過程でI/Q信号を生成する際に使用される2つのLO信号の位相差が90°からずれている(これを、直交スキューまたはI/Q位相不平衡と呼ぶ)場合は、コンスタレーション図上のシンボル・ポイントの理想的な位置が、I軸またはQ軸に対して傾いた位置になり、復調時にエラーの原因となる。

I/Q gain imbalance(I/Q利得不平衡)とquadrature skew(直交スキュー)については、以下を参照

Understand image, carrier suppression measurements basics(英語サイト)

IQ imbalance and compensation(英語サイト)

dielectric(誘電体)

材料測定に関する翻訳に、dielectric(誘電体)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent 基板の誘電率測定用SPDR誘電体共振器)。

物質を電気の流れやすさから分類すると、導体、半導体、絶縁体(誘電体)になる。通常、これらはバンド理論で説明されるが、定性的には、金属などの導体は原子の最外殻の電子が原子同士の結合にはほどんど関与せず非常に低いエネルギーで移動できるので、電気を通しやすい。一方、絶縁体は、すべての電子が原子間の結合に使われ束縛されているので、電流の担い手である電子が移動できない。したがって、導体にDC電圧(電界)を印加すると電子(電流)が流れ、絶縁体にDC電圧を印加しても電子(電流)が流れない。

しかし、絶縁体にDC電圧(電界)を印加すると、電子は流れないが絶縁体内の電荷の分布に偏りが生じる(この現象を分極と呼ぶ)。すなわち、電極で挟まれた絶縁体の両端に電極電荷とは反対の分極電荷が誘起される(このことから、絶縁体は誘電体とも呼ばれる)。分極電荷により電極電荷が打ち消された分だけ電荷がさらに電極に流入するので、電極で挟まれた誘電体(コンデンサ)はより多くの電気(電荷)を蓄えることができる。誘電体の分極の強弱を表すのに、誘電率が用いられる。

誘電体については、以下を参照

Everyday Physics on Web電気と磁気導体と絶縁体

誘電体測定の基礎