zero(零点)

フィルタ設計ソフトウェアに関する翻訳で、zero(零点)という言葉がよく出てくる(例えば、Genesys S/FilterソフトウェアによるカスタムRF/マイクロ波/アナログフィルターのシンセシスのp3)。

図1.

図2.

図3.

重ね合わせの原理が成り立つ線形システムに正弦波を入力して、その定常応答の出力を解析する場合は、周波数応答関数(伝達関数)H(ω)=Y(ω)/X(ω)[X(ω):入力信号の各フーリエ成分(フーリエ変換)、Y(ω):出力信号の各フーリエ成分(フーリエ変換)]を用いる方法が便利である。

一方、入力波形の急激な変化に対する過渡的な応答を解析する場合は、ラプラス変換の伝達関数を用いる方法が便利である。ラプラス変換では、周波数ωの拡張概念である複素周波数s=σ+jωで減衰項を導入することにより、システムの挙動を過渡状態を含めて考えることができる(図1および図2)。

ラプラス変換の伝達関数は、G(s)=Y(s)/X(s)[X(s):入力信号のラプラス変換、Y(s):出力信号のラプラス変換]で定義され、多くの場合、図3のようなsの有理式で表わされる。この有理式の分子を因数分解して、分子がゼロとなるsを、伝達関数が何も伝達しないという意味で零点という。同様に、分母を因数分解して、分母がゼロとなるsを、伝達関数が無限大の量を伝達するという意味で極という(これらの零点や極を複素平面上にうまく配置することにより、所望の伝達特性(伝達関数)を持つフィルタを設計できる)。

ラプラス変換については、以下を参照

The Laplace Transform(英語pdf)

東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 松澤・岡田研究室のホームページ > Lectures > 信号システム解析 > 2006 03

pulse desensitization(パルス感度抑圧)

パルス波形測定に関する翻訳で、pulse desensitization(パルス感度抑圧)という言葉がよく出てくる(例えば、パルスドレーダー信号の測定のp7)。

時間領域で、振幅がA、パルス幅τの矩形パルスが繰り返し幅(パルス周期)Tで繰り返される周期パルスには、周期T(周波数1/T)の基本波(メインローブ、搬送波)以外に、高調波(サイドローブ、側波帯)が含まれている(周期パルスをフーリエ変換するとわかる。例えば、ここを参照)。したがって、スペクトラム・アナライザを使用して周波数領域でこの信号を測定すると、パルスのエネルギーがメインローブ以外のサイドローブに分散されるので、振幅がA、周期Tの正弦波(搬送波)に比べて、周期パルスのメインローブの振幅が小さくなる。これを、パルス感度抑圧と呼んでいる。

時間領域で、振幅がA、パルス幅τの矩形パルスが繰り返し幅(パルス周期)Tで繰り返される周期パルスをフーリエ変換することにより、メインローブの振幅がA(τ/T)と求まる。これと周期Tの正弦波の振幅Aとの比(τ/T)を対数で表した

20log(τ/T)

は「パルス感度抑圧係数」と呼ばれている。

パルス感度抑圧については、以下を参照

Agilentスペクトラム・アナライザ・シリーズ Application Note 150-2のp8~p9

DTF

ハンドヘルド・アナライザに関する翻訳に、DTFという言葉がよく出てくる(例えば、FieldFoxハンドヘルド・アナライザのp3)。DTFは、Distance To Faultの略で、「障害位置検出」と訳されることが多い。

携帯電話の基地局のアンテナは高い塔やビルの上にある場合が多く、送信機とアンテナ間のケーブルは、風雨にさらされ温度/湿度の極端な変化を受けるので劣化しやすい。DTF測定はこのようなアンテナ/ケーブルの障害の調査に使用されることが多い。

アンテナが高い塔の上にある場合は、送信機の出力端子とアンテナの入力端子を接続するケーブルを取り外して、ケーブルの両端で測定するのが難しいので、送信機と接続する側のケーブル端から周波数掃引信号を入力して、ケーブルの途中の劣化箇所(ケーブルの極端な曲がりや亀裂、コネクタの接続不良など)でのインピーダンスの変化に起因する反射波が、反射係数VSWR、リターンロス)として測定される。

得られた反射係数対周波数の測定結果を逆フーリエ変換することにより、時間に対する振幅特性が得られるので、その振幅のピーク位置から、ケーブル内の信号の伝搬速度がわかっていれば、劣化箇所の位置(ケーブル端からの距離)を特定できる。これがDTF測定である。

DTFについては、以下を参照

Techniques for Time Domain Measurements(英語pdf)