radar equation(レーダー方程式)

レーダー測定やシミュレーションに関する翻訳で、radar equation(レーダー方程式)という言葉がよく出てくる(例えば、フェーズド・アレイ・レーダ・システムの効果的な開発手法のp5)。

radarは、RAdio Detecting and Ranging(電波探知および測距)の略で、ターゲットに電波を発射して、その反射波を測定することにより、ターゲットの方向や距離を測定する装置である。軍事目的に開発されたものであるが、コンクリート建築物の内部にある鉄筋や配管の位置特定に利用されたり、自動車の衝突防止システム用に研究開発が行われている。

レーダー方程式とは、レーダーの送信電力と受信電力の関係を表す式である。

アンテナ利得Gtの送信アンテナで電力Pの電波を放射すると、ターゲットの存在する距離Rでの電波の電力密度p_tは、距離Rの球の表面積が4πR^2なので、

p_t=GtP/4πR^2

になる。

距離Rに存在するターゲットの有効反射断面積(レーダー断面積)をσとすると、ターゲットで反射される電力は、p_t×σとなる。ターゲットからの反射波がターゲットを中心にして等方的に散乱されたものと仮定すると、レーダーの受信アンテナ位置における反射波の電力密度p_rは、ターゲットからの距離がRなので上と同様に考えて、

p_r=p_t×σ/4πR^2=GtPσ/(4πR^2)^2

となる。

レーダーの受信アンテナの有効面積をAとすると、受信電力Prは、

Pr=A×p_r=AGtPσ/(4πR^2)^2

となる。これがレーダー方程式である。レーダーが受信できる最小電力をSとすると、

S=AGtPσ/(4πR^2)^2

から最大探知距離Rを求めることができる。

レーダー方程式については、以下を参照。

日本財団 図書館 > ジャンルから検索 > 技術 > 電気工学.電子工学 > 「次ページ→」を4回クリック > 2005 船舶電気装備技術講座〔機器保守整備編〕(レーダー) > 第2章 レーダーの性能

sinc

任意波形発生器に関する翻訳に、sincという言葉がよく出てくる(例えば、33500Bシリーズ波形発生器のp14)。

sinc関数は、 カーディナル・サイン(cardinal sine)とも呼ばれ、ラテン語のsinus cardinalisの短縮形と言われている。

sinc関数は、正弦関数sin(x)をその変数xで割ったものとして、

sinc(x)=sin(x)/x

で定義され、|x|が増加すると正弦関数の値が1/xで減衰する曲線になる(例えば、これ)。

sinc関数は、以下のような状況で現れる。

時間領域で、f(t)=0(t<-T/2)、f(t)=1(-T/2≦t≦T/2)、f(t)=0(T/2<t)の矩形パルス信号をフーリエ変換すると、

F(ω)=(1/2π)∫f(t)exp(-iωt)dt:積分範囲(-∞~+∞)
  =(1/2π)∫f(t)exp(-iωt)dt:積分範囲(-T/2~T/2)、f(x)=0(t<-T/2)およびf(t)=0(T/2≦t)なので
  =(1/2π)∫exp(-iωt)dt:積分範囲(-T/2~T/2)、f(t)=1(-T/2≦t≦T/2)なので
  =(1/2π)((exp(-iωT/2)-exp(iωT/2))/(-iω))
  =(1/2π)(-2i×sin(ωT/2)/(-iω))、オイラーの公式からsin(ωT/2)=(exp(iωT/2)-exp(-iωT/2))/2iなので
  =(T/2π)sin(ωT/2)/(ωT/2)
  =(T/2π)sinc(ωT/2)

となり、sinc関数になる。

このことから、理想的な矩形パルス信号には、無限個の高調波が等間隔で含まれていて、その振幅が1/xで減衰していることがわかる。

また、アナログの連続時間信号を等間隔の時刻(サンプリング周波数2W)でサンプリングしたデジタルの離散信号から、元のアナログ連続信号を正確に復元するには(ナイキストのサンプリング定理を満たすには)、

H(ω)=0(ω<-W/2)、H(ω)=1(-W/2≦ω≦W/2)、H(t)=0(W/2<ω)

の周波数特性を持つ、帯域幅をWに制限する理想的な復元(帯域制限)フィルタを用いて、アナログ連続信号をサンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラム(周波数領域では、サンプリング間隔の逆数の周波数間隔で元のアナログ信号をフーリエ変換したものが並んでいる)から、元のアナログ信号をフーリエ変換したものを1つだけ取り出す(周波数領域で、アナログ連続信号をサンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラムにH(ω)を掛ける)必要がある。この周波数領域での積演算は、時間領域では、サンプリングしたデジタル離散信号のスペクトラムを逆フーリエ変換したもの(すなわち、時間領域でサンプリングした元のデジタル離散信号)と復元(帯域制限)フィルタの周波数特性H(ω)を逆フーリエ変換したもの(sinc関数)の畳み込み積分と同じである(フーリエ変換の性質(畳み込み定理))。したがって、この畳み込み積分を計算することにより、元のアナログ連続信号を復元することができる。

サンプリングされた信号からの元の連続時間信号の復元については、以下を参照。

東北大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻の鏡 慎吾准教授のホームページ > 講義 > やる夫で学ぶディジタル信号処理 > 10. サンプリング定理

信号処理

mixed-mode S-parameter(ミックスドモードSパラメータ)

マイクロ波測定に関する翻訳で、mixed-mode S-parameter(ミックスドモードSパラメータ)という言葉が出てくる(例えば、PXIベクトル・ネットワーク・アナライザ・シリーズのp6)。

差動信号による伝送(平衡伝送)は、コモン・モード・ノイズを減らすことができるので、RF/マイクロ波信号や高速デジタル信号(PCI Express、シリアルATA、HDMI、USBなど)の伝送に広く使用されている。

このような差動伝送に用いられる回路(差動デバイス、平衡デバイス)を評価する場合は、バランを用いて差動信号をシングルエンド信号に変換することにより、従来のシングルエンド(不平衡)テストポートを持つベクトル・ネットワーク・アナライザでも測定できるが、バランの追加により測定誤差が大きくなったり、バランの周波数帯域による制限が存在するという欠点がある。

(位相が180°異なる正の信号ラインと負の信号ラインで構成される)差動信号用の入力ポートと出力ポートが1つずつある2ポートの平衡(差動)デバイスを、正の信号ライン用の入力ポートと負の信号ライン用入力ポートが2つ、正の信号ライン用の出力ポートと負の信号ライン用出力ポートが2つある、4ポートの不平衡(シングルエンド)デバイスと考えれば、シングルエンド(不平衡)テストポートを4つ持つベクトル・ネットワーク・アナライザで測定可能になり、バランを用いる方法による制限がなくなる。

しかし、差動信号は、一般に差動モード成分とコモンモード成分に分けて考える必要があるので、差動2ポート・デバイスをシングルエンド4ポート・デバイスとして測定して得られる通常のSパラメータでは、差動信号に関する有用な情報が得られない。したがって、差動デバイスの各ポートへの入射信号の差動モード成分とコモンモード成分を作用させると、そのデバイスの各ポートからの反射信号の差動モード成分とコモンモード成分となるように、この通常のSパラメータ行列を変換する必要がある。このように通常のSパラメータから変換されたSパラメータ行列がミックスドモードSパラメータである。

ミックスドモードSパラメータについての詳細は、以下を参照。

Agilent Technologies 差動インピーダンス測定技術セミナ セミナテキスト MAY ’01のp65~p77(スクロールバーに表示されるページ)

Mixed-mode S-parameters and Conversion Techniques(英語PDF)