DMT

100Gイーサネットなどの広帯域通信測定に関する翻訳で、DMTという言葉が出てくる(例えば、M8195A 65 GSa/s任意波形発生器 M8197A マルチチャネル同期モジュールのp2)。

DMTは、Discrete MultiTone(離散マルチトーン)の略で、ADSLなどのデジタル加入者線(Digital Subscriber Line)に用いられている変調方式である。この変調方式では、無線通信におけるOFDMのように、利用可能な帯域を多数のザブチャネル(サブキャリア)に分割し、各サブチャネルにデータを割り振って高次変調を用いることにより高速伝送を実現している。伝送時に、いくつかのサブチャネルの伝送特性(S/N比やビットエラーレート)がノイズなどにより悪化しても、それらのチャネルには、伝送特性に応じてノイズに強いより低次の変調方式が用いられるので、DMTは非常に周波数利用効率の高い変調方式である。

このような理由から、DMTは、100Gイーサネットなどの高速通信でも、PAM4などとともに有力な変調方式の候補になっている。

100GイーサネットのためのDMTについては、以下を参照

Discrete Multi-tone Technology for 100G Ethernet (100GbE)(英語pdf)

HSPA+

無線通信計測関係の翻訳に、HSPA+という言葉がよく出てくる(例えば、UXMワイヤレス・テスト・セットのp5)。

移動通信システムは、第1世代(アナログ方式の自動車/携帯電話)、第2世代(PDCやGSM方式のデジタル携帯電話)、第3世代(W-CDMAやCDMA2000方式の携帯電話)、第3.9世代(LTE)、第4世代(LTE-Advanced)と進化してきている。

第3世代のW-CDMAでは、データ変調方式としてBPSKまたはQPSKが用いられ、当初の最大パケット通信速度は384 kbps~2 Mbps(静止状態)であった。このデータ転送速度を高速化する技術として、HSPA(High Speed Packet Access)が開発された。HSPAでは、電波状態が良好な場合は、より高速なデータ変調方式(16QAM)や符号化方式(誤り訂正能力の低い符号化方式)が用いられ、最大下りデータ転送速度が14.4 Mbpsになった。HSPAは、3GPPの「Release 5」で定義されていて、HSPA技術を搭載した携帯電話は第3.5世代(3.5G)と呼ばれることがある。

HSPAをさらに高速化した技術がHSPA+である。HSPA+では、さらに高速なデータ変調方式(64QAM)、MIMO、デュアルセル(搬送波を2つ使用)を用いて、最大下りデータ転送速度が84.4 Mbpsになる。HSPA+は、3GPPの「Release 7」、「Release 8」、「Release 9」で定義されていて、HSPA+技術を搭載した携帯電話は「3.5Gと3.9Gの間」と呼ばれることがある。

HSPA+については、以下を参照。

3Gの発展はまだまだ続く──HSPA+、DO Advancedを提供するクアルコム

HSPA+

residual FM(残留FM)

信号解析に関する翻訳で、residual FM(残留FM)という言葉が出てくる(例えば、PXA Xシリーズ シグナル・アナライザ、マルチタッチ N9030Bのp4)。

residual FM(残留FM)は、無線機やスペクトラム・アナライザの局部発振器の位相雑音の大きさを表わす指標の1つである。位相雑音の大きさを表わす指標には、SSB位相雑音、残留FM、残留φMがあり、いずれも周波数領域で定義される指標である

理想的な局部発振器の出力は、理想的な正弦波として、

V(t)=Acosωt、ω=2πf

と表される。しかし、現実には、熱雑音などのランダム雑音により、振幅Aと位相ωtがランダムに変動している。これらの変動分をΔA(t)、Δφ(t)とすると、現実の局部発振器の出力は、

V(t)=(A+ΔA(t))cos(ωt+Δφ(t))

と書ける(ΔA(t)は振幅雑音、Δφ(t)は位相雑音)。

しかし、測定が容易な物理量は、発振器の出力(基本波)近傍での、位相変動に起因する雑音パワー(雑音側波帯)なので、間接的な位相雑音の定義として、基本波からのオフセット周波数における、1Hz帯域幅当たりの片側(Single Side Band)の雑音パワーと発振器の全パワーとの比をとり、SSB位相雑音[dBc/Hz]で表わすのが一般的である。このSSB位相雑音を、基本波からのオフセット周波数fの関数としてL(f)と書くと、残留φM(ΔΦ(f))のRMS値の2乗(Δφ_rms^2)は、L(f)を、ベースバンド信号(ここではランダム雑音)の下限周波数と上限周波数に対応するオフセット周波数の間で積分したものとして、

Δφ_rms^2=2∫L(f)df (1)

で定義される。

また、瞬時周波数f(t)と瞬時位相(角)φ(t)の間には、ω(t)=2πf(t)=dφ(t)/dtの関係があるので、周波数の微小変動Δf(t)と位相の微小変動Δφ(t)の間に、

Δf(t)=(1/2π)(dΔφ(t)/dt)

の関係が成り立つ。この式の両辺をフーリエ変換すると、フーリエ変換の性質(dΔφ(t)/dt⇔iωΔφ(ω))から、

Δf(f)=(2πfi/2π)Δφ(f)

なので、残留FM(Δf(f))のRMS値の2乗(Δf_rms^2)は、

Δf_rms^2=f^2Δφ_rms^2=2∫f^2L(f)df、(1)式から

となり、SSB位相雑音L(f)に基づいて定義できる。

残留FMについては以下を参照。

Design Principles and Test Methods for Low Phase Noise RF and Microwave Sources(英語PDF)のp2からp7