Q factor(Q値)

LCR回路測定に関する翻訳で、Q factor(Q値)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilentインピーダンス/ネットワーク解析Application Listのp8)。Q factorは、Quality factorの略である。

Q値とは、一般に、振動系の共振の鋭さの指標であり、以下のように定義される。

Q=(系に蓄えられているエネルギー)/(1サイクルの間に失われるエネルギー)

ここで例として、直列LCR回路に交流電圧Vを印加して、交流電流Iが流れる場合を考える。直列LCR回路のインピーダンスZは、

Z=R+j(ωL-1/(ωC))

なので、その大きさ|Z|は、

|Z|=√(R^2+(ωL-1/(ωC))^2)

であり、ω=ω0=1/√(LC)のときに最小値(|Z|=R)になる。この状態が共振状態であり、電流の大きさ|I|が最大値(|I|=I0)になる。

直列LCR回路に蓄えられているエネルギーEsは、コンデンサに蓄えられているエネルギーとコイルに蓄えられているエネルギーの和なので、コンデンサにかかる電圧をVcとして、

Es=(1/2)LI^2+(1/2)CVc^2

と表される。Vc=Asin(ωt)とすると、I=C×(dVc/dt)=ωCAcos(ωt)なので、

Es=(1/2)L×ω^2×C^2×A^2×cos^2(ωt)+(1/2)C×A^2×sin^2(ωt)

となる。したがって、共振状態(ω=ω0=1/√(LC))のときに、この回路に蓄えられているエネルギーは、

Es=(1/2)C×A^2  (1)

となる。

また、この回路で、1サイクルの間に失われるエネルギーEdは、抵抗Rで消費される電力×1サイクルの時間(1/ω0)なので、

Ed=R×Irms^2×(1/ω0)=R×(ω^2×C^2×A^2/2)×(1/ω0)=((1/2)×((RC)/(ω0L))×A^2))  (2)

となる。(1)式と(2)式から、Qは、

Q=Es/Ed=ω0L/R=1/(ω0RC)  (3)

となる。

一方、共振の鋭さの指標である、

ω0/(ω2-ω1)、ω1とω2は、電流が最大電流I0の1/√2となるときの周波数

から(3)式を計算することもできる。

計算の概略は、共振回路を流れる電流の大きさ|I|=|V|/|Z|=|V|/√(R^2+(ωL-1/(ωC))^2)とその回路の共振時(ω=ω0=1/√(LC)のとき)の電流の大きさI0=V/Rから、|I|/|I0|=R/√(R^2+(ωL-1/(ωC))^2)であり、ω=ω1、ω2のときに|I|/|I0|=1/√2なので、ω1とω2が求まり、ω1-ω2=R/Lとなり、ω0/(ω2-ω1)を計算すると(3)式になっている。

Q値については、以下を参照。

東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻 牧野泰才氏のページ > 資料 >
Q値

PSRR(電源電圧変動除去比)

オペアンプ測定に関する翻訳で、PSRR(電源電圧変動除去比)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight E5061Bネットワーク・アナライザのp5)。PSRRは、Power Supply Rejection Ratioの略である。

PSRRとは、オペアンプ、ADコンバータ、リニア・レギュレータなどのアナログICデバイスに入力される電源電圧に変動(リップル)があるときに、そのデバイスが電源電圧の変動を除去できる能力であり、以下のように定義される。

PSRR(dB)=20log(ΔVsupply/ΔVout)、ΔVsupply:電源電圧の変動、ΔVout:デバイスの出力電圧の変動

例えば、電源電圧が1V変化したときに、デバイスの出力電圧が10μV変化したとすると、PSRR(dB)=20log(1/10×10^(-6))=20log(10^5)=100(dB)となる。

電源電圧の変動(リップル)の原因には、AC電源ライン周波数に起因する変動、DC/DCコンバータのスイッチング周波数に起因する変動、電源を複数の回路ブロックで共有することによる変動などがあり、PSRRはアナログICデバイスの重要な性能指標である。

PSRR(電源電圧変動除去比)については、以下を参照。

LDO PSRR Measurement Simplified(英語PDF)

chirp(チャープ)

レーダ測定やシミュレーションに関する翻訳で、chirp(チャープ)という言葉がよく出てくる(例えば、SystemVueを使用したレーダ・システムの設計と干渉解析)。

chirpという用語を辞書で引くと、「虫や鳥の鳴き声」という意味が出てくるが、レーダ測定では、chirp(チャープ)信号とは「周波数が時間とともに連続的に変化する信号」のことである。パルス圧縮レーダに、chirp(チャープ)信号が用いられている。

パルス・レーダでは、パルス信号を送信してから、目標からの反射信号が受信されるまでの遅延時間tを測定することにより、目標までの距離Rを求める。tは、電波が目標に達して反射されて帰ってくるまでの往復の時間なので、光速をcとすると、

R=ct/2

である。したがって、パルス・レーダの距離分解能ΔRは、パルス幅Twによって制限され、

ΔR=cTw/2  (1)

となる。

(1)式から、Twを短くすれば、距離分解能が向上するが、送信信号の平均電力が低下するので(パルスの占有帯域幅(≒1/Tw)が増加して受信時のS/N比が低下するので)、レーダの探知距離が短くなる。探知距離を伸ばすために、パルス圧縮レーダが用いられる。

パルス圧縮レーダでは、送信信号として、S/N比を稼ぐためにパルス幅Twを長くし、パルス内部の正弦波の周波数がTwの期間にリニアにΔf増加するリニア周波数変調(FM)をかけた信号(チャープ信号)を用いる。このようなチャープ・パルス信号を用いると、目標で反射されて戻ってきた受信信号を、周波数の増加Δfに対してリニアに遅延時間が減少する回路に通すことにより、元のパルス幅Twに関係なく、パルス幅(=1/Δf)を短く(圧縮)でき、距離分解能を向上できる。

パルス圧縮レーダについては、以下を参照。

日本財団 図書館 > 技術 > 電気工学.電子工学 > 平成15年度 新マイクロ波標識の開発に関する調査研究中間報告書 > 1.2 レーダー方式と技術開発動向