Vulnerability(脆弱性)

この単語を誤訳する翻訳者はいないだろうが、Threat(脅威)、Security hole(セキュリティーホール)、Risk(リスク)などの用語が含まれる文章などに出会ったときに、各用語の意味を正確に理解していないと訳文が組み立てられなくなったりする。脆弱性とは、脅威を誘引してしまうセキュリティ上の欠陥や弱点のことで、システム上の問題点以外にも人間の振る舞いによる脆弱性(人為的脆弱性)や自然災害などに対する脆弱性などもあり、その要因は多岐にわたる。セキュリティホールは具体的な欠陥や不具合のことで、脆弱性とは完全に同義ではないので、文脈を把握して正確に訳す必要がある。
ローカライザーとして毎日のように見慣れているこの用語に違和感はないのだが、この訳語を見るたびに”わかりやすい表現”とはどういったものかについて考えたりする。何と読むのか、どういう意味なのか、戸惑う人もいるのでは…と。

Severity(重大度、…)

翻訳者なら、訳を間違えることはないだろう。医学系だと”重症度”とも訳す。分野や文脈によっては”重要度”と訳す場合もあるが、やはり重大度が意味的には近い。重要度を意味する英語には”importance”、”significance”、”priority”などがあるが、きつい(深刻とか重大な問題といった)イメージは浮かばない。つまり、日本語の”重大度”とはニュアンスが完全に一致しているとは言い難い。重大度は深刻度に近い。原発事故の英語のニュースでは、深刻度として”severity level”とか”severity rating”という表現が出てくる。深刻度は”seriousness”を用いて表現する場合も多いが、どちらも重要度とはニュアンスが異なる。深刻度の意味として”vulnerability”も考えられるが、ITの世界ではこれもまた意味合いが違う。微妙なニュアンスをうまく伝えるにも、やはり文脈の把握が大切だろう。

phase lock loop(位相ロック・ループ)

図1

図2

計測器の翻訳で、”phase lock loop”という言葉がよく出てくる。これは、「位相ロック・ループ」または「フェーズ・ロック・ループ」と訳される。PLLと略記されることもある。例えば、高周波デザイナーの為のVCO/PLL周波数シンセサイザ設計/評価手法がある。以下にPLLの動作原理を説明する。

PLLとは、外部からの入力信号(基準信号)と同期した(位相差が等しい)出力信号を生成するための回路で、基本的な回路構成を図1に示す。PLLは、2つの信号間の位相を比較して位相差信号を生成する位相比較器、位相差信号をDC制御電圧に変換するループ・フィルタ(ローパス・フィルタ、積分器)、電圧制御発振器(VCO)で構成される。VCOの出力信号の位相が基準信号より遅れていれば(基準信号が図1のcos(ωRFt)、VCOの出力信号が図1のcos(ωRFt-θ)とすると)、位相比較器が位相差信号を生成する。それをループ・フィルタに通すことにより、位相差(図1のθ)の大きさに応じて、VCOの位相を進ませるDC制御電圧(図2の-Bsinθ)が生成され、VCOの出力信号の位相が進む。この動作が、連続的に実行されることにより、VCOの出力信号の位相と基準信号の位相との差がゼロになる(同期される)。PLL自身は、周波数を同期させているのではなく、位相を同期させているが、結果的に周波数も同期させることになる。