aging rate(エージング・レート)

信号発生器に関する翻訳で、aging rate(エージング・レート)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight Technologies M9381A PXIeベクトル信号発生器のp8)。

信号発生器の基準周波数の発生に、水晶発振器が用いられている。水晶発振器の周波数は、温度、電源電圧、負荷が変動すると変化するが、温度や電源電圧などを一定に保っても長時間(1ヶ月とか1年)経過すると変化する。この変化の割合がエージング・レート(経時変化、経年変化とも呼ばれる)であり、0.1ppm/年~10ppm/年程度である。

エージングは、加工時に水晶片に加えられた歪みが時間とともに解消されていくことにより生じたり、水晶片を密封している内部材料から出る微量のガスが水晶片に付着することにより生じると考えられている。

水晶発振器については、以下を参照。

水晶デバイス基礎講座

水晶発振器の経年変化については、以下を参照。

水晶振動子とその製造方法

IEEE 802.16

無線通信測定に関する翻訳で、IEEE 802.16という言葉が出てくる(例えば、Agilent N7615B 802.16 WiMAX用Signal Studio)。

「IEEE」は、「The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.(米国電気電子技術者学会)」の略称で、「802」は「802委員会(LAN/MANの標準化委員会)」の意味であり、「16」は「ブロードバンド無線アクセスのワーキング・グループ」という意味である。

「ブロードバンド無線アクセス」とは、当初はアメリカにおけるラスト1マイルの広帯域無線伝送に利用することを意図したものであった。2001年当時、アメリカのような広大な国土では光ファイバやADSLによる広帯域通信が利用可能な場所は都市部に限られていたので、人口密度の低い場所でも無線でブロードバンド通信を利用できるようにすることがIEEE 802.16-2001規格の目的であった。

その後、使用周波数帯を低くして見通し線外の通信を可能にしたり、固定無線用のプロファイルの追加や国際化を行ったものが、IEEE 802.16-2004規格で、Fixed WiMAXと呼ばれることもある。さらに、移動無線通信に必要な機能を追加したものが、IEEE 802.16e-2005規格であり、Mobile WiMAX(モバイルWiMAX)と呼ばれている。

IEEE 802.16規格の変遷については、以下の参照

一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンターのホームページ > ライブラリ > ニュースレター > バックナンバー オンライン版 > No.42 > インターネット 10分講座●WiMAX

cross power spectrum(クロス・パワー・スペクトラム)

信号解析に関する翻訳に、cross power spectrum(クロス・パワー・スペクトラム)という言葉がよく出てくる(例えば、89601B/BN-200 基本ベクトル信号解析 89601B/BN-300 ハードウェア・インタフェース 89600 VSAソフトウェアのp11)

2つの信号の時間変化x(t)とy(t)が測定で得られたとする。この2つの信号の類似性(相関)の強さを定量化するために用いられるのが相互相関関数であり、以下のように定義される。

Cxy(τ)=lim(1/T)∫x(t)y(t+τ)dt、積分範囲は-T/2~T/2で、T→∞の極限をとる
(離散量では、C(τ)=(1/N)Σx(i)y(i+τ)、和の範囲はi=1~N、(τ=1、2、…、N)

この式からわかるように、相互相関関数は、内積を一般化したものになっている。

2つのベクトル(X=(X1,X2,…,Xn)、Y=(Y1,Y2,…,Yn))の内積(X・Y)とは

X・Y=X1×Y1+X2×Y2+…+Xn×Yn=|X||Y|cosθ、|X|はベクトルXの大きさ、θはベクトルXとYのなす角

であり、一方のベクトルXが他方のベクトルYの成分をどれだけ持つか(X・Y/|X|=|Y|cosθ)を表していた。すなわち、ベクトルXとYのなす角がゼロに近いほど(言い換えると、ベクトルXとYが似ているほど)、大きな値になるので、内積の値はベクトルXとYの類似度(相関)を表している。

したがって、相互相関関数は、ベクトルX、Yの内積を関数x(t)、y(t)の内積に拡張し、y(t)を時間軸方向にτずらしながら内積を計算して、2つの信号の時間変化x(t)、y(t)の類似性を調べる関数であると言える。

クロス・パワー・スペクトラムSxy(ω)とは、この相互相関関数Cxy(τ)をフーリエ変換したもので、

Sxy(ω)=(1/2π)∫Cxy(τ)exp(-iωτ)dτ、積分範囲は-∞~∞

Cxy(τ)=∫Sxy(ω)exp(iωτ)dω、積分範囲は-∞~∞

である。

また、上のCxy(τ)の定義式から、

Cxy(τ)=lim(1/T)∫x(t)y(t+τ)dt
=lim(1/T)∫x(t)∫Y(ω)exp(iω(t+τ))dωdt(y(t+τ)のフーリエ変換を代入した)
=lim(1/T)∫∫x(t)exp(iωt)Y(ω)exp(iωτ)dωdt
=∫lim(1/T)[∫x(t)exp(iωt)dt]Y(ω)exp(iωτ)dω
=∫lim(2π/T)X(-ω)Y(ω)exp(iωτ)dω(X(-ω)の逆フーリエ変換を代入した)
=∫[lim(2π/T)X*(ω)Y(ω)]exp(iωτ)dω(x(t)は実数なのでX(-ω)=X*(ω)、X*(ω)はX(ω)の複素共役)

と計算できるので、

Sxy(ω)=lim(2π/T)X*(ω)Y(ω)

となる。

この式から、クロス・パワー・スペクトラムSxy(ω)は、2つの信号に含まれている同じ周波数成分ωの正弦波がどれだけの相関を持っているかを定量化したものであると言える。

クロス・パワー・スペクトラムについては、以下を参照。

広島大学工学部第一類 材料成形研究室 プラズマ・核融合研究グループのホームページ > 計測工学 > 講義ノート 第2章 スペクトル解析の基礎

相関とスペクトル解析