Skip Ordered Set(スキップ・オーダード・セット)

高速シリアル・データ通信測定に関する翻訳に、Skip Ordered Set(スキップ・オーダード・セット)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight J-BERT M8020A 高性能BERTのp24)。

PCI ExpressやUSB 3.0などの高速シリアルデータ通信では、送信側と受信側を同期するために、エンベデッド・クロック(クロックをデータに埋め込んで伝送する方式)が用いられていて、受信側でクロック・リカバリを行ってデシリアライズするので、デシリアライズ段階では送信側と受信側のクロック周波数の差に起因する、データの欠損や重複が生じることはない。しかし、それ以降のロジック段階(8b/10bデコードや128b/130bデコード段階)で、異なるクロック源を使用している場合は、クロック周波数の差による影響が生じる。

このようなクロック周波数の差によるデータの欠損や重複が生じるのを防ぐために、送信側ではスキップ・オーダード・セットと呼ばれるダミー文字列を定期的に挿入している。受信側では、デシリアライズ段階とデコード段階の間に受信したデータを一時的に格納するエラスティック(弾性)バッファを設けて、送信側のデータレートが遅い場合はスキップ・オーダード・セットを削除し、送信側のデータレートが速い場合はスキップ・オーダード・セットを挿入することにより、クロック周波数の差を吸収して、データの欠損や重複が生じないようにしている。

スキップ・オーダード・セットについては、以下を参照。

【連載】高速シリアル・インタフェース測定の必須スキルを身に着ける第6回シリアル・インタフェースの物理層を形成する3大要素 – レシーバの「エラスティック・バッファ(弾性バッファ)」

NFC

無線通信測定に関する翻訳で、NFCという言葉がよく出てくる(例えば、Keysight E6640A EXMワイヤレス・テスト・セットのp3)。NFCは、Near Field Communication(近距離無線通信)の略である。

NFCは、13.56MHzの周波数帯の電波を利用して、10cm程度の至近距離で通信を行なう近距離無線通信である。JR東日本のSuicaや電子マネーEdyなどに採用されているソニーの開発した非接触ICカード技術(FeiCa)と、欧米の交通系カード、電子マネーなどに採用されているフィリップス社(現NXP Semiconductors)が開発したMIFAREという非接触ICカード技術を元にして、2003年12月にISO/IEC 18092として国際標準規格として制定された。ISO/IEC 18092(NFC IP(Interface Protocol)-1)には、MIFARE(ISO/IEC 14443 Type A)とFeiCaが含まれていたが、その後、ISO/IEC 14443 Type B(住民基本台帳カードや運転免許証に採用されている)とICタグの規格(ISO/IEC 15693)を加えたISO/IEC 21481(NFC IP-2)が2005年1月に制定された。

NFCには、カードエミュレーション機能(クレジットカードや電子決済カードのエミュレーションを行なう機能)、Peer-to-Peer(P2P)機能(端末同士がデータの送受信を行って認証やデータ交換を行なう機能)、リーダ/ライタ機能(NFCタグが内蔵された機器や商品からその情報を読み書きする機能)が規定されている。

NFCの測定については、以下を参照。

株式会社トッパンTDKレーベルのホームページ > NFCってナニ?

HARQ

デジタル無線通信測定に関する翻訳に、HARQという言葉がよく出てくる(例えば、LTE/LTE-Advanced FDD/TDD用Signal Studioのp1)。HARQは、Hybrid ARQ(Automatic Repeat reQuest)の略で、「ハイブリット自動再送要求」と訳されることもある。

デジタル信号伝送システムでは、ノイズや外乱によりデジタル信号に誤りが生じやすいので誤り訂正方式の導入が不可欠である(音楽CDにも読み取りエラー訂正用の誤り訂正方式(リードソロモン符号の付加)が導入されていることはよく知られている)。デジタル無線通信は、ケーブルではなく電波を用いて空間を伝送路として使用するので、信号強度が弱く、他の電波との干渉やノイズの影響を受けやく、デジタル信号に誤りが発生しやすい。

このようにデジタル信号に誤りが生じた場合に、それを訂正して元に戻す誤り訂正方式として、FFC(Forward Error Correction、前方誤り訂正)方式とARQ(Automatic Repeat reQuest、自動再送要求)方式がある。

FFC(前方誤り訂正)方式は、送信データに誤り訂正用の情報を付加して送り、受信側でその情報に基づいて誤りの検出/訂正を行なう方式である。FFC方式は、ブロック符号方式と畳み込み符号方式に分けられる。ブロック符号方式は、送信データをブロックに分けて、各ブロックに誤り検出/訂正用符号を付加して、各ブロック毎に誤りを訂正する。畳み込み符号方式は、連続する情報ビットの過去の数ビットを用いて現時点の符号化(誤り検出/訂正用)ビットを連続して得る(各符号化ビットが先行するいくつかの情報ビットの畳み込みで生成される)方式である。FFC方式はデータの再送を行わないのでスループットを一定のレベルに維持できるが、予想外の誤りに対処できない。

ARQ(自動再送要求)方式は、送信データに誤りが検出されたときに受信側が再送要求を行なう方式である。FFC方式に比べて、誤りの検出用のみの符号の付加でよいため冗長度が小さく、高い信頼性が得られるが、戻り回線とバッファが必要になるのでスループットが落ちる。

HARQ方式は、FFC方式とARQW方式を組み合わせたもので、FFC方式による誤り訂正が失敗した場合に、受信側はそのデータを保存しておき、送信側は送るべきデータの一部のみを再送し、受信側は保存したデータと再送された一部のデータを組み合わせてデータの訂正を試みる。さらに、データの訂正に失敗すると、送信側はデータの別の一部を送り、データが正しく訂正されるまでこのプロセスが続く。このようにして、データ再送によるスループットの低下を緩和する方式がHARQ方式である。

HARQについては、以下を参照。

Hybrid ARQ

誤り訂正方式については、以下を参照。

第3章 誤り訂正符号理論