causality、passivity(因果律、受動性)

高周波シミュレーションに関する翻訳に、causality、passivity(因果律、受動性)という言葉がよく出てくる(例えば、EEsof EDA Advanced Design Systemのp11)。

受動回路のシミュレーションを行なう際に、従来(信号速度が遅い場合)は、抵抗(R)、コンデンサ(C)、コイル(L)の集中定数素子を組み合わせた、集中定数のSPICEモデルが使用されていた。しかし、Gbpsのデータレートの信号を扱う場合は、信号の周波数が高い(波長が短い)ので受動回路(伝送線路やコネクタなど)を細分化して、細分化したセクション毎に集中定数素子モデルが必要になり非常に複雑なモデルになる。また、集中定数素子モデルでは、周波数依存の損失や高次の伝搬モードも考慮することができない。この結果、シミュレーション時間が長くなったり、不正確になる。

現在では、このような問題を克服するために、高周波の受動回路のシミュレーションにSパラメータモデルが使用されるようになった。Sパラメータモデルは、測定器による実測結果や電磁界解析ソフトウェアのシミュレーション結果を用いたものなので、周波数依存の損失や高次の伝搬モードも考慮されている。

Sパラメータは周波数領域で測定(シミュレーション)された応答であり、周波数の関数としてその大きさが表される。しかし、時間領域のシミュレーションで使用するには、周波数領域の応答を時間領域の応答(インパルス応答)に変換する必要がある。このとき、測定器や電磁界解析ソフトウェアの制限(0Hzから∞Hzまでのすべての周波数での応答が得られない)により、測定またはシミュレートされた周波数ポイント以外の応答を内挿/外挿する必要がある。この内挿/外挿した応答も含めて周波数領域の応答をインパルス応答に変換するので、内挿/外挿した応答が間違った応答だった場合は正確なインパルス応答が得られない。その結果、時間領域のシミュレーションで因果律(時刻t0における出力y(t0)は、過去の入力x(t)、t<t0のみに依存(インパルス応答がt<0でゼロ))や受動性(受動回路の出力パワーは入力パワー以下(受動回路では内部でエネルギーが生成されない))が満たされない偽の応答が生じる。

したがって、Sパラメータ(周波数領域の応答)からインパルス応答(時間領域の応答)に変換することにより作成されたモデルでは、偽の応答が生じないように、因果律や受動性が満たされているかどうかがチェックされる。

因果律、受動性については、以下を参照

Quality of S-parameter models(英語pdf)

The Need for Impulse Response Models and an Accurate Method for Impulse Generation from Band-Limited S-Parameters(英語pdf)

Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)

レーダー測定に関する翻訳で、Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)という言葉がよく出てくる(例えば、レーダー/EWシステムテスト用の多次元信号の作成のp9)。合成開口レーダーは、SARと略されることがある。

radarは、RAdio Detecting and Ranging(電波探知および測距)の略で、ターゲットに電波を発射して、その反射波を測定することにより、ターゲットの方向や距離を測定する装置であるが、合成開口レーダーは航空機や衛星などの飛翔体に搭載され、移動しながら電波を送受信し、信号処理を行って極めて高い分解能(高解像度)の地形イメージ(例えば、このページの画像)を得るものである。

合成開口レーダーの電波による高解像度イメージング(可視化)は、レンズによる高解像度結像に例えることができる。レンズの大きさ(開口)が大きいほど、遠くにあるものを高解像度で結像することができるのと同様に、アンテナの大きさ(開口)が大きいほど、遠くにあるものを高解像度でイメージングできる。しかし、実際には大きなアンテナを飛翔体に搭載できないので、飛翔体の移動とともに電波の発射と反射波の受信/記録を繰り返し(1秒間に数千回)、後でこの膨大な(時間遅れ)データを処理することにより高解像度のイメージングを行っている。すなわち、データ処理により、飛翔体が移動した距離分の大きさ(開口)のアンテナと等価なものが得られたことになるので、合成開口レーダーと呼ばれる。

飛翔体の移動方向(アジマス方向とも呼ばれる)の高い分解能は上記のようにして得られるが、移動方向に対して垂直な方向(レンジ方向と呼ばれる)の高い分解能は、パルス圧縮レーダーと同じ原理で得られる。

合成開口レーダーについては、以下を参照。

合成開口レーダーと間接計測技術
合成開口レーダー

zero span(ゼロスパン)

スペクトラム・アナライザに関する翻訳に、zero span(ゼロスパン)という言葉がよく出てくる(例えば、衛星地上局の正確な検証/保守/修理 FieldFoxハンドヘルド・アナライザのp9)。

掃引同調型スペクトラム・アナライザでは、入力のRF信号を、LO(局部発振器)信号の周波数を掃引しながら(低い周波数から高い周波数に変化させながら(この周波数範囲をスパンと呼ぶ))、ミキサでダウンコンバートして、IFフィルタ(RBW(分解能帯域幅)フィルタ)を通過したRF信号とLO信号の差周波数であるIF信号をCRTに表示している(ここのJavaアプレットを参照)。すなわち、LO信号の周波数に応じて同調したRF信号の振幅が表示される(周波数の関数としてRF信号のパワー(振幅)が表示される)。

ゼロスパンとは、LO(局部発振器)信号の周波数の掃引を止めること(すなわち、スパンをゼロにすること)である。スペクトラム・アナライザをゼロスパンに設定すると、CRTに周波数の関数としてRF信号の振幅が表示されなくなり(振幅対周波数で表示されなくなり)、代わりにIFフィルタを通過した(帯域制限された)IF信号のパワー(振幅)の時間変化(すなわち、RF信号の時間変化)が表示される(オシロスコープのようにタイムドメイン(振幅対時間)の波形が表示される)。

ゼロスパンは、IFフィルタの帯域幅を調整して搬送波信号やスプリアス信号の単位周波数当たりのパワーを求めたり、時間軸上でほんの一瞬にしか存在しないバースト信号のスペクトラムを測定する(タイムゲーティッド・スペクトラム測定を行なう)際のトリガレベルを決めるために使用されたりする。

zero span(ゼロスパン)については、以下を参照

Zero Span Made Simple(英語ページ)

Zero Span(英語ページ)