CAN FD

シリアルバスの測定に関する翻訳に、CAN FDという言葉が出てくる(例えば、CAN FDアイダイアグラム・マスク・テスト)。

最近の自動車には、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれる自動車制御用コンピュータが多数搭載され(100個以上搭載している自動車もある)、電子制御により高度な機能(パワートレイン制御(エンジンやトランスミッションの制御)、ボディー制御(パワー・ウィンドウ、ドアロック、ミラーなどの制御)、安全制御(各種センサで取り込んだ車外情報によるブレーキ制御など)など)を実現している。また、これらの機能は互いに関連することが多いので、各ECU間でデータ通信を行って協調動作する必要がある。しかし、各ECUをそのデータ専用の個別のワイヤで配線すると、ECUの数が多い場合は、配線の数が膨大になり、配線の重量やスペースが増え、コストの増加、信頼性の低下、故障診断や設計変更が困難になるといった問題が生じる。

このような問題を解決するために、各ECU間のデータ通信を行なうための車載ネットワーク規格として広く用いられているのが、ドイツの電装メーカのBOSCH社が1986年に仕様を公開し、1993年に国際標準化機構によりISO 11898として規格化されたCAN(Controller Area Network)である。CANでは、各ECUが1本の通信線上にぶら下がっていて、1本の通信線を共有している。CANは、マルチマスター方式なので、各ECUを同じ仕様で設計でき、ECUの追加が容易である。マルチマスター方式のため、通信の衝突を回避するために、送信データに優先順位を付けて、複数のECUからデータが同時に送信された場合に優先順位の高いものが送信されるようにしている。1回に送信できる最大データ量(1つのデータフレームの最大ペイロード(データフィールド))は8バイトで、通信速度は最大1Mbpsである。

CANは、国際規格になってから20年以上経過し、その間に電子制御も高度化したので、最大1Mビット/sの通信速度ではデータ伝送容量が不足するようになった。これを解決するために、2000年に欧州のメーカを中心にFlexRayコンソーシアムが結成され、CANの後継規格として、伝送速度の向上(10Mbps)、ネットワーク構成の柔軟性の向上(バス型、パッシブ・スター型、アクテブ・スター型)や信頼性の向上(完全2重化など)のためにFlexRayという規格が策定された。しかし、FlexRayは高価なので採用が進んでいない。これに対して、BOSCH社が新たに策定したのが、CAN FD(CAN with Flexible Data rate)という規格で、2015年に ISO 11898-1:2015として規格化された。CAN FDでは、1つのデータフレーム内のデータフィールドが8バイトから64バイトに拡張され、通信速度が1Mbps以上に高速化されている。

CAN FDについては、以下を参照。

【車載情報技術】車載ネットワーク 「CAN」 「CAN FD」

CAN FD – The basic idea(英語ページ)

zero(零点)

フィルタ設計ソフトウェアに関する翻訳で、zero(零点)という言葉がよく出てくる(例えば、Genesys S/FilterソフトウェアによるカスタムRF/マイクロ波/アナログフィルターのシンセシスのp3)。

図1.

図2.

図3.

重ね合わせの原理が成り立つ線形システムに正弦波を入力して、その定常応答の出力を解析する場合は、周波数応答関数(伝達関数)H(ω)=Y(ω)/X(ω)[X(ω):入力信号の各フーリエ成分(フーリエ変換)、Y(ω):出力信号の各フーリエ成分(フーリエ変換)]を用いる方法が便利である。

一方、入力波形の急激な変化に対する過渡的な応答を解析する場合は、ラプラス変換の伝達関数を用いる方法が便利である。ラプラス変換では、周波数ωの拡張概念である複素周波数s=σ+jωで減衰項を導入することにより、システムの挙動を過渡状態を含めて考えることができる(図1および図2)。

ラプラス変換の伝達関数は、G(s)=Y(s)/X(s)[X(s):入力信号のラプラス変換、Y(s):出力信号のラプラス変換]で定義され、多くの場合、図3のようなsの有理式で表わされる。この有理式の分子を因数分解して、分子がゼロとなるsを、伝達関数が何も伝達しないという意味で零点という。同様に、分母を因数分解して、分母がゼロとなるsを、伝達関数が無限大の量を伝達するという意味で極という(これらの零点や極を複素平面上にうまく配置することにより、所望の伝達特性(伝達関数)を持つフィルタを設計できる)。

ラプラス変換については、以下を参照

The Laplace Transform(英語pdf)

東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 松澤・岡田研究室のホームページ > Lectures > 信号システム解析 > 2006 03

pulse desensitization(パルス感度抑圧)

パルス波形測定に関する翻訳で、pulse desensitization(パルス感度抑圧)という言葉がよく出てくる(例えば、パルスドレーダー信号の測定のp7)。

時間領域で、振幅がA、パルス幅τの矩形パルスが繰り返し幅(パルス周期)Tで繰り返される周期パルスには、周期T(周波数1/T)の基本波(メインローブ、搬送波)以外に、高調波(サイドローブ、側波帯)が含まれている(周期パルスをフーリエ変換するとわかる。例えば、ここを参照)。したがって、スペクトラム・アナライザを使用して周波数領域でこの信号を測定すると、パルスのエネルギーがメインローブ以外のサイドローブに分散されるので、振幅がA、周期Tの正弦波(搬送波)に比べて、周期パルスのメインローブの振幅が小さくなる。これを、パルス感度抑圧と呼んでいる。

時間領域で、振幅がA、パルス幅τの矩形パルスが繰り返し幅(パルス周期)Tで繰り返される周期パルスをフーリエ変換することにより、メインローブの振幅がA(τ/T)と求まる。これと周期Tの正弦波の振幅Aとの比(τ/T)を対数で表した

20log(τ/T)

は「パルス感度抑圧係数」と呼ばれている。

パルス感度抑圧については、以下を参照

Agilentスペクトラム・アナライザ・シリーズ Application Note 150-2のp8~p9