SENT

車載用シリアルバスの測定に関する翻訳に、SENTという言葉が出てくる(例えば、オシロスコープ測定ツールによる車載用シリアルバスの効果的なデバッグ)。

近年、自動車の燃費や二酸化炭素の排出基準の強化に伴い、エンジンの最適制御がますます求められるようになってきている。そのためには、さまざまなセンサからの高精度の情報をECU(Electronic Control Unit)と呼ばれる自動車制御用コンピュータが受け取って、それに基づいてエンジンを制御する必要がある。従来は、アナログ信号としてセンサーから情報を受け取っていたが、自動車の電動化、高機能化に伴う電磁ノイズの増加に起因するグランド電位の変動や伝送時の信号劣化、ECUでのA/D変換誤差などにより、センサ出力値の精度が低下して、高度な制御が困難になってきている。このような問題を解決するために、センタとECU間をデジタル信号で通信するためのプロトコルが開発された。これが、SENTである。SENTは、Single Edge Nibble Transmission(シングル・エッジ・ニブル伝送)の略で、SAE(Society Automobile Engineers、米国自動車技術協会)で規格化された通信プロトコル(SAE-J2716)である。

SENTは、センサーからECUへの片方向のポイントツーポイントのシリアル通信である。2つのパルスの立ち下がりエッジ(シングル・エッジ)間の時間の長さで、4ビット(16通りの状態、1ニブルと呼ばれる)を表し、それをひとかたまり(最小単位)としてデータを伝送するので、シングル・エッジ・ニブル伝送(SENT)と呼ばれる。

SENTについては、以下を参照。

日立評論のホームページ > バックナンバー > 2013年 > 2013年11月号 > パワートレイン用高精度センサーの展開の「3.2 センサー信号伝達での高精度化」

dynamic range(ダイナミックレンジ)

測定器の翻訳で、dynamic range(ダイナミックレンジ))という言葉がよく出てくる(例えば、発生頻度の低い信号の広帯域/高ダイナミック・レンジ測定による複雑なシステム/環境の特性評価)。

最も広い意味での測定器のダイナミックレンジは、測定器に入力可能な最大信号レベルと測定器で識別可能な最小信号レベル(ノイズフロアレベル(表示平均雑音レベル))との差(比)である。

しかし、測定器では、信頼性と再現性の高い信号レベルの測定値が得られなければ意味がないので、与えられた測定の不確かさで測定可能な最大信号レベルと最小信号レベルの差は、上のダイナミックレンジの定義よりも小さくなる。

ダイナミックレンジを制限する要因として、スペクトラム・アナライザでは、入力信号を増幅する増幅器や周波数変換するミキサの利得圧縮(入力信号レベルが高いと、信号レベルが圧縮され不正確になる)や、2次高調波歪み3次相互変調歪み位相雑音(入力信号レベルが高いと、測定器の内部で発生するこれらの歪み成分により、測定対象の低レベル信号を識別できなくなる)などがある。

ダイナミックレンジについては、以下を参照。

RF/マイクロ波スペクトラム・アナライザのダイナミック・レンジの最適化

First-order PLL、Second-order PLL(1次PLL、2次PLL)

ジッタ解析に関する翻訳で、First-order PLL、Second-order PLL(1次PLL、2次PLL)という言葉がよく出てくる(例えば、ジッタ解析のp5)。

PLLとは、外部からの入力信号(基準信号)と同期した(位相差がゼロの)出力信号を生成するための回路である。PLLの動作は、以下のように表わすことができる。

(1) PLLへの入力信号(基準信号)をA1cos(ωt+φ_in(t))、PLLからの出力信号をA2cos(ωt+φ_out(t))とする。

(2) これらの信号が位相比較器(ミキサなどの掛け算回路)に入力され、誤差信号として位相比較器から

v_detector(t)=(K_detector・A1・A2/2)sin(φ_in(t)-φ_out(t))、K_detectorは位相比較器の利得
≒(K_detector・A1・A2/2)(φ_in(t)-φ_out(t))、φ_in(t)-φ_out(t)<<1の場合
=(K_detector・A1・A2/2)φ_error(t)、φ_error(t)=φ_in(t)-φ_out(t)は位相差

が出力される。この式の両辺をラプラス変換すると(時間領域の信号表現をs領域の信号表現に変換すると)、

v_detector(s)≒K_detector・φ_error(s)

となる。

(3) このv_detector(s)が、伝達関数がF(s)のループフィルターを通るので、その出力v_filterは、

v_filter(s)=F(s)・v_detector(s)

となる。

(4) v_filter(s)が電圧制御発振器(VCO)に入力され、その出力がフィードバックされて、再度位相比較器に入力される。

VCOは、VCOへの入力信号電圧v_filter(t)に応じてVCOの出力信号の周波数ω_vco_out(t)を可変するデバイスなので、

ω_vco_out(t)=ω_c+K_vco・v_filter(t)、ω_cは中心周波数、K_vcoはVCOの利得

と表わすことができる。周波数ωは位相φの変化率(時間微分)なので(ω(t)=dφ(t)/dtなので)、VCOの出力信号の位相φ_vco_out(t)は、ω_vco_out(t)を積分して、

φ_vco_out(t)=∫ω_vco_out(t)dt=ω_c・t+K_vco∫v_filter(t)dt

となる。したがって、VCOの出力信号電圧V_vco_out(t)は、

V_vco_out(t)=A0cos(φ_vco_out(t))=A0cos(ω_c・t+K_vco∫v_filter(t)dt)

となる。

この信号がPLLの出力信号であり、また、フィードバックされて、再度位相比較器の入力信号にもなる。この信号の初期位相K_vco∫v_filter(t)dtを、

φ_out(t)=K_vco∫v_filter(t)dt

と表し、両辺をラスラス変換すると、

φ_out(s)=K_vco(v_filter(s)/s)

となる。

以上の(1)~(4)をまとめると、PLLに、初期位相φ_in(t)の基準信号が入力されると、最初に位相比較器で初期位相φ_out(t)のフィードバック信号との位相差に比例する信号v_detector(t)が生成され(v_detector(s)≒K_detector・φ_error(s))、その信号が伝達関数がF(s)のループフィルターを通り(v_filter(s)=F(s)・v_detector(s))、その電圧v_filter(t)に応じてVCOから初期位相φ_out(s)=K_vco(v_filter(s)/s)の信号が出力され、その初期位相φ_out(t)の信号がPLLの出力信号となるのと同時に、再度位相比較器にフィードバックされ、ループすることにより(基準信号の初期位相φ_in(t)との差(φ_in(t)-φ_out(t))がゼロに近づき)位相同期が行われる。

ここで、入力がX(s)、出力がY(s)、順方向経路の伝達関数(ゲイン)がP_forward(s)、フィードバック経路の伝達関数(ゲイン)がP_feedback(s)の典型的なフィードバック制御系の閉ループ伝達関数H(s)は

H(s)=Y(s)/X(s)=P_forward(s)/(1+P_forward(s)・P_feedback(s))

である。

上で説明したPLLにこれを適用すると、順方向経路の伝達関数(ゲイン)は、位相比較器の利得(K_detector)、ループフィルターの伝達関数F(s)、VCOの利得(K_vco)、VCOでの積分演算(1/s)を掛けたもので、

P_forward(s)=K_detector・F(s)・K_vco・(1/s)

で与えられ、フィードバック経路には何もないのでその伝達関数(ゲイン)は、

P_feedback(s)=1

で与えられるので、PLLの閉ループ伝達関数H(s)は

H(s)=φ_out(s)/φ_in(s)=K・F(s)/(s+K・F(s))、K=K_detector・K_vco

となる。

ループフィルターがない場合は、F(s)=1なので、

H(s)=K/(s+K)

となる。この場合、分母がsの1次式なので、1次のPLLと呼ばれる。

ループフィルターが、CRフィルターの場合は、時定数T=RCを用いて、F(S)=1/(1+sT)と表されるので、

H(s)=K/(s(1+sT))

となる。この場合、分母がsの2次式なので、2次のPLLと呼ばれる。

1次のPLL、2次のPLLについては、以下を参照。

Unlocking the Phase Lock Loop – Part 1(英語pdf)

PRINCIPLES OF PHASE LOCKED LOOPS(PLL)(英語pdf)