skew(スキュー)

高速デジタル回路測定に関する翻訳に、skew(スキュー)という言葉がよく出てくる(例えば、FPGAのデザインに適したI/Oアーキテクチャの選択)。

skewの一般的な意味は、「斜め」とか「歪み」であるが、高速デジタル回路の分野では、バス(ハードウェアの各要素がデジタルデータをやりとりするための経路。例えば、メモリコントローラとメモリ間のメモリバスなど)上の個々の信号線間の配線遅延に起因するタイミングのずれ(伝達時間の差)のことである。特にクロック同期式デジタル回路で設計されたLSIでは、すべての同期式順序回路(フリップフロップ)に同じタイミングでクロックを供給する必要があり、クロック回路から分配されたこれらのクロック信号間の遅延時間差はクロック・スキューと呼ばれる。

近年、バスは、データ転送の高速化により、複数の信号線を用いるパラレルバスから1対の差動信号線を用いるシリアルバスに移行してきているが、メモリモジュール内のバスやメモリやCPU内部のバスでは、複数のビットを同じタイミングで処理する必要があるので、パラレル転送が必要である。例えば最新のGPUでは、メモリバス幅が256ビットのものがあり、ピン数が非常に多く、配線遅延をなくすためにGPUのピンとメモリのピン間を等長で接続するのは非常に困難になる。したがって、PCのマザーボードのようにメモリモジュールを用いるのではなく、GPUを囲むようにメモリチップが直接配置されている。それでも、それぞれのピン間を接続するためには信号線を曲げる必要があるので(それぞれのピン間の信号線の距離が同じにならないので)、等長にするためにミアンダライン(蛇行した配線)が用いられたり、配線長を補正するためのトレーニング(電源投入時に遅延を予め測定して調整すること)が用いられている。

高速デジタル信号のタイミングのずれの問題については以下を参照。

基板設計がうまくいかない、高速信号を手なずけるには

TPMS

車載RF/マイクロ波システムの測定に関する翻訳に、TPMSという言葉がよく出てくる(例えば、FieldFoxハンドヘルド・アナライザによる車載RF/マイクロ波システムの検証/トラブルシューティングのp3)

TPMSは、Tire Pressure Monitoring System(タイヤ空気圧監視システム)の略で、自動車のタイヤの空気圧を運転席から監視するためのシステムである。タイヤの空気圧の不足は、自動車はエンジンで動かすので運転していても分かり難く、パンクやタイヤの破裂の原因になり、燃費も悪くなる。このため、米国では2007年、欧州では2012年、韓国では2013年から、TPMSの新車への搭載が義務付けられている。

TPMSには、直接方式と間接方式の2種類がある。直接方式では、タイヤ内部に温度と圧力を検出するセンサーと送信機を取付け(タイヤのエアバルブと一体になったものが多い)、走行中にセンサーからのデータを受信して温度と空気圧を確認する。間接方式では、空気圧が減少すると、タイヤの半径が小さくなり、回転数が他のタイヤより速くなるので、それをABS(アンチブレーキシステム)の車速センサーで検出して空気圧の減少を間接的に計算する。直接方式には、各タイヤ毎の状態を高精度に確認できるという利点があるが、バッテリーに寿命があり、バッテリーの交換時にタイヤの着脱が必要になるという欠点がある。間接方式には、タイヤを着脱しなくても利用可能であるという利点があるが、回転差の測定からの間接測定なので精度はあまりよくない。

TPMSについては、以下を参照。

カーエレ用語 TPMS ティーピーエムエス

TPMS(タイヤ空気圧警報システム)の特徴とは?

LIDAR(ライダー)

デジタイザに関する翻訳で、LIDAR(ライダー)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight U5303A PCIe高速デジタイザ、オンボードプロセッシング搭載のp2)。

LIDARは、RADAR(RAdio Detecting And Ranging、電波探知および測距)のRAdio(電波)をLIght(光)に置き換えた、LIght Detecting And Ranging(光探知および測距)の略で、レーザー光線を使用して周囲の物体の方向や距離を測定する装置である。レーザー光線を用いるので、LIDARはレーザー・レーダーと呼ばれることもある。

電波も光も同じ電磁波であるが、レーダーに用いられる電波の波長は3 mm~3 m程度(周波数にして0.1 MHz~100 GHz)で、ライダーに用いられる半導体レーザーの波長は可視光領域(波長:400 nm程度)~近赤外線領域(波長:1 μm程度)である。一般に、用いる電磁波の波長より小さな物体の検出感度は低下するので、レーダーよりもライダーの方がはるかに小さな物体を検出でき、高分解能画像が得られる。

このことから、ライダーは、PM2.5(直径2.5 μm以下の炭素成分、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩などからなる粒子状物質で、健康に害を及ぼすとされている)などの粒子状物質の観測に用いられたり、航空機に搭載して地形の測量などに利用されている。また、最近では、自動運転カーに搭載するセンサとして開発が進められている。

ライダーについては、以下を参照。

日本気象学会のホームページ > 情報交換 教育と普及活動 > 夏期大学 > これまで(第40回以降)の夏季大学のテーマ 第44回 2010年8月7・8日 気象観測技術の最前線 > ライダーネットワークでエアロゾルの三次元的な動態を捉える