impedance(インピーダンス)

電気計測に関する翻訳に、impedance(インピーダンス)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent 4294A プレシジョン インピーダンスアナライザ 40 Hz~110 MHz)。

インピーダンスとは、交流回路における電流の流れにくさを表すもので、直流回路における電流の流れにくさ(抵抗R)に相当するものである。オームの法則、R=V/I(V:直流電圧、I:直流電流)との類似から、交流電圧Vac(t)と交流電流Iac(t)を用いて、インピーダンスZは、

Z=Vac(t)/Iac(t)

と表される。また、一般に交流回路ではVac(t)とIac(t)の位相が異なるので、Zは、

Z=R+Xj (R:抵抗、X:リアクタンス、j:虚数単位) (1)

のように複素数で表す。

以下で、抵抗、コンデンサ、コイルに交流電圧を印加した場合を考える。

[1]抵抗Rに交流電圧Vac(t)=V0cos(ωt)を印加した場合は、生じる交流電流の位相は変わらないので、インピーダンスの虚数成分(直交成分)Xは0であり、Z=Rである。

[2]キャパシタンスCのコンデンサに交流電圧Vac(t)=V0cos(ωt)を印加した場合は、よく知られたQ=CVの関係を時間tで微分し、電流の定義、Iac(t)=dQ/dt(単位時間当たりの電荷の変化)を用いると、

Iac(t)=dQ/dt=C(dV/dt)=-ωCV0sin(ωt)=ωCV0cos(ωt+π/2) 

となり、電流Iac(t)は、電圧Vac(t)よりも位相が90°(π/2)進む。

複素平面上では、cos(ωt+π/2)は、cos(ωt)をπ/2回転させたもの(j(虚数単位)を掛けたもの)なので、cos(ωt+π/2)=jcos(ωt)と表される。したがって、キャパシタンスCのコンデンサのインピーダンスZは、複素数表示で、

Z=Vac(t)/Iac(t)=V0cos(ωt)/(ωCV0cos(ωt+π/2))=1/(jωC)=-j/(ωC)

と表される。これは、(1)式でR=0、X=-1/(ωC)としたもので、-1/(ωC)は容量性リアクタンスと呼ばれる。

[3]インダクタンスLのコイルに交流電圧Vac(t)=V0cos(ωt)を印加した場合は、回路を流れる電流Iac(t)により、電磁誘導の法則、L(dIac(t)/dt)=-V_L(t)からコイルに自己誘導起電力V_L(t)が生じる。キルヒホッフの第2法則からVac(t)+V_L(t)=0なので、L(dIac(t)/dt)=Vac(t)を積分すると、

Iac(t)=(1/L)∫V0cos(ωt)dt=(1/ωL)V0sin(ωt)=(1/ωL)V0cos(ωt-π/2)

となり、電流Iac(t)は、電圧Vac(t)よりも位相が90°(π/2)遅れる。

複素平面上では、cos(ωt-π/2)は、cos(ωt)を-π/2回転させたもの(-jを掛けたもの)なので、cos(ωt-π/2)=-jcos(ωt)と表される。したがって、インダクタンスLのコイルのインピーダンスZは、複素数表示で、

Z=Vac(t)/Iac(t)=V0cos(ωt)/(1/ωL)V0cos(ωt-π/2)=1/(-j/ωL)=jωL

と表される。これは、(1)式でR=0、X=ωLとしたもので、ωLは誘導性リアクタンスと呼ばれる。

以上から、抵抗、コンデンサ、コイルが直列に接続された回路の合成インピーダンスは、

Z=R+(-j/(ωC))+(jωL)=R+j(ωL-1/(ωC))

のように簡単に求められる。

また、抵抗、コンデンサ、コイルが並列に接続された回路では、それぞれのインピーダンスの逆数のアドミタンスを足して、全体のアドミタンスを求め、その逆数をとってインピーダンスを求める。

インピーダンスについては、以下を参照

わかりやすい高校物理の部屋コイルを流れる交流コンデンサーを流れる交流

エンジニアのためのインピーダンス測定の8つのヒント

in-circuit test(インサーキット・テスト)

電子回路基板の測定に関する翻訳に、in-circuit test(インサーキット・テスト)という言葉がよく出てくる(例えば、複雑なエレクトロニクス環境におけるインサーキット・テストの今後)。in-circuit test(インサーキット・テスト)は、ICTと略されることがある。

電子機器の内部には、電子回路基板(プリント基板、Printed Circuit Board)があり、コンデンサや抵抗、LSIなどの電子部品が実装されている。インサーキット・テストとは、電子回路基板に電子部品が実装された状態(in-circuit)で、個々の部品の端子にプローブ・ピンを接触させて、電子回路基板内部の個々の部品に信号を印加して測定することにより、部品定数(抵抗、キャパシタンス、インダクタンスの値)の間違いがないか、半田付けのオープンやショートがないか、ICのリード浮きがないか、トランジスタやICの動作不良がないか、などを検査することである。

電子回路基板に電源を供給して、実際に電子回路基板を動作させて、電子回路基板全体としての出力が仕様を満たすかどうかを検査することは、ファンクション・テストと呼ばれる。

プリント基板については、以下を参照

JPCA(一般社団法人日本電子回路工業会) > 電子回路ってなーに?

インサーキット・テストについては、以下を参照

一般社団法人 日本電気計測器工業会 > 事業・活動 > 技術解説 > 電気測定器の技術解説 > 半導体・IC測定器・ボードテスタ&試験システム > ボードテスタ

Inter-Symbol Interference(符号間干渉)

高速データ通信測定に関する翻訳に、Inter-Symbol Interference(符号間干渉)という言葉がよく出てくる(例えば、高速データ・レートでのジッタ解析のp3)。Inter-Symbol Interference(符号間干渉)は、ISIと略されることがある。また、シンボル間干渉と訳されることもある。

符号間干渉とは、隣り合う符号同士が干渉して波形が歪む現象である。デジタル・データは、符号化(特定の信号波形で「0」、「1」を表す)して送受信される。最も単純な符号化である、ある一定の期間、高い(Hi)電圧の状態を維持している状態を「1」、低い(Lo)電圧の状態を維持している状態を「0」として、デジタル・データを送受信する場合を考える。

理想的には、データが「1」から「0」や「0」から「1」に変化する時間ポイントでの波形の変化(ここでは、Hi電圧からLo電圧やLo電圧からHi電圧への遷移)は一瞬であり、データは方形波として伝送される。

しかし、高速データ伝送(高周波成分が含まれる)では、伝送線路の表皮効果(周波数が高くなると、導体の表面近くにしか電流が流れなくなり抵抗が増加する現象)や誘電損失(周波数が高くなると、伝送路を構成する誘電体の電気分極が周波数に追随できずに伝送エネルギーの一部が熱となって損失する現象)により、伝送線路がローパス・フィルタのように振る舞う。

方形波の遷移ポイントは急峻な変化をしているので、高周波成分を含んでいることになるが、データ伝送が低速の場合(すなわち、データの「1」や「0」を表すHi電圧やLo電圧の期間が長い場合)は、ローパス・フィルタによるこれらの高周波成分の減衰に起因する方形波の遷移ポイントのなまり(Hi電圧からLo電圧やLo電圧からHi電圧への遷移が緩やかになること)は、後続の符号(信号波形)に影響を与えない。

データ伝送が高速の場合(すなわち、データの「1」や「0」を表すHi電圧やLo電圧の期間が短い場合)は、方形波の遷移ポイントのなまりが後続の符号と重なり(干渉)し、後続の符号が「0」を表す波形か「1]を表す波形かの判定が困難になる。これを、符号間干渉と呼ぶ。

符号間干渉については、以下を参照

リアルタイム・ジッタ解析によるジッタ発生源の検出のp5~p6