switching loss(スイッチング損失)

スイッチング電源測定に関する翻訳で、switching loss(スイッチング損失)という言葉が出てくる(例えば、スイッチング電源の測定のp10)。

スイッチング電源は、携帯電話などの充電用ACアダプタやPCの電源などに広く使用されていて、100 Vや200 Vの商用交流電源を電子機器が利用しやすい低い直流電圧(5Vや12Vなど)に変換するものである。

スイッチング電源では、最初に100 Vや200 Vの商用交流電源をそのまま(リニア電源のようにトランスを用いて降圧せずに)ダイオードブリッジとコンデンサを用いて整流する。このままでは、直流電圧が高すぎるので、MOSFETなどのスイッチング素子を用いて、この高い電圧の直流を、商用交流電源の50 Hzや60 Hzに比べて非常に高い周波数(数十kHz~数百kHz)でオン/オフすることにより、パルス波形(交流)を生成し、再び整流用ダイオードとコンデンサで必要な電圧の直流に変換している(パルス波形のオン/オフ比(オン状態の時間的な長さとオフ状態の時間的な長さの比)を変化させることにより必要な電圧が得られる)。このように、スイッチング電源は、最初に大きなトランスを用いて交流電源を降圧しないので小型化でき、さらに、非常に高い周波数のパルス波形を生成して電圧変換するので、コンデンサやインダクタなどの部品も小型化できるという利点がある。また、リニア電源に比べて効率が非常に高い(リニア電源では、安定化のために三端子レギュレータが用いられるので、大きな発熱が伴い効率が低い)。

スイッチング損失とは、スイッチング素子を用いてパルス波形を生成するときに生じる損失のことで、大きく2つ(定常損失とターンオン/ターンオフ損失)に分けられる。理想的なスイッチでは、オン状態ではスイッチの抵抗はゼロなので損失は発生しないし、オフ状態では電流が流れないので損失は発生しない。しかし、スイッチング素子には僅かなオン抵抗(オン状態での抵抗)が存在し、これによる損失を定常損失と呼ぶ。また、理想的なスイッチでは、オンからオフ、オフからオンに瞬時に切り替わるので、オン状態とオフ状態の間で損失が発生することはないが、高い周波数で動作するスイッチング素子では、オフ状態からオン状態へ(オン状態からオフ状態へ)遷移するのに相対的に長い時間がかかるので(相対的に長い遷移期間で、電圧と電流が有限の値になるので)、電力損失が大きくなる。これをターンオン/ターンオフ損失と呼ぶ。

スイッチング電源については、以下を参照。

TDKのホームページ > Tech Mag > パワーエレクトロニクス・ワールド > 第2回 電源革命をもたらしたスイッチング電源

スイッチング損失については、以下を参照。

スイッチング損失とは

envelope tracking(エンベロープ・トラッキング)

無線通信測定に関する翻訳で、envelope tracking(エンベロープ・トラッキング)という言葉がよく出てくる(例えば、平均パワー/エンベロープ・トラッキング・デザインで使用できるソリューションと測定ツール)。

携帯電話やスマートフォンなどのモバイル無線機器やその基地局には、電波を送信するためのパワーアンプが内蔵されていて、電力消費の大きな部分を占めている。モバイル無線機器のバッテリー駆動時間の増加やその基地局の電力消費の削減のために、パワーアンプの高効率化(省電力化)は常に大きな課題であり続けている。このようなパワーアンプの高効率化の手法の1つとして、エンベロープ・トラッキング方式というものがある。

近年、モバイル無線機器ではOFDMなどの複雑な変調方式が採用され、パワーアンプへの入力信号のピーク電力と平均電力との比(ピーク対アベレージ電力比)が大きくなっている。このような変調信号を(規格を満たすように)低歪みで増幅して送信するには、パワーアンプに一定の大きなバイアス電圧をかけておく必要がある。言い換えると、ピーク電力時の入力信号に対して、歪みが大きくならないように圧縮領域に入るギリギリ手前で動作するようにバイアス電圧をかけるおく必要がある。これは、平均電力時には過剰なバイアス電圧となるので、パワーアンプの効率の低下につながる。

エンベロープ・トラッキング方式は、パワーアンプへの入力変調信号のエンベロープ(包絡線)を検出(トラッキング)して、それに応じて瞬時に(歪みが生じないレベルに)バイアス電圧を変化させることにより、パワーアンプの消費電力を低減する技術である。

エンベロープ・トラッキングについては、以下を参照。

住友電工のホームページ > 技術開発 > 技術論文集 SEIテクニカルレビュー > バックナンバー > もっと見る > 2010年1月号 No.176 > 情報通信 > 携帯電話基地局用高効率増幅器の開発

spread spectrum clock(スペクトラム拡散クロック)

ビットエラー測定に関する翻訳に、spread spectrum clock(スペクトラム拡散クロック)という言葉が出てくる(例えば、Keysight J-BERT M8020A 高性能BERTのp4)。

近年のデジタル機器(PCや携帯電話など)の高速化、高密度化に伴い、機器のEMIノイズは増加し続けている。デジタル機器の動作にはクロック信号が必要であり、その基本波と高調波がノイズの主な原因である。理想的な方形波のクロックを、スペクトラム・アナライザなどで周波数領域で見ると(方形波をフーリエ変換すると)、クロック周波数(基本波周波数)、3×クロック周波数(3次高調波周波数)、5×クロック周波数(5次高調波周波数)、...の位置にスペクトラムのピークがあり、大きなノイズの原因となる。

CISPR(国際無線障害特別委員会)などのEMI規格に適合させるために、上記のようなクロック信号のピークを低減させる技術がスペクトラム拡散クロックである。これは、クロック周波数をわずかに変動させる(周波数変調を行なう)ことにより、周波数領域のピーク信号のエネルギーをその回りに分散(拡散)させてピーク振幅を低減する方法である。

身の回りのものでは、PCのBIOS設定で、スペクトラム拡散クロックのオン/オフができるものがあったが、最近では設定項目がなく常にオンになっている。

スペクトラム拡散クロックについては、以下を参照

周波数拡散クロックIC編

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