floating measurement(フローティング測定)

オシロスコープ測定に関する翻訳で、floating measurement(フローティング測定)という言葉がよく出てくる(例えば、オシロスコープ用プローブおよびアクセサリのp3)。

フローティング測定とは、グランドに接続されていない(グランド電位にない)任意の2つのポイント間の電圧差を測定することである。

標準的なAC電源で動作するオシロスコープのシャーシ・グランドは、AC電源ゴードのアース線を経由してアース・グランドに接続されている。また、オシロスコープのプローブにもグランド・リードがあり、通常は、それを被測定回路のグランド(このグランドもAC電源ゴードのアース線経由でアース・グランドに接続されている)に接続した後、任意のテスト・ポイントにプローブの先端を当てて、そのポイントの(グランドに対する)電圧を測定する。このようにすることにより、共通で安全なグランド電位を基準にした測定ができる。

しかし、AC電源で動作するオシロスコープでフローティング測定を行うと(すなわち、プローブのグランド・リードを被測定回路のグランド電位にないポイント(グランドから浮いたポイント、フローティング・ポイント)に接続して測定を行うと)、プローブのグランド・リード、オシロスコープのシャーシ・グランド、アース・グランドを経由して、被測定回路内のグランド電位にないポイントが、被測定回路のグランドとつながってしまう(短絡してしまう)ので、グランド・リードが焼き切れたり、被測定回路が損傷する。

これを避けるために、オシロスコープでフローティング測定を行う場合は、差動プローブが使用される。

フローティング測定については、以下を参照。

より良いオシロスコープ・プロービングのための8つのヒントのp8の「ヒント5 差動プローブを使った安全なフローティング測定の実行」

プロービングで失敗しないためのオシロスコープ応用講座第6回 注意しないと命にかかわるぞ!! – 高電圧プローブ

Fabry-Perot laser source(ファブリペロー・レーザ光源)

光測定に関する翻訳に、Fabry-Perot laser source(ファブリペロー・レーザ光源)という言葉がよく出てくる。

laser(レーザ)は、Light Amplification by Stimulated Emission of Radiationの略で、直訳すると、光放射(Radiation)の誘導放出(Stimulated Emission)による光の増幅(Light Amplification)である。

レーザ光の源は、物質内の電子が持っているエネルギーである。すべての物質は原子から構成されている。原子の中心には原子核があり、量子力学的に安定な状態の内の最低エネルギー準位の軌道(基底状態と呼ばれる)を電子が回っている。

基底状態にある電子に、電磁波や熱、電子などの粒子の衝突によりエネルギーを与えると、最低エネルギー準位より高い量子力学的に安定なエネルギー準位(励起状態と呼ばれる)に励起される。この過程は、電子が他のエネルギー源からエネルギーを吸収するので(誘導)吸収と呼ばれる。

励起状態の原子は不安定なので、すぐに光としてエネルギーを放出して基底状態に戻る(この過程は、自然放出と呼ばれる)。自然放出による光が、他の励起状態にある原子に入射すると、励起状態の原子が刺激されて光を放出して基底状態に戻る(この過程は、誘導放出と呼ばれる)。これを繰り返すことにより、入射光と同じ波長と位相の光が放出されて光が増幅される。誘導放出による光の増幅が行われるためには、レーザ媒質(エネルギーを吸収する元素が含まれる物質)に絶えずエネルギーを供給して、励起状態の原子の数が基底状態の原子の数よりも多くなっている状態(反転分布状態)にしておく必要がある。

レーザ媒質(半導体レーザでは活性層とも呼ばれる)を、全反射ミラーと部分反射ミラーで挟んで共振器(最初に考案したフランス人のFabryとPerotに因んで、ファブリペロー共振器と呼ばれる)を形成することにより、特定の波長の光がその間を往復して、さらに光が増幅され、部分反射ミラーからレーザ光が出力される。これが、ファブリペロー・レーザ光源の原理である。

レーザについては、以下を参照。

光と光の記録 — レーザ編

石くれと砂粒の世界 > ブログテーマの半導体 >
半導体レーザ(2007/05/05 21:09)半導体レーザの基本構造(2007/07/15 18:56)

coherence(コヒーレンス)

信号解析に関する翻訳に、coherence(コヒーレンス)という言葉がよく出てくる(例えば、89601B/BN-200 基本ベクトル信号解析 89601B/BN-300 ハードウェア・インタフェース 89600 VSAソフトウェアのp11)

コヒーレンスは、「可干渉性」と訳されることがあり、計測関係では、位相が揃った波という意味で用いられることが多い。信号解析では、2つの信号x(t)とy(t)がどれだけ干渉性があるか(位相が揃っているか、あるいは相関しているか)を表わす指標として用いられれる。

この相関の強さを表わす指標としてクロス・パワー・スペクトラムがあるが、これは複素量であり、比較するのに不便であるので、コヒーレンスcoh(ω)という量が定義されている。

コヒーレンスcoh(ω)は、2つの信号x(t)とy(t)のクロス・パワー・スペクトラムSxy(ω)(x(t)とy(t)の相互相関関数をフーリエ変換したもの)の大きさ|Sxy(ω)|を、x(t)のパワー・スペクトラムSxx(ω)(x(t)の自己相関関数をフーリエ変換したもの)とy(t)のパワー・スペクトラムSyy(ω)(y(t)の自己相関関数をフーリエ変換したもの)で正規化(ノーマライズ)したもので、以下のように表される。

coh(ω)=|Sxy(ω)|/(√(Sxx(ω))×√(Syy(ω)))

コヒーレンスのとり得る範囲は、0≦coh(ω)≦1であり、1に近いほど2つの信号x(t)とy(t)の同調度が高い(位相が揃った)波形であると言える。

簡単に言えば、コヒーレンスcoh(ω)は、2つの信号x(t)とy(t)の各フーリエ周波数成分ωの相互相関関数に相当するものであり、2つのベクトル(X=(X1,X2,…,Xn)、Y=(Y1,Y2,…,Yn))の内積(X・Y)の定義

cosθ=X・Y/|X||Y|、|X|はベクトルXの大きさ、θはベクトルXとYのなす角

を拡張したものと考えればよい(cosθの値が1に近いほど、2つのベクトルXとYが似ている)。

コヒーレンスについては、以下を参照。

相関とスペクトル解析