Memory Effects(メモリ効果)

無線通信のパワーアンプ測定/シミュレーションに関する翻訳で、Memory Effects(メモリ効果)という言葉がよく出てくる(例えば、最新の4G/無線LAN通信システム用ソリューション)。

携帯電話やスマートフォンなどのモバイル無線機器の基地局では、電波を遠くに送信するためにパワーアンプで信号を増幅している。このとき、高効率化(省電力化)のために、パワーアンプを圧縮領域(飽和領域)に近い動作点で使用する。圧縮領域(飽和領域)に近い動作点では、パワーアンプへの入力と増幅後の出力が比例せず、非線形歪み(相互変調歪み)が生じる。非線形歪みが生じると、隣接チャネルへ不要な歪み成分が漏洩し混信の原因になる。このような非線形歪みを補償する手法として、デジタル・プリディストーションがある。デジタル・プリディストーションでは、通常、パワーアンプに入力される信号の瞬時電力に基づいて、歪み補償テーブルを参照してパワーアンプの非線形特性の逆特性をパワーアンプ入力の直前の信号に適用して補償する。

しかし、パワーアンプには、このような瞬時電力に基づいた歪みだけでなく、メモリ効果と呼ばれる歪みが存在する。これは、アンプの出力が現在の入力信号(瞬時電力)だけでなく、過去の入力信号の履歴に依存することにより生じる歪みである。このような歪みは、歪み補償テーブルを使用するデジタル・プリディストーションでは補償できない(現在値より前の過去の履歴をすべて歪み補償テーブルに記録できないので)。

メモリ効果の原因としては、トランジスタの熱応答、キャリアトラップ、バイアス回路やAGCループに使用されるエネルギー蓄積デバイス(コンデンサやインダクタ)に起因した比較的長い時定数(入力の変化に対する、出力の応答時間)によるものと、出力整合回路やフィルタに使用されるエネルギー蓄積デバイスの比較的短い時定数によるものなどがある。

メモリ効果については、以下を参照。

Analysis and Simulation of Memory Effects on Microwave Power Amplifier(英語pdf)

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