reflection tracking(反射トラッキング)、transmission tracking(伝送トラッキング)

ネットワーク・アナライザ測定に関する翻訳で、reflection tracking(反射トラッキング)、transmission tracking(伝送トラッキング)という言葉が出てくる(例えば、ベクトル・ネットワーク・アナライザ用電子校正(ECal)モジュールのp6)。

測定システムの誤差は、

系統(システマティック)誤差:測定器やセットアップの不完全性に起因したもので、時間経過に対して一定で予測可能な誤差であり、校正により定量化して測定値から除去可能な誤差

偶然(ランダム)誤差:時間経過に対してランダムに変動する予測不可能な誤差であり、校正により除去できない

ドリフト誤差:校正後に、温度などにより測定システムの動作が変化して生じる誤差で、再校正を行うことにより除去できる

に分類できる。

ネットワーク・アナライザ測定の系統誤差には、

信号の漏れに関連した、方向性とクロストーク

信号の反射に関連した、信号源インピーダンス不整合と負荷インピーダンス不整合

基準経路と測定経路の周波数応答の違いである、反射トラッキングと伝送トラッキング

がある。

ネットワーク・アナライザ測定では、被測定デバイス(DUT)に信号(入射信号)を入力して、DUTにより反射された信号(反射信号)とDUTから出力された信号(伝送信号)を測定する。入射信号は、パワー・スプリッタで2つに分割されて、一方はレシーバのR(基準)入力端子に入力され、他方はDUTに入力される。DUTからの反射信号は、DUTの直前のカプラなどで分離されてレシーバのA入力端子に入力される。DUTを通過した伝送信号は、DUTの直後のカプラなどで分離されてレシーバのB入力端子に入力される。レシーバのR(基準)入力端子に入力された信号の振幅(位相)とレシーバのA入力端子に入力された信号の振幅(位相)を比較する(比をとる)ことにより、反射係数(SパラメータのS11)が求められる。同様に、レシーバのR(基準)入力端子に入力された信号の振幅(位相)とレシーバのB入力端子に入力された信号の振幅(位相)を比較する(比をとる)ことにより、伝送係数(SパラメータのS21)が求められる。このときの、基準信号(入射信号)がレシーバに入力されるまでの経路と、反射信号や伝送信号がレシーバに入力されるまでの経路は同一ではない(トラッキングしない)ので、それぞれの経路の周波数応答特性に差が生じ、測定誤差の要因になる。この基準信号経路と反射、伝送信号経路との周波数応答の差が、反射トラッキング、伝送トラッキングである。

反射トラッキング、伝送トラッキングについては、以下を参照

計測の基礎セミナ RF/マイクロ波コース ネットワーク・アナライザの基礎のp69

PAM4

100Gイーサネットなどの広帯域通信測定に関する翻訳で、PAM4という言葉が出てくる(例えば、広帯域AWGのマルチレベル・シグナリング手法によるデータ・スループットの最適化)。

PAMは、Pulse Amplitude Modulation(パルス振幅変調)の略である。「0」と「1」から成るビット列を、そのまま2つの電圧レベル(「0」は「ロー電圧」、「1」は「ハイ電圧」に対応させる)のパルス信号として変調して伝送するNRZ信号は、2値パルス振幅変調(PAM2)である。「0」と「1」から成るビット列を、4つの電圧レベル(「00」を「L1電圧」、「01」を「L2電圧」、「10」を[L3電圧」、「11]を「L4電圧」に対応させる)のパルス信号として変調して伝送する方式が、4値パルス振幅変調(PAM4)である。「PAM-4」と略記されることもある。

最近の動画配信やクラウドストレージなどの普及により、データセンターのIPトラフィック量が増大し続け、それを処理するために、スイッチ・ファブリックのバックプレーン通信速度の増大も余儀なくされている。このような高速バックプレーン通信のための規格は、IEEE P802.3bjの100 Gbps Backplane and Copper Cableというタスクフォースで議論されていて、従来のNRZ(PAM2)を用いる方式とPAM4を用いる方式の両方が検討されている。NRZを用いる方式では、伝送速度が速くなると伝送帯域幅が広くなり、伝送損失が大きくなるので、高品質の伝送媒体(物理層)を使用する必要があるという欠点があるが、送受信機器に既存のアーキテクチャを使用できるという利点がある。その反対に、PAM4を用いる方式では、多値変調により伝送速度が速くなってもそれほど伝送帯域幅が広くならないので、既存の伝送媒体(物理層)を使用できるという利点があるが、新しいアーキテクチャの送受信機器が必要になるという欠点がある。

100 Gbps Backplane and Copper Cableについては、以下を参照

IEEE P802.3bj 100 Gb/s Backplane and Copper Cable Task Forceのホームページ > Public AreaのTask Force Meeting Materials(英語ページ)

permeability(透磁率)

磁性体1
材料測定に関する翻訳に、permeability(透磁率)という言葉がよく出てくる(例えば、LCRメータおよびインピーダンス・アナライザを用いた誘電率/透磁率の測定ソリューション)。

磁性体とは、ミクロな磁石(磁気双極子モーメント)の集合体と考えられる。磁気双極子モーメントの源は、磁性体を構成する原子内の電子の軌道運動や電子や原子核そのものの自転に起因した微小円形電流である。誘電体に電界を印加したときと同様に、磁性体に磁界を印加すると、磁性体内のミクロな磁石が整列し、磁性体が磁化される。真空中での磁界の強さと磁性体内での磁界の強さとの比で比透磁率が定義される。しかし、誘電体に電界を印加した場合とは異なり、比透磁率は1より大きいとは限らない。強磁性体の鉄では500~5000、常磁性体のアルミニウムでは1.0002、反磁性体の銅では0.9999である。常磁性体、反磁性体は、比透磁率を1として扱ってよい。また、外部磁界をゼロにしても、磁性体内部の磁化の強さはゼロに戻らない(残留磁化)。これは、鉄を磁石に付けて、その後離すと、鉄が磁石になる(磁化される)現象である。

磁石、磁性、磁界(磁場)、磁束密度についての数式を使わない説明については、以下を参照

私編 雑科学ノート > 磁石の話

透磁率については、以下を参照

わかりやすい高校物理の部屋 > 第6編 電気と磁気 > 第3章 電流と磁場 > 第1節 磁場 > 1 磁場、第3節 電流が磁場から受ける力 > 1 電流が磁場から受ける力、第4節 磁束密度 > 1 磁束密度