HSPA+

無線通信計測関係の翻訳に、HSPA+という言葉がよく出てくる(例えば、UXMワイヤレス・テスト・セットのp5)。

移動通信システムは、第1世代(アナログ方式の自動車/携帯電話)、第2世代(PDCやGSM方式のデジタル携帯電話)、第3世代(W-CDMAやCDMA2000方式の携帯電話)、第3.9世代(LTE)、第4世代(LTE-Advanced)と進化してきている。

第3世代のW-CDMAでは、データ変調方式としてBPSKまたはQPSKが用いられ、当初の最大パケット通信速度は384 kbps~2 Mbps(静止状態)であった。このデータ転送速度を高速化する技術として、HSPA(High Speed Packet Access)が開発された。HSPAでは、電波状態が良好な場合は、より高速なデータ変調方式(16QAM)や符号化方式(誤り訂正能力の低い符号化方式)が用いられ、最大下りデータ転送速度が14.4 Mbpsになった。HSPAは、3GPPの「Release 5」で定義されていて、HSPA技術を搭載した携帯電話は第3.5世代(3.5G)と呼ばれることがある。

HSPAをさらに高速化した技術がHSPA+である。HSPA+では、さらに高速なデータ変調方式(64QAM)、MIMO、デュアルセル(搬送波を2つ使用)を用いて、最大下りデータ転送速度が84.4 Mbpsになる。HSPA+は、3GPPの「Release 7」、「Release 8」、「Release 9」で定義されていて、HSPA+技術を搭載した携帯電話は「3.5Gと3.9Gの間」と呼ばれることがある。

HSPA+については、以下を参照。

3Gの発展はまだまだ続く──HSPA+、DO Advancedを提供するクアルコム

HSPA+

residual FM(残留FM)

信号解析に関する翻訳で、residual FM(残留FM)という言葉が出てくる(例えば、PXA Xシリーズ シグナル・アナライザ、マルチタッチ N9030Bのp4)。

residual FM(残留FM)は、無線機やスペクトラム・アナライザの局部発振器の位相雑音の大きさを表わす指標の1つである。位相雑音の大きさを表わす指標には、SSB位相雑音、残留FM、残留φMがあり、いずれも周波数領域で定義される指標である

理想的な局部発振器の出力は、理想的な正弦波として、

V(t)=Acosωt、ω=2πf

と表される。しかし、現実には、熱雑音などのランダム雑音により、振幅Aと位相ωtがランダムに変動している。これらの変動分をΔA(t)、Δφ(t)とすると、現実の局部発振器の出力は、

V(t)=(A+ΔA(t))cos(ωt+Δφ(t))

と書ける(ΔA(t)は振幅雑音、Δφ(t)は位相雑音)。

しかし、測定が容易な物理量は、発振器の出力(基本波)近傍での、位相変動に起因する雑音パワー(雑音側波帯)なので、間接的な位相雑音の定義として、基本波からのオフセット周波数における、1Hz帯域幅当たりの片側(Single Side Band)の雑音パワーと発振器の全パワーとの比をとり、SSB位相雑音[dBc/Hz]で表わすのが一般的である。このSSB位相雑音を、基本波からのオフセット周波数fの関数としてL(f)と書くと、残留φM(ΔΦ(f))のRMS値の2乗(Δφ_rms^2)は、L(f)を、ベースバンド信号(ここではランダム雑音)の下限周波数と上限周波数に対応するオフセット周波数の間で積分したものとして、

Δφ_rms^2=2∫L(f)df (1)

で定義される。

また、瞬時周波数f(t)と瞬時位相(角)φ(t)の間には、ω(t)=2πf(t)=dφ(t)/dtの関係があるので、周波数の微小変動Δf(t)と位相の微小変動Δφ(t)の間に、

Δf(t)=(1/2π)(dΔφ(t)/dt)

の関係が成り立つ。この式の両辺をフーリエ変換すると、フーリエ変換の性質(dΔφ(t)/dt⇔iωΔφ(ω))から、

Δf(f)=(2πfi/2π)Δφ(f)

なので、残留FM(Δf(f))のRMS値の2乗(Δf_rms^2)は、

Δf_rms^2=f^2Δφ_rms^2=2∫f^2L(f)df、(1)式から

となり、SSB位相雑音L(f)に基づいて定義できる。

残留FMについては以下を参照。

Design Principles and Test Methods for Low Phase Noise RF and Microwave Sources(英語PDF)のp2からp7

near-end crosstalk(近端クロストーク)、far-end crosstalk(遠端クロストーク)

高速デジタル信号測定に関する翻訳で、near-end crosstalk(近端クロストーク)、far-end crosstalk(遠端クロストーク)という言葉がよく出てくる(例えば、リアルタイムオシロスコープ用クロストーク解析アプリケーションのp4)。

crosstalk(クロストーク)は漏話と呼ばれるように、昔のアナログ電話回線で他人の電話が漏れて聞こえる現象であるが、高速デジタル回路では、隣接する信号線間で、片方の伝送路のデジタル信号が(0から1や1から0に)変化したときに、信号線間の容量性結合や誘導性結合により、その一部がもう一方の伝送路に漏れる現象である。

隣接する2つの信号線に流れている信号の方向が反対の場合は、一方の信号線のドライバの位置にもう一方の信号線のレシーバが存在するので、クロストークを与える側(アグレッサと呼ばれる)のドライバから見ると、そのドライバの近くのレシーバが影響を受ける側(ビクティムと呼ばれる)となるので、近端クロストークと呼ばれる。

隣接する2つの信号線に流れている信号の方向が同じ場合は、一方の信号線のドライバの位置にもう一方の信号線のドライバが存在し、それらと反対側にそれぞれのレシーバが存在するので、クロストークを与える側のドライバから見ると、ドライバの反対側に存在する遠くのレシーバが影響を受ける側となるので、遠端クロストークと呼ばれる。

最近の高速デジタル回路の高速化、高密度化に伴い、クロストーク解析が極めて重要になっている。

近端クロストーク、遠端クロストークについては、以下を参照

株式会社 エルセナのホームページ > 技術情報 > スペシャリストコラム シグナル・インテグリティを解説 > 第8回 クロストーク入門