Allan variance(アラン分散)

周波数安定度測定に関する翻訳で、Allan variance(アラン分散)という言葉がよく出てくる(例えば、周波数カウンタを使用した搬送波信号近傍の位相雑音の測定のp2)。

周波数安定度(周波数変動)の測定手法には、周波数領域で短期周波数安定度を位相雑音(搬送波信号からの特定の周波数オフセットにおける、1 Hz帯域幅当たりの単側波帯パワー)として測定する手法と、時間領域でアラン分散という統計量(周波数のばらつき(変動)の指標)を求めて比較的長い時間の周波数安定度を表す手法がある。Allan(アラン)は、この手法を開発した人の名前である。

時間領域の周波数測定では、周波数カウンタが用いられ、瞬時周波数y(t)ではなく、ゲート時間τで平均化された周波数である

y_k_averaged=(1/τ)∫y(t)dt、積分区間はt_k~t_k+τ

が測定される。

τ秒平均周波数をT秒間隔でN回測定して得られるy_k_averaged(k=1~N)の分散(不偏分散)s^2は、

s^2=(1/(N-1))Σ(y_n_averaged - (1/N)Σy_k_averaged)、最初のΣはn=1~N、2番目のΣはk=1~N

である。この式では、各サンプルy_n_averagedと、測定された全サンプルy_k_averaged(k=1~N)の平均値(1/N)Σy_k_averagedとの差の和を計算するので、測定サンプルに長期的なドリフト(直線的な位相のドリフト、一定の周波数オフセット)が含まれている場合は、発散して値が決まらない。

この問題を解決するために、Allanによって、周波数安定度の時間領域の指標として、以下の式で表される分散が定義された。

σ^2_y(N、T、τ)=<(1/(N-1))Σ(y_n_averaged - (1/N)Σy_k_averaged)>、<x>はxのアンサンブル(標本)平均

この式では、有限の測定時間NTでのN個のサンプルの分散(N標本分散)の期待値(アンサンブル平均)を計算することにより、長期的なドリフトによる発散を避けている。特に、N=2、T=τの場合がアラン分散(2サンプル分散、二標本分散とも呼ばれる)であり、

σ^2_y(τ)=<(y_i+1_averaged - y_i_averaged)^2/2>

となる。アラン分散は、連続する2つの測定(サンプル)値の差の2乗和の計算なので、長期的なドリフトが含まれていても発散しない。

アラン分散については、以下を参照

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時間・周波数標準特集 > 2-2 時間・周波数標準の基本的尺度

時空標準特集 > 2-1 時間周波数標準の計測と評価の基礎

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