アンテナ・アレイやMIMO測定に関する翻訳で、phase-coherent(位相コヒーレント)という言葉がよく出てくる(例えば、M9703A AXIe高速デジタイザ/広帯域デジタル・レシーバのp2)。
coherentという用語は、一般に、「可干渉性の」や「 理路整然とした」と訳されるが、計測関係では、phase-coherent(位相コヒーレント)は「位相が揃った波形」という意味である。位相が揃った(それぞれの波の山と山、谷と谷の時間的、空間的な位置関係が一定の)複数の波が重なり合うと、山と山の部分は強め合い、山と谷の部分は打ち消し合い、干渉する(例えば、このようなきれいな干渉縞ができる)。位相がランダムな(それぞれの波の山と山、谷と谷の位置関係がランダムな)複数の波の場合(incoherent(インコヒーレント)と呼ばれる)は、干渉しない。
波の干渉性を利用して、アンテナ・アレイ(複数のアンテナ素子を整然と配列したもの)の指向性を調整できる。すなわち、各素子への給電振幅と給電位相を変化させることにより、アンテナ・アレイ全体としての指向性をある角度で最大になるようにできる(上の水面波干渉実験では、波源の数を増やし、それぞれの波源に位相差をつけることにより、波が強め合う方向を任意の角度にできる)。このようなアンテナ・アレイは、アンテナ自体を機械的に回転させなくても、給電振幅と給電位相を電気的に制御するだけで高速に任意の方向にレーダ波を照射したり、任意の方向から来たレーダ波を受信できるフェーズド・アレイ・レーダにも使用されている。
このようなアンテナ・アレイの評価に位相コヒーレントな信号が必要になる。
アンテナ・アレイについては、以下を参照。