MAC、RLC、RRC、NAS、PDCP

LTEに関する測定の翻訳に、MAC、RLC、RRC、NAS、PDCPという言葉がよく出てくる(例えば、UXM ワイヤレステストセットのp9)。

LTEネットワークは、コア・ネットワーク(EPC(Evolved Packet Core))と無線ネットワークに分けられる。無線ネットワークは、eNodeBのみで構成され、各eNodeBはLTEを収容するコア・ネットワーク(EPC)とS1リンクで接続されている。また、eNodeB同士はX2リンクで接続されていて、S1リンクを介さないX2ハンドオーバーが可能で、UE(携帯端末)が移動中でもスムーズなハンドオーバーができる。

eNodeBとUE間の無線プロトコルには、ユーザデータを扱うU-Planeプロトコル階層と制御メッセージを扱うC-Planeプロトコル階層がある。U-Planeプロトコル階層には、レイヤ1であるPHY(変調方式、符号化方式,アンテナ多重化などの処理を行なう)と、レイヤ2であるMAC(Medium Access Control:無線リソース割り当て、データマッピング、再送制御などを行なう)、RLC(Radio Link Control:再送制御,重複検出,順序整列を行なう)、PDCP(Packet Data Convergence Protocol:IPパケットヘッダ圧縮、解凍、暗号化を行なう) で構成されている。C-Planeプロトコル階層は、U-Planeプロトコル階層と同様のプロトコルと、レイヤ3であるRRC(Radio Resource Control:システム報知情報配信、緊急地震速報配信、ページング配信、NASメッセージ配信、ハンドオーバー制御などを行なう)、NAS(Non-Access Stratum:認証を行なう)で構成されている。

LTEについては、以下を参照。

次世代の無線技術、LTEの仕組みが分かる インデックス

MAC、RLC、RRC、NAS、PDCPについては、以下を参照。

高速・大容量・低遅延を実現するLTEの無線方式概要のp17~p19

fading(フェージング)

移動体無線通信測定に関する翻訳に、fading(フェージング)という言葉がよく出てくる(例えば、MIMO受信機テスト 実環境でのMIMO受信機の正確なテストのp2)。

携帯電話などの移動体無線は、複数の基地局でサービスエリアをカバーするセルラー方式が用いられている。特に都市部では、基地局と移動局との間の見通し線路が確保されず、周囲の多数の建物、看板、樹木などにより反射、回折、散乱されて、多数の経路を通った前後左右からの電波を移動局が受信することになる。この結果、電波が複雑に重なり合って定在波が生じ(干渉し)、電波の受信強度が激しく変動する。このような現象を(マルチパス)フェージングと呼ぶ。

強力な見通し波が存在しない場合は、上記のように多数のランダムな経路を通って前後左右からランダムに多数の電波が移動局に到来する。これらの個々の電波(素波)の振幅を同程度とすると、受信信号の同相成分と直交成分の大きさの分布は、中心極限定理から素波の数が多くなると、互いに独立な正規分布(ガウス分布)に近づく。この同相成分と直交成分で表した受信信号は、極座標変換により振幅と位相で表わすことができ、同相成分と直交成分が正規分布の場合には、受信信号の振幅はレイリー(Rayleigh)分布、位相は一様分布となる。これが、レイリー・フェージングと呼ばれるものである。

強力な見通し波も存在する場合は、同相成分と直交成分で表した見通し波の位置を中心にして(強力な見通し波の分だけずれた位置に)、多数のランダムな素波の同相成分と直交成分が正規分布している。これを振幅に変換するとライス(Rician)分布(仲上-ライス分布とも呼ばれる)となり、ライス・フェージングと呼ばれている。

フェージングについては、以下を参照。

電波伝播の基礎理論

ワイヤレスデザインのホームページ > 無線トリビア > のNo.7 : 無ガウス分布・レイリー分布・ライス分布の関係

Memory Effects(メモリ効果)

無線通信のパワーアンプ測定/シミュレーションに関する翻訳で、Memory Effects(メモリ効果)という言葉がよく出てくる(例えば、最新の4G/無線LAN通信システム用ソリューション)。

携帯電話やスマートフォンなどのモバイル無線機器の基地局では、電波を遠くに送信するためにパワーアンプで信号を増幅している。このとき、高効率化(省電力化)のために、パワーアンプを圧縮領域(飽和領域)に近い動作点で使用する。圧縮領域(飽和領域)に近い動作点では、パワーアンプへの入力と増幅後の出力が比例せず、非線形歪み(相互変調歪み)が生じる。非線形歪みが生じると、隣接チャネルへ不要な歪み成分が漏洩し混信の原因になる。このような非線形歪みを補償する手法として、デジタル・プリディストーションがある。デジタル・プリディストーションでは、通常、パワーアンプに入力される信号の瞬時電力に基づいて、歪み補償テーブルを参照してパワーアンプの非線形特性の逆特性をパワーアンプ入力の直前の信号に適用して補償する。

しかし、パワーアンプには、このような瞬時電力に基づいた歪みだけでなく、メモリ効果と呼ばれる歪みが存在する。これは、アンプの出力が現在の入力信号(瞬時電力)だけでなく、過去の入力信号の履歴に依存することにより生じる歪みである。このような歪みは、歪み補償テーブルを使用するデジタル・プリディストーションでは補償できない(現在値より前の過去の履歴をすべて歪み補償テーブルに記録できないので)。

メモリ効果の原因としては、トランジスタの熱応答、キャリアトラップ、バイアス回路やAGCループに使用されるエネルギー蓄積デバイス(コンデンサやインダクタ)に起因した比較的長い時定数(入力の変化に対する、出力の応答時間)によるものと、出力整合回路やフィルタに使用されるエネルギー蓄積デバイスの比較的短い時定数によるものなどがある。

メモリ効果については、以下を参照。

Analysis and Simulation of Memory Effects on Microwave Power Amplifier(英語pdf)

switching loss(スイッチング損失)

スイッチング電源測定に関する翻訳で、switching loss(スイッチング損失)という言葉が出てくる(例えば、スイッチング電源の測定のp10)。

スイッチング電源は、携帯電話などの充電用ACアダプタやPCの電源などに広く使用されていて、100 Vや200 Vの商用交流電源を電子機器が利用しやすい低い直流電圧(5Vや12Vなど)に変換するものである。

スイッチング電源では、最初に100 Vや200 Vの商用交流電源をそのまま(リニア電源のようにトランスを用いて降圧せずに)ダイオードブリッジとコンデンサを用いて整流する。このままでは、直流電圧が高すぎるので、MOSFETなどのスイッチング素子を用いて、この高い電圧の直流を、商用交流電源の50 Hzや60 Hzに比べて非常に高い周波数(数十kHz~数百kHz)でオン/オフすることにより、パルス波形(交流)を生成し、再び整流用ダイオードとコンデンサで必要な電圧の直流に変換している(パルス波形のオン/オフ比(オン状態の時間的な長さとオフ状態の時間的な長さの比)を変化させることにより必要な電圧が得られる)。このように、スイッチング電源は、最初に大きなトランスを用いて交流電源を降圧しないので小型化でき、さらに、非常に高い周波数のパルス波形を生成して電圧変換するので、コンデンサやインダクタなどの部品も小型化できるという利点がある。また、リニア電源に比べて効率が非常に高い(リニア電源では、安定化のために三端子レギュレータが用いられるので、大きな発熱が伴い効率が低い)。

スイッチング損失とは、スイッチング素子を用いてパルス波形を生成するときに生じる損失のことで、大きく2つ(定常損失とターンオン/ターンオフ損失)に分けられる。理想的なスイッチでは、オン状態ではスイッチの抵抗はゼロなので損失は発生しないし、オフ状態では電流が流れないので損失は発生しない。しかし、スイッチング素子には僅かなオン抵抗(オン状態での抵抗)が存在し、これによる損失を定常損失と呼ぶ。また、理想的なスイッチでは、オンからオフ、オフからオンに瞬時に切り替わるので、オン状態とオフ状態の間で損失が発生することはないが、高い周波数で動作するスイッチング素子では、オフ状態からオン状態へ(オン状態からオフ状態へ)遷移するのに相対的に長い時間がかかるので(相対的に長い遷移期間で、電圧と電流が有限の値になるので)、電力損失が大きくなる。これをターンオン/ターンオフ損失と呼ぶ。

スイッチング電源については、以下を参照。

TDKのホームページ > Tech Mag > パワーエレクトロニクス・ワールド > 第2回 電源革命をもたらしたスイッチング電源

スイッチング損失については、以下を参照。

スイッチング損失とは