I/Q gain imbalance(I/Q利得不平衡)とquadrature skew(直交スキュー)

デジタル変調測定に関する翻訳に、I/Q gain imbalance(I/Q利得不平衡)とquadrature skew(直交スキュー)という言葉がよく出てくる(例えば、89601X VXA ベクトル・シグナル・アナライザ 測定アプリケーションのp3)。

デジタル無線通信では、デジタル信号を搬送波に乗せて伝送するために、QPSKや16QAMなどのデジタル変調が行われる。このようなデジタル変調では、直交変調器(IQ変調器)を用いて、2つのパラレル・デジタル・データの一方に、搬送波と同位相(In Phase)のLO信号をミキサで乗算してI信号を生成し、もう一方に、搬送波と90°異なる位相(Quadrature Phase)のLO信号をミキサで乗算してQ信号を生成する。

このとき、2つの乗算過程でI/Q信号を生成する際の利得に差(これをI/Q利得不平衡と呼ぶ)があると、コンスタレーション図上で、シンボル・ポイントが理想的な円状ではなくI軸またはQ軸の方向に扁平した楕円状になり、復調時にエラーの原因となる。また、2つの乗算過程でI/Q信号を生成する際に使用される2つのLO信号の位相差が90°からずれている(これを、直交スキューまたはI/Q位相不平衡と呼ぶ)場合は、コンスタレーション図上のシンボル・ポイントの理想的な位置が、I軸またはQ軸に対して傾いた位置になり、復調時にエラーの原因となる。

I/Q gain imbalance(I/Q利得不平衡)とquadrature skew(直交スキュー)については、以下を参照

Understand image, carrier suppression measurements basics(英語サイト)

IQ imbalance and compensation(英語サイト)

dielectric(誘電体)

材料測定に関する翻訳に、dielectric(誘電体)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent 基板の誘電率測定用SPDR誘電体共振器)。

物質を電気の流れやすさから分類すると、導体、半導体、絶縁体(誘電体)になる。通常、これらはバンド理論で説明されるが、定性的には、金属などの導体は原子の最外殻の電子が原子同士の結合にはほどんど関与せず非常に低いエネルギーで移動できるので、電気を通しやすい。一方、絶縁体は、すべての電子が原子間の結合に使われ束縛されているので、電流の担い手である電子が移動できない。したがって、導体にDC電圧(電界)を印加すると電子(電流)が流れ、絶縁体にDC電圧を印加しても電子(電流)が流れない。

しかし、絶縁体にDC電圧(電界)を印加すると、電子は流れないが絶縁体内の電荷の分布に偏りが生じる(この現象を分極と呼ぶ)。すなわち、電極で挟まれた絶縁体の両端に電極電荷とは反対の分極電荷が誘起される(このことから、絶縁体は誘電体とも呼ばれる)。分極電荷により電極電荷が打ち消された分だけ電荷がさらに電極に流入するので、電極で挟まれた誘電体(コンデンサ)はより多くの電気(電荷)を蓄えることができる。誘電体の分極の強弱を表すのに、誘電率が用いられる。

誘電体については、以下を参照

Everyday Physics on Web電気と磁気導体と絶縁体

誘電体測定の基礎

baud(ボー)

デジタル変調に関する翻訳に、baud(ボー)という言葉がよく出てくる(例えば、N4392A光変調アナライザ コンパクト、ポータブル、低価格のp12の「10 Gボーのシンボル・レート」)。

baudは、データ伝送速度の単位で、フランスの電信技術者のJean-Maurice-Emile Baudot(1845-1903) に由来する。

データ伝送速度の単位は、通常はbps(bits per second)であり、1秒間に何ビット伝送できるか(ビット・レート)を表す単位である。baudは、正確には、1秒間に何回変調できるか(変調速度、ボー・レート)を表す単位である。例えば、BPSK(2値位相シフト・キーイング)では1回の変調で1ビットの情報を伝送できるのでbps=baudとなるが、16QAM(16値直交振幅変調)では1回の変調で4ビットの情報を伝送できるのでbps=4×baudとなる。ボー・レートはシンボル・レートと呼ばれることもある。

ボー・レート(シンボル・レート)については、以下を参照

通信システムのディジタル変調入門編のp12~p17

EVM(エラー・ベクトル振幅)

デジタル変調に関する翻訳に、EVMという言葉がよく出てくる(例えば、Agilent MXAシグナル・アナライザ N9073A-1FP W-CDMA測定アプリケーション N9073A-2FP HSDPA/HSUPA測定アプリケーションのp23)。

EVMは、Error Vector Magnitude(エラー・ベクトル振幅) の略で、デジタル変調信号の品質の指標である。

デジタル変調信号は、横軸を搬送波と同じ位相、縦軸を搬送波と直交する位相にとったコンスタレーション図上のシンボル・ポイント(シンボル位置とも呼ばる)で表される。この理想的なシンボル位置と復調器により復調(測定)されたシンボル位置とのずれがエラー・ベクトルで、このエラー・ベクトルの大きさと理想シンボル位置の大きさとの比がエラー・ベクトル振幅(通常%単位で表される)である。

EVM(エラー・ベクトル振幅)については、以下を参照

パーフェクトなディジタル復調測定のための10ステップのp6

FFT(高速フーリエ変換)

信号解析に関する翻訳に、FFTという言葉がよく出てくる(例えば、高速オシロスコープの歪み特性の評価 AgilentとTektronixの比較のp3)。FFTは、Fast Fourier Transform(高速フーリエ変換) の略で、離散フーリエ変換を高速に計算するための算法である。

図1

図1


任意の周期関数は、その基本波周波数ω0とn次高調波周波数nω0のsinとcosの和で表わすこと(フーリエ級数展開)が可能である。このとき基本波周波数ω0を0に近づけて(周期Tを無限大にして)、周波数領域のスペクトラムを連続化することにより、フーリエ変換と逆フーリエ変換の式が得られる。時間領域の連続関数から周波数領域の連続関数に変換することをフーリエ変換といい、その逆を逆フーリエ変換という。
図2

図2


一般に、時間領域で測定(サンプリング)される信号は、離散データ(短い時間間隔Δtで測定されたデータ)なので、これを周波数領域に変換するために、離散フーリエ変換が用いられる(図1)。サンプリング数をNとすると、離散フーリエ変換を計算するのにN×N個の積を計算する必要があるので(図2)、Nが大きいと膨大な時間がかかる。FFTを使用すると、計算回数がNlogN程度に減少するので(図3)、高速に計算できる。
図3

図3