LTSSM(リンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシン)

PCI ExpressやUSB3.0の測定に関する翻訳に、LTSSMという言葉がよく出てくる(例えば、アドイン・カードまたはマザーボードでPCI Express 3.0 CEM仕様に基づいたレシーバ・テストに合格する方法のp22)。

LTSSMは、Link Training Status State Machine(リンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシン)の略で、PCI ExpressやUSB3.0などのシリアル通信バスのリンク・ステート(通常の通信状態、省電力状態など)の管理(初期化、トレーニングによるリンク速度などの調整/最適化、省電力状態から通常状態への復帰など)を行うための状態遷移(ステート・マシーン)を表したものである。

PCI Expressでは、「Detect」(電源オン時やウォーム・リセット時に通信相手がいるかどうかを調べるステート)、「Polling」(通信相手が見つかった後の調整用データを通信するステート)、「Configuration」(通信相手とのリンク構成を決めるステート)、「L0」(通常の通信状態)、「L0s」(省電力状態)、「L1」(省電力状態)、「L2」(省電力状態)、「Recovery」(リンクの再トレーニングを行うステート)、「Hot-Reset 」(ホット・リセットがかかっている状態)、「Disable」(リンク構成を行わないステート)、「Loopback」(試験モードのステート)のステートがある。

USB3.0も、PCI Expressと同様のステートがある。

PCI ExpressのLTSSMについては、以下を参照。

LTSSMの各ステート

USB3.0ののLTSSMについては、以下を参照。

Design and Verification of USB 3.0 Link Layer(LTSSM)(英語PDF)

Allan variance(アラン分散)

周波数安定度測定に関する翻訳で、Allan variance(アラン分散)という言葉がよく出てくる(例えば、周波数カウンタを使用した搬送波信号近傍の位相雑音の測定のp2)。

周波数安定度(周波数変動)の測定手法には、周波数領域で短期周波数安定度を位相雑音(搬送波信号からの特定の周波数オフセットにおける、1 Hz帯域幅当たりの単側波帯パワー)として測定する手法と、時間領域でアラン分散という統計量(周波数のばらつき(変動)の指標)を求めて比較的長い時間の周波数安定度を表す手法がある。Allan(アラン)は、この手法を開発した人の名前である。

時間領域の周波数測定では、周波数カウンタが用いられ、瞬時周波数y(t)ではなく、ゲート時間τで平均化された周波数である

y_k_averaged=(1/τ)∫y(t)dt、積分区間はt_k~t_k+τ

が測定される。

τ秒平均周波数をT秒間隔でN回測定して得られるy_k_averaged(k=1~N)の分散(不偏分散)s^2は、

s^2=(1/(N-1))Σ(y_n_averaged - (1/N)Σy_k_averaged)、最初のΣはn=1~N、2番目のΣはk=1~N

である。この式では、各サンプルy_n_averagedと、測定された全サンプルy_k_averaged(k=1~N)の平均値(1/N)Σy_k_averagedとの差の和を計算するので、測定サンプルに長期的なドリフト(直線的な位相のドリフト、一定の周波数オフセット)が含まれている場合は、発散して値が決まらない。

この問題を解決するために、Allanによって、周波数安定度の時間領域の指標として、以下の式で表される分散が定義された。

σ^2_y(N、T、τ)=<(1/(N-1))Σ(y_n_averaged - (1/N)Σy_k_averaged)>、<x>はxのアンサンブル(標本)平均

この式では、有限の測定時間NTでのN個のサンプルの分散(N標本分散)の期待値(アンサンブル平均)を計算することにより、長期的なドリフトによる発散を避けている。特に、N=2、T=τの場合がアラン分散(2サンプル分散、二標本分散とも呼ばれる)であり、

σ^2_y(τ)=<(y_i+1_averaged - y_i_averaged)^2/2>

となる。アラン分散は、連続する2つの測定(サンプル)値の差の2乗和の計算なので、長期的なドリフトが含まれていても発散しない。

アラン分散については、以下を参照

独立行政法人 情報通信研究機構のホームページ > 資料・データ > 出版物・発行書籍 > 情報通信研究機構研究報告

時間・周波数標準特集 > 2-2 時間・周波数標準の基本的尺度

時空標準特集 > 2-1 時間周波数標準の計測と評価の基礎

TDDB、NBTI、hot carrier injection(ホットキャリア注入)、electro migration(エレクトロ・マイグレーション)

半導体デバイスの信頼性テストに関する翻訳で、TDDB、NBTI、hot carrier injection(ホットキャリア注入)、electro migration(エレクトロ・マイグレーション)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent EasyEXPERTとDesktop EasyEXPERTのp2の表1)。

半導体デバイスの時間経過に対する故障率は、通常、3つの領域(初期故障領域、偶発故障領域、摩耗故障領域)に分類され、バスタブ曲線になる。初期故障は、ウェーハ製造工程でのダストの付着などに起因する故障で通常は最終選別工程までに不良品として取り除かれる。初期故障品が取り除かれた後は、故障率が時間の経過とともに緩やかに減少する領域(バスタブの底)に入る(この期間を偶発故障領域と呼ぶ)。さらに、時間が経過して、半導体デバイスの寿命(耐用年数)近くになると、故障率が増加し始める(この時期以降を摩耗故障領域と呼ぶ)。

摩耗故障の原因として、TDDB、NBTI、hot carrier injection(ホットキャリア注入)、electro migration(エレクトロ・マイグレーション)などがあり、半導体デバイスの寿命を決める重要な現象である。

TDDBは、Time Dependent Dielectric Breakdownの略で、「絶縁膜経時破壊」と訳されることがある。これは、MOS FETのゲート絶縁膜に、絶縁耐圧以下の電界を印加してても、それが長時間に及ぶと絶縁膜が劣化して破壊に至る現象である。

NBTIは、Negative Bias Temperature Instabilityの略で、「負バイアス温度不安定性」と訳されることがある。これは、高温状態で、pMOS FETのゲートに負バイアスが印加されると、しきい値電圧(Vth)やドレイン電流(Id)の特性が低下する現象である。nMOS FETでは、PBTIと呼ばれる。

ホットキャリア注入は、ドレイン電界により加速されて高いエネルギーを持ったキャリア(ホット・キャリア)が、ゲート絶縁膜に注入されて、しきい値電圧(Vth)やドレイン電流(Id)の特性が低下する現象である。

エレクトロ・マイグレーションは、半導体集積回路の金属配線に大電流が流れると、電子と金属原子(AlやCu)の衝突により、原子が移動してボイド(薄膜配線上のくぼみ)が生じ断線に至る現象である。

TDDB、NBTI、ホットキャリア注入、エレクトロ・マイグレーションについては、以下を参照。

SONYのホームページ > 製品・サービス > 法人のお客様 > 半導体 > 品質・信頼性 > 第2章 半導体デバイスの信頼性検証

LTCC

高周波回路測定に関する翻訳で、LTCCという言葉がよく出てくる(例えば、Agilentインピーダンス/ネットワーク解析Application Listのp26)。LTCCは、Low Temperature Co-fired Ceramicsの略で、低温同時焼成セラミックスと訳される。

高周波回路を搭載する基板として、ガラスエポキシ基板、テフロン基板、セラミック基板などがある。ガラスエポキシ基板は、PCのマザーボードやモバイル機器などの民生用に広く使用されていて安価である。テフロン基板は、高周波特性が良好(高周波損失が小さい)だが高価であり、近年、ガラスエポキシ基板でも必要な性能が得られるようになってきたので、民生用にはあまり使われていない。セラミック基板は、高周波損失が小さく、酸化アルミニウム(アルミナ)が原料なので熱伝導率が高い(放熱特性に優れている)が、非常に高価であり、スーパーコンピュータや航空宇宙などの分野での利用に限られている。

LTCC(低温同時焼成セラミックス)基板の「低温」とは、タングステンを導体成分としたセラミック基板(アルミナが主成分)の焼成温度(約1600度)よりも、焼成温度が低い(約900度)ことから、そう呼ばれている。「同時焼結」とは、「導体部分」と「セラミック部分」を同時に焼結して高密度配線、積層化を容易に実現できるという意味である。LTCCでは、焼成温度の低いセラミックの開発により、タングステンより導体損失が小さく融点の低い銀や銅を導体成分として用いて同時焼成できるようになった。LTCCは、当初、銅を導体とすることによる信号の高速伝搬特性を活用してスーパーコンピュータのマザーボード用として実用化されたが、現在では、高密度配線、積層化を容易に実現できることから、小型化の要求の強い携帯電話などのモバイル機器に広く用いられている。

LTCCについては、以下を参照。

公益社団法人 日本セラミック協会のホームページ > セラミック博物館 > セラミックス アーカイブス > 耐熱性・小型化を生かした 自動車用セラミック多層基板・パッケージ

Q factor(Q値)

LCR回路測定に関する翻訳で、Q factor(Q値)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilentインピーダンス/ネットワーク解析Application Listのp8)。Q factorは、Quality factorの略である。

Q値とは、一般に、振動系の共振の鋭さの指標であり、以下のように定義される。

Q=(系に蓄えられているエネルギー)/(1サイクルの間に失われるエネルギー)

ここで例として、直列LCR回路に交流電圧Vを印加して、交流電流Iが流れる場合を考える。直列LCR回路のインピーダンスZは、

Z=R+j(ωL-1/(ωC))

なので、その大きさ|Z|は、

|Z|=√(R^2+(ωL-1/(ωC))^2)

であり、ω=ω0=1/√(LC)のときに最小値(|Z|=R)になる。この状態が共振状態であり、電流の大きさ|I|が最大値(|I|=I0)になる。

直列LCR回路に蓄えられているエネルギーEsは、コンデンサに蓄えられているエネルギーとコイルに蓄えられているエネルギーの和なので、コンデンサにかかる電圧をVcとして、

Es=(1/2)LI^2+(1/2)CVc^2

と表される。Vc=Asin(ωt)とすると、I=C×(dVc/dt)=ωCAcos(ωt)なので、

Es=(1/2)L×ω^2×C^2×A^2×cos^2(ωt)+(1/2)C×A^2×sin^2(ωt)

となる。したがって、共振状態(ω=ω0=1/√(LC))のときに、この回路に蓄えられているエネルギーは、

Es=(1/2)C×A^2  (1)

となる。

また、この回路で、1サイクルの間に失われるエネルギーEdは、抵抗Rで消費される電力×1サイクルの時間(1/ω0)なので、

Ed=R×Irms^2×(1/ω0)=R×(ω^2×C^2×A^2/2)×(1/ω0)=((1/2)×((RC)/(ω0L))×A^2))  (2)

となる。(1)式と(2)式から、Qは、

Q=Es/Ed=ω0L/R=1/(ω0RC)  (3)

となる。

一方、共振の鋭さの指標である、

ω0/(ω2-ω1)、ω1とω2は、電流が最大電流I0の1/√2となるときの周波数

から(3)式を計算することもできる。

計算の概略は、共振回路を流れる電流の大きさ|I|=|V|/|Z|=|V|/√(R^2+(ωL-1/(ωC))^2)とその回路の共振時(ω=ω0=1/√(LC)のとき)の電流の大きさI0=V/Rから、|I|/|I0|=R/√(R^2+(ωL-1/(ωC))^2)であり、ω=ω1、ω2のときに|I|/|I0|=1/√2なので、ω1とω2が求まり、ω1-ω2=R/Lとなり、ω0/(ω2-ω1)を計算すると(3)式になっている。

Q値については、以下を参照。

東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻 牧野泰才氏のページ > 資料 >
Q値