DTF

ハンドヘルド・アナライザに関する翻訳に、DTFという言葉がよく出てくる(例えば、FieldFoxハンドヘルド・アナライザのp3)。DTFは、Distance To Faultの略で、「障害位置検出」と訳されることが多い。

携帯電話の基地局のアンテナは高い塔やビルの上にある場合が多く、送信機とアンテナ間のケーブルは、風雨にさらされ温度/湿度の極端な変化を受けるので劣化しやすい。DTF測定はこのようなアンテナ/ケーブルの障害の調査に使用されることが多い。

アンテナが高い塔の上にある場合は、送信機の出力端子とアンテナの入力端子を接続するケーブルを取り外して、ケーブルの両端で測定するのが難しいので、送信機と接続する側のケーブル端から周波数掃引信号を入力して、ケーブルの途中の劣化箇所(ケーブルの極端な曲がりや亀裂、コネクタの接続不良など)でのインピーダンスの変化に起因する反射波が、反射係数VSWR、リターンロス)として測定される。

得られた反射係数対周波数の測定結果を逆フーリエ変換することにより、時間に対する振幅特性が得られるので、その振幅のピーク位置から、ケーブル内の信号の伝搬速度がわかっていれば、劣化箇所の位置(ケーブル端からの距離)を特定できる。これがDTF測定である。

DTFについては、以下を参照

Techniques for Time Domain Measurements(英語pdf)

Volterra series(Volterra級数)

無線通信のパワーアンプ測定/シミュレーションに関する翻訳で、Volterra series(Volterra級数)という言葉がよく出てくる(例えば、パワーアンプ・テスト用 Signal Studio N7614Bのp2)。

携帯電話やスマートフォンなどのモバイル無線機器の基地局でされているパワーアンプは、高い電力変換効率と同時に隣接チャネルへの不要な歪み成分の漏洩を防ぐために高い線形性が求められる。このために、デジタル・プリディストーションと呼ばれる手法が用いられている。デジタル・プリディストーションでは、通常、パワーアンプに入力される信号の瞬時電力に基づいて、歪み補償テーブルを参照してパワーアンプの非線形特性の逆特性をパワーアンプ入力の直前の信号に適用して、パワーアンプの入力信号と出力信号の関係を線形化する。しかし、パワーアンプには、瞬時電力に基づいた歪みだけでなく、メモリ効果と呼ばれる歪み(過去の入力信号の履歴に依存する歪み)が存在する。このメモリ効果による歪みを打ち消すためには、パワーアンプの入力信号と出力信号の間のメモリ効果に起因した非線形性をモデル化する必要があり、その手法の内の1つとしてVolterra級数展開と呼ばれるものがある。これは、パワーアンプ内の素子や回路などの物理/電気特性の詳細が分からなくても、メモリ効果が含まれる非線形性を表わすことのできる数学的なモデルであるが、正確なモデルにするためには、級数の次数が大きくなり、その係数の決定に時間がかかったり、逆特性の適用の際に計算コストがかかるという欠点がある。

Volterra級数展開は、線形性(重ね合わせの原理が成り立つ)、時不変性(時刻が異なっても入力と出力の関係が同じ)、因果律(時刻nにおけるシステムの出力y[n]は、過去の入力x[n]、x[n-1]、…のみに依存、メモリ効果あり)を満たすシステムに対する畳み込み演算を、以下のように非線形システムに対して拡張したものである。

メモリ効果なしの線形システム(ここでは線形増幅器)では、出力信号y(t)は、入力信号の瞬時値x(t)のみに依存し、リニア利得(比例係数)hを用いて、以下のように表される。

y(t)=h・x(t)、・は掛け算を表わす記号 (1)

メモリ効果ありの線形増幅器では、出力信号y(t)は、過去(0≦τ≦t)の入力x(t-τ)のすべてに、インパルス応答である重み関数h(τ)を掛けて足し合わせること(畳み込み積分すること)により、以下のように表される。

y(t)=∫h(τ)x(t-τ)dτ (2)

メモリ効果なしの非線形増幅器では、出力信号y(t)は、(1)式を拡張して、以下のようにTaylor級数展開で表される。

y(t)=h1・x(t)+h2・x(t)^2+…+hn・x(t)^n、^は累乗を表わす記号

メモリ効果ありの非線形増幅器では、出力信号y(t)は、(2)式を拡張して、以下のようにVolterra級数展開で表される。

y(t)=∫h1(τ)x(t-τ1)dτ1+∫∫h2(τ1、τ2)x(t-τ1)x(t-τ2)dτ1dτ2+…+
   ∫…∫hn(τ1、τ2、…τn)x(t-τ1)x(t-τ2)…x(t-τn)dτ1dτ2…dτn

Volterra級数については、以下を参照。

Volterra Series:Introduction & Application(英語pdf)

UWB radar(UWBレーダー)

レーダー測定に関する翻訳で、UWB radar(UWBレーダー)という言葉がよく出てくる(例えば、レーダー/EW/ELINTテスト:一般的なテスト上の問題の特定のp16)。

UWBは、Ultra WideBand(超広帯域無線)の略で、パルス幅が非常に短く(1ns以下)ピーク出力の大きなスパイク状の波形(インパルス)をパルス列としてそのまま送受信する無線通信方式である。時間領域で短くて鋭いインパルスは、周波数領域では振幅が非常に小さく極めて広いスペクトラム(超広帯域)を持つので、他の通信との混信が少なく、消費電力も小さくなる。

radarは、RAdio Detecting and Ranging(電波探知および測距)の略で、ターゲットに電波を発射して、その反射波を測定することにより、ターゲットの方向や距離を測定する装置である。

UWBレーダーは、非常に短いパルス幅の(したがって、極めて広いスペクトラムを持つ)信号を使用するので、高い距離分解能が得られる。しかし、パルス幅が非常に短く(すなわち、平均電力が極めて小さく)、広帯域(すなわち、熱雑音(帯域幅Bに比例するkTB雑音)レベルが大きい)なので、S/Nが悪くなり遠距離探知には向かいない。

しかし、近年、合成開口レーダーで使用されている従来の可視化アルゴリズムの速度(ポスト処理が必要)と精度(半波長程度)に比べて、高速に(実時間で)高解像度(1/100波長程度)が得られるアルゴリズムが開発され、乳がん検査レーダー、自動車の衝突防止レーダー、道路/橋/トンネルなどの非破壊検査レーダー、建物/部屋への不正侵入者監視レーダー、土砂などに埋もれた生存者検知レーダーなどの、近距離イメージング用途の開発が活発化している。

UWBレーダーについては、以下を参照。

UWBレーダによる身体的負担が低く安価でがんの早期発見が可能な乳がん検査装置

兵庫県立大学 大学院工学研究科 電子情報工学専攻 阪本 卓也 准教授のホームページ > 論文,会議資料 > [Proceedings for Domestic Conferences] > 30.関 鷹人, 木寺正平, 阪本卓也, 佐藤 亨, “UWBパルスレーダのための高速画像化手法の複雑形状物体への適用,”電子情報通信学会,アンテナ・伝播研究会(AP), AP2006-69, vol. 106, no. 232, pp. 1-6, 大橋会館(池尻大橋,東京), Sep. 2006. [PDF]