FDTD(時間領域差分法)

電磁界シミュレーションに関する翻訳に、FDTD(時間領域差分)法という言葉がよく出てくる(例えば、EMPro 3次元電磁界モデリング/シミュレーション環境とADSデザインフローの統合)。

電磁界シミュレーションの手法には、大きく3つの手法(有限要素法モーメント法、FDTD法)がある。FDTDは、Finite Difference Time Domain(時間領域差分)の略で、電磁界現象の支配方程式(基礎方程式)であるマクスウェルの方程式を差分化(Finite Difference)して、時間領域(Time Domain)で解く手法である。

簡単のために、真空中を電磁波が伝搬する場合を考える。この場合は、マックスウェル方程式は、E=(Ex、Ey、Ez)を電界ベクトル、H=(Hx、Hy、Hz)を磁界ベクトル、ε0を真空の誘電率、μ0を真空の透磁率、∇=(∂/∂x、∂/∂y、∂/∂z)、×を外積の記号として、

∂E/∂t=(1/ε0)∇×H
∂H/∂t=-(1/μ0)∇×E

と書ける。さらに、簡単にするために、1次元方向(z軸方向)のみの伝搬を考えると、上の式は、

∂Ex/∂t=-(1/ε0)∂Hy/∂z
∂Hy/∂t=-(1/μ0)∂Ex/∂z

となる。この2つの式は、x方向に振動する電界Exとy方向に振動する磁界Hyがあり、振動する電界が振動する磁界を誘起し、振動する磁界が振動する電界を誘起するというプロセスを繰り返しながら、平面波がz方向に伝搬していることを表している。

以降の式の表記を簡単にするために、改めて、ExをE、HyをHと表記すると、

∂E/∂t=-(1/ε0)∂H/∂z
∂H/∂t=-(1/μ0)∂H/∂z

となる、この連続系の連立微分方程式を、時間tと空間zの両方で中心差分近似を行って(Δtを時間ステップ、nを時間を離散化したときの時刻を表わすインデックス、kを空間zを離散化したときの位置を表わすインデックスとして)離散化すると、

(E_k^(n+1/2)-E_k^(n-1/2))/Δt=-(1/ε0)((H_(k+1/2)^n-H_(k-1/2)^n)/Δz (1)
(H_(k+1/2)^(n+1)-H_(k+1/2)^n)/Δt=-(1/μ0)((E_(k+1)^(n+1/2)-E_k^(n+1/2))/Δz (2)

となる。(1)式の左辺は、時刻nΔtにおけるEの時間微分を、時刻(n+1/2)Δtと時刻(n-1/2)ΔtにおけるEの値を用いた中心差分で表している。(1)式の右辺は、位置kΔzにおけるHの空間微分を、位置(k+1/2)Δzと位置(n-1/2)ΔzにおけるHの値を用いた中心差分で表している。(2)式も同様である。

(1)式と(2)式の連立差分方程式を、以下のように変形して、

E_k^(n+1/2)=E_k^(n-1/2)+(Δt/ε0Δz)((H_(k-1/2)^n-H_(k+1/2)^n))
H_(k+1/2)^(n+1)=H_(k+1/2)^n)+(Δt/μ0Δz)((E_(k)^(n+1/2)-E_(k+1)^(n+1/2))

EとHについて交互に計算することにより、磁界と電界の時間変化を計算する手法がFDTD法である。

マクスウェル方程式については、以下を参照

電磁気学

FDTD法については、以下を参照

富山大学 工学部 電気電子システム工学科 波動通信工学研究室のホームページ > 学習用 基本 FDTD(有限差分時間領域法)コード (MATLAB 版) および解説(日本語)の1D_basic_matlab_document_J (PDF in Japanese)
The Finite-Difference Time-Domain Method (FDTD)(英語pdf)

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