current collapse(電流コラプス)

半導体デバイス測定に関する翻訳で、current collapse(電流コラプス)という言葉が出てくる(例えば、B1505Aパワーデバイス・アナライザ/カーブトレーサのp2)。

近年、二酸化炭素の排出削減による地球温暖化の緩和や原子力発電所停止に伴う電力不足の解消のために、電車、電気自動車、太陽光発電などの大電力の制御に使用されている電力変換器(インバータ)の高効率化(低損失化)の要求が高まっている。このような電力変換器に使用されているパワー半導体としては、Si(シリコン)を材料にしたIGBTがある。さらなる、高出力、高効率、高耐圧動作が可能な半導体デバイスとして、GaN(窒化ガリウム)が注目されている。

GaNパワー半導体は、ワイドバンドギャップ半導体と呼ばれ、Si半導体に比べてバンドギャップ幅が約3倍広いので(価電子帯から伝導帯への熱励起が生じ難いので)、高温でもデバイス性能が劣化せず、冷却装置が不要/簡素化できる可能性がある。また、GaNとAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)を組み合わせてヘテロ構造を形成すると、AlGaNの格子定数がGaNのものより小さいために、ヘテロ接合界面で格子定数を合わせようとして歪みが発生し圧電効果によりピエゾ分極(分極電荷)が生じ、2次元電子ガス層が誘起される。この2次元電子ガス層とは、移動度の高い自由電子が極めて薄い層に広がっている状態で、これにより、オン抵抗が低く(高効率)、高速動作(高周波動作)が可能になる。

一方、AlGaN/GaN HEMT(High Electron Mobility Transistor、高電子移動度トランジスタ)には、高電圧を印加するとドレイン電流が減少する(高電圧で動作させるとオン抵抗が大きくなる)という問題がある。これが、電流コラプスと呼ばれる現象である。電流コラプスが生じると高効率という利点が損なわれる。電流コラプスは、2次元電子ガス層の電子が高い電圧で加速されると、ポテンシャル障壁を超えてAlGaNの表面欠陥準位に捕獲され、AlGaN層が負に帯電することにより、その直下の2次元電子ガスのチャネル内の電子が空乏化され(電気伝導を担う電子が遠ざけられ)、その結果、チャネル抵抗が高くなりドレイン電流が減少することが原因と考えられている。

GaN半導体については、以下を参照。

トランジスタ入門の4.GaNヘテロ接合電界効果トランジスタ

2次元電子ガス層の形成については、以下を参照。

福井大学審査学位論文 [博士(工学)] 窒化物半導体トランジスタの高温動作に関する研究(平成26年3月 畑野 舞子)の2-2-1 AlGaN/GaNヘテロ接合

電流コラプスについては、以下を参照。

国立研究開発法人 産業技術総合研究所のホームページ > エネルギー・環境 > 先進パワーエレクトロニクス研究センター > 先進パワーエレクトロニクス研究センターWEBサイト > 過去のホームページ > エネルギー半導体エレクトロニクス研究ラボ > 研究内容 > GaNパワーデバイス研究班 > 研究内容・成果等

doping profile(ドーピング・プロファイル)

半導体測定に関する翻訳に、doping profile(ドーピング・プロファイル)という言葉がよく出てくる(例えば、B1505Aパワーデバイス・アナライザ/カーブトレーサのp5)。

CPUやメモリなどのLSIには、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor、金属酸化膜半導体)構造のトランジスタ(MOSFET、FETはField Effect Transistor(電界効果トランジスタ)の略)がスイッチング素子として使われている。MOSFETのゲートに電圧(電界)を印加するか、しないかによる、ソース-ドレイン間の電流のオン/オフ制御(スイッチ)を利用して、論理回路が形成されている。

LSIの製造では、単結晶のp型Si(シリコン)インゴットをスライスして研磨したウェーハ(p型基板)上に酸化膜を形成し、その上にフォトレジスト(感光材)を塗布し、LSIの回路パターンの原版であるフォトマスクを重ねた後、焼き付けてパターンを転写し、現像、エッチングしてマスクに覆われていなかった部分の酸化膜を除去する(リソグラフィーと呼ばれる)。その後、除去した部分にn型半導体であるソースとドレインを形成するために、不純物となるAs(ヒ素)やP(りん)などのイオンを注入する。この不純物を注入するプロセスがドーピングと呼ばれる。

イオン注入法による不純物ドーピングは、不純物原子をイオン化し、加速してウェーハに打ち込むので、ウェーハ表面の結晶構造が壊れて半導体としての電気的な性質が失われてしまう。この壊れた結晶構造を元に戻し、不純物原子を結晶の格子位置に正しく配置してキャリアを出せる状態(活性化状態)にするために熱処理(アニーリング)が行われる。このアニーリングにより、不純物が熱拡散して深い層まで達するので、ごく浅い層へのn型半導体の形成が困難になる。近年のLSIの大規模化、微細化により、このような不純物濃度の分布を測定することが重要になっている。ドーピング・プロファイルとは、ウェーハ表面から深さ方向への不純物濃度の分布のことである。ドーピング・プロファイルは、拡がり抵抗法(例えば、これ)やC-V測定法(例えば、これ)などの電気的な測定から得ることができる。

CMOS LSIの製造プロセスについては、以下を参照

株式会社ニコン 半導体装置事業部のホームページ > 半導体テクノロジー > 2. 精密で多機能な半導体ができるまで