Poincare Sphere(ポアンカレ球)

偏波測定に関する翻訳に、Poincare Sphere(ポアンカレ球)という言葉がよく出てくる。

偏光状態の波がz軸方向に進行していて、z軸に垂直な平面内にx軸とy軸をとると、任意の偏光状態の光の電場の振動ベクトルEは、以下のように、x軸とy軸に射影した2つの成分(ExとEy)で書けた(ストークス・パラメータを参照)。

Ex=Axcos(ωt-kz+δx)=Axcos(ωt-Ψx)   (1a)

Ey=Aycos(ωt-kz+δy)=Aycos(ωt-Ψy)   (1b)

上の式から、三角関数の加法定理を用いてωt-kzを消去すると、

(Ex/Ax)^2-2(Ex/Ax)(Ey/Ay)cosδ+(Ey/Ay)^2=sin^2(δ)、δ=δy-δx

となる。これは、光の伝搬方向から見た電場ベクトルの先端の軌跡を表したもので、楕円である。

また、楕円の長径方向とx軸との角度(方位角)がχの場合に、長径方向にx’軸、短径方向にy’軸をとると、楕円(ベクトルEをx’軸とy’軸に射影した2つの成分)は、楕円率(楕円の長径aと短径bの比、tanΦ=b/a)を用いて、

Ex’=AcosΦcosωt

Ey’=-AsinΦsinωt

のようにパラメータ表示できる。

ベクトルE’(Ex’、Ey’)を角度χ、回転させると、ベクトルE(Ex、Ey)になるので、角度χの回転を表わす行列

R(χ)=cosχ -sinχ
    sinχ  cosχ

を用いて、

(Ex、Ey)=R(χ)(Ex’、Ey’)=(A(cosχcosΦcosωt+sinχsinΦsinωt)、A(sinχcosΦcosωt-cosχsinΦsinωt))

と書ける。これと上の(1a)、(1b)式を比較することにより、

AxcosΨx=AcosχcosΦ

AxsinΨx=AsinχsinΦ

AycosΨy=AsinχcosΦ

AysinΨy=-AcosχsinΦ

が得られる。これらの式から、A、Φ、χについて解くことができて、ストークス・パラメータは、以下のようになる。

S1=Ax^2+Ay^2=A^2

S2=Ax^2-Ay^2=A^2cos2Φcos2χ

S3=2AxAycosδ=A^2cos2Φsin2χ

S4=2AxAysinδ=A^2sin2Φ

(δ=Ψy-Ψx=δy-δx)

上の4つのストークス・パラメータの間には、

S1^2=S2^2+S3^2+S4^2

の関係があり、直交座標(S2、S3、S4)で半径S1の球を表したものになっている。また、極座標(S1、2Φ、2χ)で球を表したものでもある。すなわち、半径S1の球上の任意の点(偏光状態)が、楕円(電場ベクトルの先端の軌跡)の大きさS1=A^2、方位角2χ、楕円率2Φで指定できる。これがポアンカレ球であり、ストークス・パラメータと偏光の関係を視覚的に表わすことができる。

ポアンカレ球については、以下を参照

POLARIZATION AND STOKES PARAMETERS

Stokes parameters(ストークス・パラメータ)

偏波測定に関する翻訳に、Stokes parameters(ストークス・パラメータ)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent 8509C光偏波アナライザ ユーザーズ /リファレンス・ガイドのp2-5)。

光は電磁波の一種である。電磁波は、振動する電場と磁場の方向が波の進行方向と垂直な横波であり、電場の振動方向と磁場の振動方向も垂直である(電荷と電流がない真空でのMaxwell方程式を解くことにより示される)。電場の振動方向と磁場の振動方向は垂直なので、これ以降は、電場の振動方向だけを考える。

電場の振動方向は、光波の進行方向に垂直であればよいので、進行方向に対して垂直な平面内のさまざまな方向をとることができる。このとき、振動方向が特定の向きに偏っている波が偏光(偏波)状態の波である。

偏光状態の波がz軸方向に進行していて、z軸に垂直な平面内にx軸とy軸をとると、任意の偏光状態の光の電場の振動ベクトルEは、以下のように、x軸とy軸に射影した2つの成分(ExとEy)で書ける。

Ex=Axcos(ωt-kz+δx)=Axcos(ωt-Ψx)

Ey=Aycos(ωt-kz+δy)=Aycos(ωt-Ψy)

(E(θ)=Axcosθ+Aysinθ、θは電場ベクトルEとx軸のなす角)

ここで、ωは光の振動数、kは光の波数、δx、δyは初期位相、Ax、ΨxはEのx成分(Ex)の振幅と位相、Ay、ΨyはEのy成分(Ey)の振幅と位相である。

ストークス・パラメータとは、上の2つの式から、以下のように定義された4つのパラメータである。

S1=<Ax^2>+<Ay^2>

S2=<Ax^2>-<Ay^2>

S3=<2AxAycosδ>

S4=<2AxAysinδ>

ここで、<…>は時間平均、δ=Ψy-Ψx=δy-δxは位相差である。

電場の水平成分Exの振幅Axの2乗の時間平均である<Ax^2>は、水平成分の強度を表わし、垂直成分Eyの振幅Ayの2乗の時間平均である<Ay^2>は、垂直成分の強度を表わすので、

S1は全体の強度、S2は水平成分と垂直成分の強度の差である。

また、θ方向の強度I(θ)は、

I(θ)=|E(θ)|^2
=(計算は省略)
=(<Ax^2>+<Ay^2>)/2+((<Ax^2>-<Ay^2>)/2)cos2θ+√(<Ax^2>)√(<Ay^2>)sin2θcosδ   (1)

と計算でき、この式にθ=π/4を代入した式とθ=-π/4を代入した式の差をとると、

I(π/4)-I(-π/4)=2√(<Ax^2>)√(<Ay^2>)cosδ

となるので、S3はπ/4(=45度)成分と-π/4(-45度)成分の強度の差である。

さらに、θ方向の強度を位相差δも考慮して、上の(1)式をI(θ、δ)と書き、上と同様に、θ=π/4とδ=δ-π/2を代入した式とθ=-π/4とδ=δ-π/2を代入した式の差をとると、

I(π/4、δ-π/2)-I(-π/4、δ-π/2)=2√(<Ax^2>)√(<Ay^2>)sinδ   (2)

となる。I(π/4、δ-π/2)は、入射光を45度傾けた直線偏光子に通して直線偏光の光だけを取り出し、それをさらに1/4波長板に通すことにより円偏光に変換する操作を表しているので、(2)式、すなわちS4は、右回り円偏光と左回り円偏光の強度の差である。

以上から、元の電場の振幅Ex、Eyと位相差δを直接測定するのは難しいが、ストークス・パラメータはいずれも、強度の次元を持つ量であり、直線偏光子と1/4波長板があれば、簡単に測定でき、ストークス・パラメータから偏光の状態を一意に決定できる。

偏光についての全般的な説明は、以下を参照

FNの高校物理(分野別目次) > (2)波・音・光 > 偏光とは何か(光の強度と偏光)

ストークス・パラメータについては、以下を参照。

偏波とストークスパラメータについて

1/4波長板と円偏光については、以下を参照。

電脳工作室(CyberWorkShop) > essay > Opto-electronics circuit(part 1)(オプトエレクトロニクス回路、前編)

chromatic dispersion(波長分散)

光ファイバ測定に関する翻訳に、chromatic dispersion(波長分散)という言葉がよく出てくる。

光ファイバは、屈折率が大きなコア部を、それより屈折率がやや小さなクラッド部で包み込んだ構造を持ち、コアとクラッドの境界面で全反射しながら光がコア内を伝搬する。光ファイバには、基本モードのみの光波が伝搬するシングルモード光ファイバと複数のモードの光波が伝搬するマルチモード光ファイバがある。

光ファイバにおける分散とは、光ファイバに入力されたパルス波形が、伝送路(光ファイバ内)を伝搬する間に、時間的にパルス波形の幅が広がる現象である。これにより、隣接パルスとの符号間干渉が生じ通信エラーの原因になる。

光ファイバの分散には、波長分散(光ファイバ内の光波の伝搬速度が波長に依存することに起因)、偏波モード分散(コアの真円からのずれ、応力による僅かな変形、不純物などにより、直交する2つの偏波モードで屈折率が異なること(複屈折)に起因)、マルチモード光ファイバのみに存在する多モード分散(伝搬するモードにより伝搬する距離が異なり、到達時間がずれることに起因)がある。

波長分散には、材料分散と構造分散がある。材料分散は、コアの材料(石英ガラス)の屈折率が波長に依存するために、波長毎に伝搬速度が異なり分散が生じること(基本モードで伝搬するシングルモード光ファイバ内の光波は厳密な単一波長ではなくわずかな拡がりを持っていて、材料分散の影響を受ける)である。構造分散は、導波路分散とも呼ばれ、光がコアとクラッドの境界面で全反射しながらコア内を伝搬する際に、波長の大きな光の方がクラッドへの染み出しが大きくなり、結果として伝搬経路が長くなり、分散が生じることである。

光ファイバの波長分散については、以下を参照。

光ファイバの波長分散とその補償技術