偏波測定に関する翻訳に、Stokes parameters(ストークス・パラメータ)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent 8509C光偏波アナライザ ユーザーズ /リファレンス・ガイドのp2-5)。
光は電磁波の一種である。電磁波は、振動する電場と磁場の方向が波の進行方向と垂直な横波であり、電場の振動方向と磁場の振動方向も垂直である(電荷と電流がない真空でのMaxwell方程式を解くことにより示される)。電場の振動方向と磁場の振動方向は垂直なので、これ以降は、電場の振動方向だけを考える。
電場の振動方向は、光波の進行方向に垂直であればよいので、進行方向に対して垂直な平面内のさまざまな方向をとることができる。このとき、振動方向が特定の向きに偏っている波が偏光(偏波)状態の波である。
偏光状態の波がz軸方向に進行していて、z軸に垂直な平面内にx軸とy軸をとると、任意の偏光状態の光の電場の振動ベクトルEは、以下のように、x軸とy軸に射影した2つの成分(ExとEy)で書ける。
Ex=Axcos(ωt-kz+δx)=Axcos(ωt-Ψx)
Ey=Aycos(ωt-kz+δy)=Aycos(ωt-Ψy)
(E(θ)=Axcosθ+Aysinθ、θは電場ベクトルEとx軸のなす角)
ここで、ωは光の振動数、kは光の波数、δx、δyは初期位相、Ax、ΨxはEのx成分(Ex)の振幅と位相、Ay、ΨyはEのy成分(Ey)の振幅と位相である。
ストークス・パラメータとは、上の2つの式から、以下のように定義された4つのパラメータである。
S1=<Ax^2>+<Ay^2>
S2=<Ax^2>-<Ay^2>
S3=<2AxAycosδ>
S4=<2AxAysinδ>
ここで、<…>は時間平均、δ=Ψy-Ψx=δy-δxは位相差である。
電場の水平成分Exの振幅Axの2乗の時間平均である<Ax^2>は、水平成分の強度を表わし、垂直成分Eyの振幅Ayの2乗の時間平均である<Ay^2>は、垂直成分の強度を表わすので、
S1は全体の強度、S2は水平成分と垂直成分の強度の差である。
また、θ方向の強度I(θ)は、
I(θ)=|E(θ)|^2
=(計算は省略)
=(<Ax^2>+<Ay^2>)/2+((<Ax^2>-<Ay^2>)/2)cos2θ+√(<Ax^2>)√(<Ay^2>)sin2θcosδ (1)
と計算でき、この式にθ=π/4を代入した式とθ=-π/4を代入した式の差をとると、
I(π/4)-I(-π/4)=2√(<Ax^2>)√(<Ay^2>)cosδ
となるので、S3はπ/4(=45度)成分と-π/4(-45度)成分の強度の差である。
さらに、θ方向の強度を位相差δも考慮して、上の(1)式をI(θ、δ)と書き、上と同様に、θ=π/4とδ=δ-π/2を代入した式とθ=-π/4とδ=δ-π/2を代入した式の差をとると、
I(π/4、δ-π/2)-I(-π/4、δ-π/2)=2√(<Ax^2>)√(<Ay^2>)sinδ (2)
となる。I(π/4、δ-π/2)は、入射光を45度傾けた直線偏光子に通して直線偏光の光だけを取り出し、それをさらに1/4波長板に通すことにより円偏光に変換する操作を表しているので、(2)式、すなわちS4は、右回り円偏光と左回り円偏光の強度の差である。
以上から、元の電場の振幅Ex、Eyと位相差δを直接測定するのは難しいが、ストークス・パラメータはいずれも、強度の次元を持つ量であり、直線偏光子と1/4波長板があれば、簡単に測定でき、ストークス・パラメータから偏光の状態を一意に決定できる。
偏光についての全般的な説明は、以下を参照
FNの高校物理(分野別目次) > (2)波・音・光 > 偏光とは何か(光の強度と偏光)
ストークス・パラメータについては、以下を参照。
1/4波長板と円偏光については、以下を参照。
電脳工作室(CyberWorkShop) > essay > Opto-electronics circuit(part 1)(オプトエレクトロニクス回路、前編)